ワクチンで心筋炎の発症率に差、若い男性多く

接種後、心筋炎の症例   ワクチンで発症率に差、若い男性多く

新型コロナウイルスワクチンの接種後、心筋炎とみられる症状がごくまれに出ることへの対応が国内外で相次ぐ。

米モデルナ製で報告が多く、接種を一部制限した国もある。

接種と心筋炎の因果関係は不明だが、コロナに感染した方が発症頻度は高い。

専門家はリスクよりも接種のメリットの方が大きいという。

 

心筋炎は一般に、細菌やウイルスの感染によって起きる。

胸の痛みや心不全の兆候、息切れなどが生じるが、1~2週間程度で回復する場合が多い。

ファイザー製やモデルナ製のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンを接種した後、心筋炎や心臓の膜に炎症が起きる「心膜炎」とみられる症状がまれに出ることは以前から報告されていた。

接種者が増え、より詳細な実態が見えてきた。

 

報告をみると、若い男性で心筋炎などの発症が比較的多い傾向がある。

国内では10月3日までの報告によると、ファイザー製を2回接種した20代男性では100万回接種あたり10.7件、30代男性では同2.0件だった。

一方、50代男性では同0.4件、60代男性では同1.0件にとどまる。

男女差をみると、20代女性では同0.5件、30代女性では同0.8件といずれも同年代の男性の方が多く発症している。

 

モデルナ製で多く

モデルナ製の方がファイザー製よりも心筋炎の報告数は多い。

モデルナ製の2回目接種後の報告は10代男性で100万回接種あたり43.2件、20代男性で同31.5件。

それぞれファイザー製接種後の同2.9件、同10.7件を上回る。

 

海外でも心筋炎などの報告がある。米疾病対策センター(CDC)によると8月18日までの報告で、2回接種後から7日以内における発症頻度は、18~24歳男性ではモデルナ製で100万回接種あたり37.7件とファイザー製(同37.1件)と同程度だった。

ただ25~29歳男性ではモデルナ製で同14.9件とファイザー製の同11.1件より多い。

 

北欧では心筋炎のリスクを踏まえ、モデルナ製の接種を制限する国がでている。

スウェーデンは6日、30歳以下へのモデルナ製の使用を中断すると発表した。

フィンランドも30歳未満の男性への接種の中断を表明している。

 

日本では15日、1回目にモデルナ製を接種した10~20代の男性が、2回目にファイザー製を選べるとの方針を厚生労働省が示した。

同日に開かれた専門部会では、ファイザー製の接種を同年代の男性に推奨する案が諮られたが、合意には達しなかった。

ワクチンに優劣があるとの誤った認識が広がる恐れを指摘する意見などが出たという。

 

因果関係は不明

mRNAワクチンの接種と心筋炎との因果関係や、モデルナ製の接種後の方が発症頻度が高い理由などはよく分かってないのが実態だ。

専門家の間では免疫反応との関連などを指摘する声もあるが、今後の詳しい研究が待たれる。

 

ただ新型コロナに感染した場合、接種後よりも心筋炎などの症状がより多く報告されている。

厚労省によると、感染して入院した国内の15~39歳男性では、100万人あたり834人と高い頻度で心筋炎などの疑いがある報告があった。

 

接種後の心筋炎は多くが軽症だ。

イスラエルで2020年12月~21年5月に約510万人を対象にした研究報告では、接種後に心筋炎または心筋炎と推定された136件のうち、129件は軽度の症状だった。

佐賀大学医学部教授の野出孝一さんは「基本的には接種によって得られるメリットの方が大きい」と話す。

 

接種後に症状が出た場合はどうするか。

厚労省は接種から4日ほどの間、胸の痛みや息切れ、動悸(どうき)やむくみなどが出た際には、速やかに医療機関を受診するように呼びかけている。

 

研究が進むにつれ、心筋炎を巡り新たな事実が判明する可能性もある。

ワクチン接種後に心筋炎を発症する可能性は若者でもゼロではない。

症状が出た際は早期に受診し、医療機関も引き続き心筋炎を念頭においた診療を行うことが重要だ。

 

参考・引用一部改変

日経新聞・朝刊 2021.10.25