新型コロナ「後遺症も労災に」

新型コロナ「後遺症も労災に」 対象拡大で申請数4倍

会社員などが新型コロナウイルスに感染した場合に、労働者災害補償保険労災保険)の給付が認められる対象が広がっている。
厚生労働省は2月と5月の2回にわたり、全国の労働局に「後遺症も労災保険の給付対象」と認める方針を伝えた。
医療現場でも、後遺症に悩む患者へ労災申請を勧める動きが出始めた。
4月には、コロナに関する労災の申請数が前年同月比で4倍以上の8098件と急増。
コロナに労災で対応する動きが定着しつつある。

*医師が労災申請を後押し
「最近診察した製造業の非正規社員の男性は、コロナ後遺症の倦怠感に苦しんでいた。職場感染は明らかで生活も苦しそうだったため、労災保険の申請を勧めた」

コロナ後遺症外来を設けている新潟県内の、ある病院院長は話す。
厚労省が2月にコロナ後遺症も労災保険の給付対象とする通達を出したことを受け、労災申請を勧めやすくなったという。
通達は「感染性が消失した後も症状が持続する場合があり、労災保険の給付対象となることに留意すること」と強調。
5月にも同様の通達を再び出し、方針の周知を図ろうとしている。

労災の認定には、業務中の疾病であることを意味する「業務遂行性」と、原因が業務自体にある「業務起因性」の2要件が必要となる。
新型コロナの場合、業務のどの段階で感染したかの証明や、後遺症の判別が難しい課題があった。

また、細菌やウイルスなどに感染した場合については労働基準法施行規則の別表に対象疾病が列挙されていたが、主に想定していたのは医師や看護師の院内感染だった。
サラリーマンが新型コロナに感染した場合に労災の対象になるかは判然としていなかった。
こうした課題に厚労省は2020年に「感染経路が特定できない場合でも業務が原因である可能性が高い感染を支給対象とする」などの対応方針を示した。
ただ後遺症については最近まで明確な統一基準がなかった。

厚労省は今回、後遺症を「感染性が消失したにもかかわらず他に原因がなく、急性期から持続する症状」などとした。
倦怠感、関節痛、せき、記憶障害、集中力低下、味覚障害などの症状を対象とする。

業務上の感染リスクなど重視
労働基準監督署の認定実務では、「感染リスクが高い業務か」「労基署の調査で私生活での感染可能性が低いか」「医学の専門家の見解はどうか」などが重視される。
後遺症の場合も、感染時の状況に立ち返って同様に判定が進むとみられる。

ただ後遺症は自覚症状が中心だ。
自宅療養で医師の診察を受ける機会がなかった患者も多い。
医師は時間をかけて丁寧に問診し、判断する必要がある。

一度休業補償給付を受け、退院で中止になった人が後遺症を理由に再申請する例も増えそうだ。
労災に詳しい川人博弁護士は「陰性でも後遺症があれば補償対象にする運用を徹底してほしい」と注文を付ける。

新通達で、新型コロナに関する労災の使い勝手が向上した。
また同省は労災保険の計算方法に特例を設け、コロナ関連の労災が認められても企業の保険料負担が増えないようにする仕組みも整えた。
コロナにかかった労働者が労災の手続きを進めるのに企業が協力しやすくなり、申請数の増加を後押ししたとみられる。

労災申請、4月は8000件超え
厚労省によるとコロナ関連の労災申請数は1月に582件だったが、2月以降急増。3月に5934件と過去最高を更新し、4月は初めて8千件を超えた。4月の単月だけで、2021年度の合計申請数の約3分の1を占める多さだ。

新型コロナに関する労災が認められた場合、これまでは医療費の支給や休業中の賃金の80%が支払われる休業補償が多かった。
新たに後遺症にも対象が拡大したことで、障害の程度に応じて額が決まる障害補償一時金や障害補償年金の支給が認められる例が増える可能性がある。

コロナ下での生活維持や経済回復につなげるためにも、労使ともに労災の積極的な活用が有効になる。

参考・引用一部改変 
日経新聞・朝刊 2022.5.23