虚血性大腸炎

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「水上を走る謎のバシリスク
出典 週刊文春 2008.5.22
版権 文芸春秋社

虚血性大腸炎という名前の病気を聞いたことがありますか?
突然の腹痛、下血、場合によっては下痢が特徴です。
虚血という名前から高齢者に多いようなイメージがありますが、実は便秘がちな若い女性にもみられるのです。
典型的なのは左下腹部の腹痛で出血は新鮮血です。

感染でなく、動脈硬化や便秘から生じ、潰瘍や壊死にも至る意外な病気。

腸炎といえば、赤痢やO157腸炎のようにバイ菌の感染性疾患と思われ
がちだ。
ところがその原因は多様で、心筋梗塞脳梗塞と同じ仕組みで起こる場合も
ある。
これが”虚血性大腸炎”。
高齢社会下ではぜひ知っておきたい。
女性必見の情報でもある。
「なじみの薄い病名かもしれませんが、昔からある病気です。狭心症心筋梗塞
を総称する虚血性心疾患は、心臓に血液を供給する血管(冠動脈)に動脈硬化が生じ、
一部が狭まるか詰まって、血行不良になった状態。
脳血管が詰まる脳梗塞も同じメカニズムで生じ、発生部位周辺の組織までダメージを
受けます。大腸でも同じことが起きるのです」と、NTT東日本関東病院の古嶋薫外科
主任医長は説く。
「大腸内壁の粘膜を走っている血管に動脈硬化のため狭窄や詰まりが生じたり、心臓
や下肢静脈などから流れてきた血栓で詰まることがあります。そうして血流不足に陥
った組織は傷つきやすく、腫れや潰瘍などを生じます。これが虚血性大腸炎。大部分は
一過性の軽症例で、またほとんどが下行結腸()にできます。まれですが、
最重症例では組織が壊死します。いわば大腸の一部が腐った状態で、放置すれば
短時間で腹膜炎や菌血症を併発し、救命は一刻を争います」
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便秘がちな人はドキッとする話だが、便秘もこの病気の一因になるという。

「口から摂取した飲食物は、小腸で栄養と水分の9割の吸収を終えます。大腸で徐々に
便と化して、倉庫役のS状結腸に保存され、1~2日で排泄されます。
 
便秘になると腸管内にガスがたまり、S状結腸から押し上げられる格好で、特に下行結腸
の内圧が異常に上昇します。すると血行障害が起こり粘膜を傷めるのです。
下行結腸は全大腸でも最も不活発で、血流ももともと乏しいからです」

便秘がちの女性はご用心

虚血性大腸炎の具体的な症状は、急激な腹痛や下血。発熱や吐き気・嘔吐などを伴うこと
もある。
腹痛は下行結腸のある左の横腹に起こり、下血は鮮血か、赤黒い血が混じった下痢便・
軟便の形で生じる。
 
便秘の人が突然強い左側腹部痛を訴えたときは、虚血性大腸炎を疑ってみるべきだ。
女性は若い人にも高齢者にも慢性的な便秘が多く、糖尿病ではさらに便秘の頻度が高くなる。
動脈硬化と便秘を併せ持つ人が多い高齢社会では、虚血性大腸炎は増えて当然の病気なのだ。
実際に60~70代の女性は全患者の約7割を占める。

「診断は症状から推定できますが、確定するには大腸内視鏡検査が不可欠です。内視鏡
大腸内壁の腫れや血管走向に沿った縦走潰瘍、出血をとらえられますが、痛みや出血の
あるときには危険ですね。お尻からバリウムを入れてX線撮影する注腸造影検査もあります。
またCT検査なら身体の負担なしに患部の血管や腸の腫れ具合、全身の動脈硬化も見えて
重宝です」
 
虚血性大腸炎と診断されれば、入院治療が原則だ。
組織壊死があれば緊急手術となるが、一過性の軽症例が大半を占める。ただし軽症でも
急激に狭窄が進むことがあり、その場合も手術を要する。入院するのはそこを見極めるため。

「安静、絶食、点滴で水分や栄養を補給し、二次感染防止を図りながら、経過をみます。
軽快しても手放しに喜ばず、全身の動脈硬化性疾患の予兆がないか精査することが重要です。
また、予防策はありませんが、快便を目標に、努めて雑穀や全粒粉、野菜や果物、海藻類を
摂りたいものです」

出典 週刊文春 2008.5.22
版権 文芸春秋社

<参考サイト>
第36回「水上を走る謎のバシリスク」(NHK「ダーウインが来た」より)
http://www.nhk.or.jp/darwin/program/program036.html
虚血性大腸炎
http://health.goo.ne.jp/medical/search/10G30700.html


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