たんぱく質に光る目印

たんぱく質に光る目印」 ノーベル化学賞の下村氏

今年のノーベル化学賞の対象となった蛍光たんぱく質「GFP」は、細胞の中のたんぱく質
“光る目印”をつけることで、その動きや量を観察できるようにした。
今では生命科学分野のみならず、病気の仕組み解明や治療法開発につながり、医学分野にも
広く使われる強力な武器になっている。

医学で幅広い応用 研究者の強力な武器に

"がん細胞観察やアルツハイマー病、「iPS」でも"
「光るたんぱく質―生物科学を導く星」――。
スウェーデン王立科学アカデミーは発表資料で、こんなタイトルを掲げ、下村脩さんが発見
したGFPの重要性を強調した。

京都大の山中伸弥教授が2006年に開発した新型万能細胞(iPS細胞)にも、GFP技術
は使われている。
iPS細胞はさまざまな臓器や組織の細胞に成長できるため、パーキンソン病や糖尿病などの
治療に役立つと期待される。

iPS細胞は皮膚細胞に3~4種類の遺伝子を組み込むと、約1万個に1個の割合で作られる。
山中教授は万能性を持つ細胞を見分けるため、万能細胞で働く「Nanog(ナノグ)」と
いうたんぱく質が働いたときに、同時にGFPも作られるようにした。
つまり、光る細胞を選べば、万能細胞に近い細胞を集めることができるわけだ。

しかし、GFP技術が実用化されるまでは、こうはいかなかった。
たんぱく質はそのままでは通常の光学顕微鏡で見ることができないからだ。
それまでの生命科学では細胞内のたんぱく質を調べるのに、細胞や組織をすりつぶして、
たんぱく質の種類や量を計測するしかなかった。
だが、当然、細胞は死んでしまう。

岡野栄之・慶応大教授(再生医療)も「iPS細胞を神経細胞に変化させる時にもGFP
は欠かせない。
今やGFPがなければ再生医療の研究はまったく進まない」と指摘する。

イメージ 1

■   ■

細胞中の特定のたんぱく質にGFPを結合させれば、そのたんぱく質が細胞の中でどう
移動するかも顕微鏡で観察できる。
この方法は「分子イメージング」と呼ばれ、さまざまな研究に使われている。
上村大輔・慶応大教授(生物有機化学)は「今日の分子イメージング技術の根幹をなす
重要な研究だ」と称賛する。

これで生化学だけでなく、生物学、医学などの研究者は、強力な研究手法を手に入れた。
増殖するがん細胞やアルツハイマー病の神経細胞が死んでいく様子なども観察できる
ようになった。

GFP遺伝子を組み込んだ細胞をマウスの受精卵に組み込むと、体の一部が光るマウス
を作ることもできる。
大阪大微生物病研究所では1997年、GFP遺伝子をマウスの遺伝子に組み込み、
世界で初めて「光る哺乳類」を作ることに成功した。
この技術はいま、細胞の移植実験の手法として広く使われている。

■   ■

これほど応用が進むGFPだが、その発見のきっかけは驚くほどあっけない。

下村さんがオワンクラゲの研究を開始したのは61年。留学先の米プリンストン大学
フランク・ジョンソン博士に誘われ、「OK、やりましょう」と軽い気持ちで引き受けた
という。

下村さんがGFPを最初に報告したのは、62年だ。
当初は単に「きれいに光るたんぱく質」としてしか、学界から見られていなかった。
だが、90年代になり、遺伝子工学技術が発展した結果、GFP遺伝子を細胞やたんぱく質
の識別に使えるようになり、一挙に脚光を浴びるようになった。

オワンクラゲ――ホタルとは違った発光メカニズム
下村さんのノーベル化学賞受賞の成果に結びつく研究に使ったオワンクラゲは発光クラゲ
の仲間。
日本近海でも、春から夏にかけて、ふつうにみられる生き物だが、体から怪しく発する光に
意外な秘密があった。

オワンクラゲは、お椀を逆さにしたような透明な体で、刺激などを受けると、お椀の縁の部分
を緑色に光らせる。敵をひるませたり、メスを呼び寄せたりするための光と考えられている。

光を発する生物の代表格として知られているのはホタルだ。下村さんが、オワンクラゲ
「発光物質」を見つける以前から、ホタル発光の仕組みは解明されていた。
しかし、オワンクラゲの発光メカニズムはホタルとは決定的に違っていた。

ホタルのおしりは、ルシフェリンと呼ばれるたんぱく質が体内でルシフェラーゼという
酵素と化学反応することで青白く光る。
下村さんは当初、オワンクラゲでも同じ仕組みで光ると考え、ルシフェリンの抽出を試みた。
ところが、いくら実験を繰り返してもルシフェリンは見つからなかった。

後に分かったことだが、ホタルがルシフェリンとルシフェラーゼの二つの物質がそろわない
と光を出せないのに対し、オワンクラゲは、紫外線を当てるだけで単独でも緑色に光る
蛍光物質「GFP」を持っていた。

下村さんはまず、発光物質として「イクオリン」というたんぱく質を抽出した。だが、
イクオリンが出す光は青色。
「クラゲが出す緑色の光との違いは何なのか」。下村さんは探究を進め、緑色に光る
もととなるGFPを発見した。
GFPは、イクオリンの青色の光を受けて緑色に光っていたのだ。

このGFPを、細胞内の目的のたんぱく質に結合すれば、たんぱく質が細胞内でどう
動くか紫外線を当てれば観察できる。
イクオリンが光るにはカルシウム・イオンが必要だが、単体で光るGFPは使い勝手がよく、
応用が一気に広がった。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20081007-4686911/20081009_01.htm?from=yoltop
版権 読売新聞社

<コメント>
この前の連休に東京で行われた、ある薬剤の講演会に出席しました。
講演の中で、ある先生がスライドを示しながら、「この光っているのが、最近ノーベル賞
で話題のGFPです」と説明されました。
恥ずかしながら、初めて研究に使われているスライドを見た次第です。

<番外編 その1>
欧州連合(EU)の研究者たちは13日、若者が5年間にわたって週に5時間以上、
大音量でMP3プレーヤーを聴き続けた場合、欧州全体で数百万人が恒久的な聴覚障害
になる恐れがあると警告した。

EUの行政機関である欧州委員会の要請で行われた同研究は、子どもやティーンエージャー
は大音量から守られるべきだとして、「娯楽音」というコンセプトや大音量の携帯電話に
反対する立場を取っている。

欧州委員会の専門家によると、日常的に携帯音楽プレーヤーを使用する人は、推定5000万
─1億人。このうちの5─10%に相当する最高1000万人が、高リスクに当たると指摘
した。
http://www.excite.co.jp/News/odd/E1223969963993.html
ブリュッセル 13日 ロイター] 2008年10月14日
版権 ロイター社

<番外編 その2>
農薬 中国産冷凍インゲンから基準の3万倍  女性一時入院

厚生労働省は15日、ニチレイフーズ(東京都中央区)が中国から輸入した冷凍食品
いんげん」から、食品衛生法の基準の約3万4500倍にあたる農薬ジクロルボスが検出
されたと発表した。
このインゲンを食べた東京都八王子市内の50代の女性が唇のしびれなどを訴えたが、
命に別条はなく、同様の被害の訴えはないという。

八王子市保健所によると、女性は今月11日夜、八王子市南大沢の「イトーヨーカドー
南大沢店」でこの商品をを購入。
翌12日夜に食べたところ、異様なにおいと味がしたため吐き出した。
女性は口や唇のしびれと胸の不快感を訴えて病院に運ばれたが、2~3時間で症状が回復
した。

都健康安全研究センターが調べたところ、ジクロルボスを6900ppm(基準0.2ppm)
検出した。
ただし、未開封の同一ロットの製品からはジクロルボスは検出されていない。

都によると、この商品は1袋250グラム入りで、07年8月1日に中国の業者が冷凍加工。
国内では、同一ロットの商品がイトーヨーカ堂と系列店で少なくとも7万袋が流通していたが、
13日から販売を中止している。
この中国の業者からは昨年10月以降、冷凍インゲンが約265トン輸入されているという。

ジクロルボスは農薬や家庭用殺虫剤などに使われる有機リン系殺虫剤。
厚生労働省によると、米環境保護庁が「人が口から摂取した後24時間以内に健康に悪影響
を示さない」と推定する基準は、体重1キログラム当たり0.008ミリグラム。
体重60キロの人の場合、今回と同濃度の冷凍インゲンを0.07グラム食べただけで、
この基準に達するという。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081015-00000002-maip-soci
出典 毎日新聞 10月15日1時48分配信
版権 毎日新聞社


<番外編 その3>
中国製食品:トルエン検出あん、中国に調査を依頼--厚労省
中国製つぶあんから微量のトルエンと酢酸エチルが検出されたことを受け、厚生労働省は7日、
同じ業者が製造したあんの輸入手続きを保留、外交ルートを通じて中国当局に製造工程の調査
を依頼した。
◇輸入会社が回収へ
つぶあんを輸入した静岡県磐田市の「マルワ食品」によると、トルエンなどが検出された製品
と同じロットの製品を全国の小売店向けに1000ケース(1ケースに1キロ袋12個入り)
出荷した。
同社は、つぶあんすべてを自主回収する予定。
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20081008ddm041040074000c.html
出典 毎日新聞 2008年10月8日 東京朝刊
版権 毎日新聞社

<コメント>
当院では胃腸症状を訴える患者さんがみえたときには、「胃腸かぜ」と決め付けずに出来る
だけ1週間前までの間に食べたものを訊くようにしています。
中国産の食品は多くの消費者が敬遠していると思われるのですが、外食産業で使われている
場合には、チェックの使用がありません。
飲食店では、冷凍食品が数多く使われているのは想像に難くありません。



<きょうの一曲> “Smoke Gets In Your Eyes”
Platters - Smoke Gets In Your Eyes
http://jp.youtube.com/watch?v=57tK6aQS_H0
Judy Garland - Smoke Gets In Your Eyes
http://jp.youtube.com/watch?v=xz68KvMtHOA&feature=related
Smoke Gets in Your Eyes - Irene Dunne
http://jp.youtube.com/watch?v=gkQU-VQkhGw&feature=related
Sonny Rollins - Smoke Gets In Your Eyes
http://jp.youtube.com/watch?v=bFTqYjA5lVM&feature=related
(ダウンロードに少し時間がかかります)