抗がん剤効果、遺伝子で予測

明けましておめでとうございます

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2010年 元旦


皆さん、お正月をいかがお過ごしですか。

今年からは、カレンダーの赤字の日はブログはお休みさせていただきます。
その分、内容の充実に努めたいと思います。

今年もよろしくお願いします。



きょうは、一部の抗がん剤の有効性を、がん患者さんの遺伝子を調べることによって知ることができるようになったというお話しです。
朝日新聞の「医を創る」からの記事です(一部改変)。


抗がん剤効果、遺伝子で予測 不必要な投与減らし医療費削減

がん患者の遺伝子を調べ、薬が効くかどうか事前に判定することが一部の抗がん剤で可能になってきた。
効果が見込まれる人を選べば、不必要な副作用に苦しむ患者を減らし、医療費の抑制も期待できる。
こうした「個別化医療」は今後広がるとみられるが、遺伝子検査を保険診療で使えるようになるまで時間がかかるなど多くの問題点がある。
大腸がんの例をとりあげる。

●追いつかぬ保険制度
「手術で摘出したがん組織の標本からがんの遺伝子を抽出し、それを増幅させて、遺伝子の塩基配列を読み取る。過去の標本を取り寄せる時間も含めて、結果が出るまでに1~2週間かかる」

国立がんセンター東病院(千葉県柏市)の臨床開発センター。土原一哉室長が遺伝子検査の手順を説明した。

同病院では、今年5月から手術できない進行・再発大腸がん患者にセツキシマブ(商品名・アービタックス)という抗がん剤を投与する際に、患者のがん細胞にあるKRAS(ケイラス)遺伝子に変異があるか調べている。
がん細胞の増殖にかかわるこの遺伝子に変異があると、セツキシマブの効果が見込めないことがわかったからだ。


同病院の吉野孝之医師(消化器内科)によると、進行・再発大腸がんは国内で年間約5万人が発症し、8割に抗がん剤が使われている。
セツキシマブには発疹やつめの炎症の副作用があり、併用薬も含めて月約80万円かかる。
平均治療期間4カ月の医療費は320万円。
KRAS遺伝子変異を持つ大腸がん患者は全体の約4割とみられるが、こうした患者に投与しなければ、医療費の節減効果は大きい。

KRAS遺伝子変異がある患者に効果がないことは昨年6月に米国の学会で発表された。欧米では薬の添付文書を改訂。
検査は必須となった。

だが、日本ではこの検査に保険が利かない。
セツキシマブ承認が昨年7月と欧米より4年も遅れ、そのうえ薬効を判定する遺伝子検査でも後れをとっている。

がんセンター東病院での遺伝子検査は、保険診療保険外診療の併用(混合診療)を厚生労働省が例外的に認める「先進医療」として行われている。
約60人が検査を受けたが、遺伝子検査に保険は適用されていないので、患者は検査費8万円を全額負担する。

ところが、肺がんと膵臓(すいぞう)がんの診断の場合は、KRAS遺伝子検査にも保険が利く。 06年春の診療報酬改定で保険導入されたがんの遺伝子検査は08年改定で5種類のがんの8検査に限られた。
しかし、大腸がんでのKRAS遺伝子検査の有用性が報告されたのはその直後だった。

医療現場からは「研究の進歩に保険制度が追いついていない」との批判が出ている。


●低い診療報酬も壁に
保険が認められているがんの遺伝子検査さえも、医療機関医療保険に請求できる検査料は1件2万円。
国立がんセンター東病院で患者が支払う検査費用は8万円だ。

同病院は二つの検査法を使い、原則として両方で「変異型」と判定した患者をセツキシマブの投与対象から外す。 
一つは、従来から使われてきた「ダイレクトシークエンス法」。
PCRという方法で遺伝子を増幅させ、一定の塩基配列を読み取るものだ。

もう一つは、変異している部分だけ選んで増幅させることができる「スコーピオン・アームズ法」という検査法。
こちらに費用がかかる。英国の会社が開発し、検査技術の特許料を含む診断薬キットだけで一つ2万8千円。
それに遺伝子を解析する専用装置の購入費などが加わる。

スコーピオン・アームズ法の診断薬は、スイスの製薬会社ロシュのグループ企業が研究用に販売している。

日常診療での診断用としても厚労省に薬事承認を申請し、現在審査中。
承認されれば、保険適用を申請する予定だが、来春の診療報酬改定で2万円という現行の検査料が引き上げられないと、その普及は難しいとみられる。

診断薬の購入費だけで検査料をオーバーしてしまうので、不足分を検査会社もしくは医療機関が負担しなければならなくなるからだ。

普及のためには、検査料の引き上げが必要だが、特許使用料で高額になる検査が次々登場し、市場を独占することを警戒する関係者もいる。

保険請求する場合は原則として薬事承認を受けた診断薬を使うことを厚労省が求めている。
このため遺伝子の検査法は複数あるのに、限られた方法にしか保険が利かない。

二つの検査法を使っている国立がんセンター東病院の土原室長によると、スコーピオン・アームズ法のほうが感度が高く遺伝子の変異の割合が少なくても判定できる。

ただし、高感度検査では、誤って変異型と判定し、患者が治療の機会を奪われる心配がないわけではないという。 
土原さんは「複数ある検査のどれが最も優れているか示したデータはまだない。
これまで報告された臨床試験についても再評価の必要があり、科学的に信頼性の高いデータを集積するためにさらなる研究が必要だ」と言う。


◆キーワード <体外診断用医薬品
患者の血液や尿などを使って病気の診断や薬の効果を判定する検査には「体外診断用医薬品」と呼ばれる試薬が使われる。
体外診断薬は、診断を間違えたときのリスクの大きさに応じ、届け出で認められる「クラス1」(尿酸値を調べる血液検査など)から、厚生労働大臣の承認が必要な「クラス3」(インフルエンザやエイズのウイルス検査など)まで3段階ある。

保険適用は、一般的に薬事承認を受けた診断薬の製造・販売会社が厚労省に申請して認められる仕組み。
しかし、すべての検査に承認診断薬があるわけではなく、製品化された診断薬がなくても保険が認められる場合がある。肺がんと膵臓がんに限って保険適用されているKRAS遺伝子検査もそれに該当する。

出典 朝日新聞・朝刊 2009.12.25
版権 朝日新聞社

 
朝日新聞編集委員の出河雅彦氏のコメント
https://aspara.asahi.com/blog/mediblog/entry/qbJDSHjknF
■がん細胞が増殖するメカニズムに着目して、増殖を抑える作用を持った抗がん剤が開発されています。しかし、増殖を抑えようとしても、特定の遺伝子に傷(変異)がある患者では、効果が発揮されない薬もあります。
逆に、特定の遺伝子に変異があるほうが効く薬もあり、一様ではありません。

■事前に遺伝子の特徴を調べ、薬が効かないとわかれば、抗がん剤につきものの副作用に苦しめられるだけの薬を投与されずにすみます。

■薬の承認、販売と同時に、薬効が見込める患者の遺伝子の特徴がわかっていればよいのですが、薬の販売後の研究でそれが判明することもあります。
その場合に、遺伝子検査を早く日常診療に導入するにはどうすればよいか、というのが今回の記事の主なテーマです。

セツキシマブという大腸がん治療薬の効果を見るためのKRAS遺伝子検査。
すでに肺がんとすい臓がんの診断ではまったく同じ検査が保険診療で使えるようになっています。
米国の臨床腫瘍学会でセツキシマブの効果判定にKRAS遺伝子検査が有用であることが報告されたのは2008年6月。
その後、日本で大腸がんの治療・研究に当たる医師らでつくる大腸癌研究会が「医学的必要性が高い」として、大腸がんにも保険適用を求める要望書を2回厚生労働省に出しましたが、いまだに保険は利きません。

■専門家の話によれば、KRAS遺伝子検査は数ある遺伝子検査の中でも比較的簡単な部類に入る検査だそうで、「なぜ厚生労働省がこんなに時間をかけているのかわからない」という声をあちこちで聞きました。
しかも、この検査、医療現場で肺がんとすい臓がんの診断で使うことはそれほどないとも言われています。
「保険適用には学問的な成果を反映してほしい」という臨床医の声も聞きました。

■必要性が高い検査の費用を保険請求できないという矛盾が生じているため、紙面では紹介できませんでしたが、費用持ち出しで検査をしている病院がありました。
さらに、財団法人・パブリックヘルスリサーチセンター(東京都新宿区)では日本の大腸がん患者のKRAS遺伝子変異率を調べる研究目的で、10月から5千人の患者を対象に無償で検査を始めました。財団では検査会社に支払う検査費や事務局経費を複数の製薬会社の寄付で調達しました。

■KRAS遺伝子検査は現在、保険診療保険外診療の併用(いわゆる混合診療)を厚生労働省が例外的に認める「先進医療」として、国立がんセンター東病院(千葉県柏市)で行われています。
検査の部分だけ保険が使えないため、患者はその費用として8万円を全額負担する必要があります。

■KRAS遺伝子検査は同病院のデータに基づき、近い将来保険が適用されると思われますが、薬の効果が見込める患者の遺伝子の特徴が薬の発売後にわかるというケースはこれからも出てきそうです。
研究の成果をいち早く通常診療の中に採り入れる仕組みやルールの整備が求められています。


<関連サイト>
効かない抗がん剤を避けて副作用を和らげるのに有効
http://www.gsic.jp/inspection/ins_04/index.html
抗がん剤の効果を事前に知りたい
http://non.rakkan.net/2009/05/post-45.html
抗がん剤感受性試験後の化学療法、胃がんで143億円の医療費削減に
http://cancernavi.nikkeibp.co.jp/news/143.html
無駄な副作用を排除する先進医療・抗がん剤感受性試験
http://www.medsafe.net/contents/special/61cancer.html
抗がん剤の副作用を予測する遺伝子検査」
http://www.ahv.pref.aichi.jp/hp/page000003200/hpg000003107.htm





読んでいただいて有難うございます。
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