輸入新型インフルエンザワクチン その2

昨日の


の続きです。




輸入ワクチンに「アジュバント

新型の豚インフルエンザ用の輸入ワクチンが2月から出荷される。
国産との最も大きな違いは「アジュバント(免疫補助剤)」という物質が加えられていることだ。
ワクチンは当初の予想と違って余りそうだが、アジュバントは早く量産できる技術としてパンデミック(世界的大流行)対策に期待されている。
一体どんなものなのか。

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アジュバントラテン語の「adjuvare(助ける)」にちなんだ名前で、ワクチンの働きを補助する「助っ人」だ。
輸入される製薬大手のノバルティスとグラクソ・スミスクライン(GSK)のワクチンはいずれもその1種を使っている。

「免疫学では、免疫応答を増強する物質として昔から知られています」とGSK臨床開発第8部の野呂信弘部長は説明する。

1920年代、動物実験で細菌毒素を注射したところ、強い免疫反応が起き、ワクチンに応用する研究が進んだ。
人用のワクチンに使われるようになり、インフルエンザワクチンには90年代から使われるようになった。


同量で4倍生産
アジュバントは、どのようにワクチンを助けるのか。

インフルエンザウイルスの殻である「抗原」を含んだワクチンを注射すると、免疫に深くかかわる細胞が働き始める。
抗原を攻撃する武器である「抗体」をB細胞に作らせる指令をT細胞が出す。
B細胞の一部は抗体の作り方を記憶し、実際にウイルスが体に入った時に素早く抗体を作って攻撃する。

アジュバントは、これら免疫細胞を刺激し、効率的に働かせる。
このため、原料(抗原)が少なくても、アジュバントを混ぜれば普通のワクチンと同じ効果を出せる。インフルエンザワクチンをつくる場合、国産ワクチンと同じ量の抗原でも、アジュバントを使えば単純計算で4倍つくれるという。

今回の新型インフルの流行はピークを過ぎつつあり、ワクチンも余る可能性が高いとはいえ、専門家の間ではパンデミック対策の一つとして、アジュバントは重要な技術だと認識されている。

アジュバントにはウイルスの変異に対応する効果もあると考えられている。
抗体は、それぞれのウイルスに適したものが作られるため、ウイルスが変異すれば効かなくなる。
しかも、インフルのウイルスは変異しやすい。

ところが、ノバルティスは「多少の変化なら、アジュバントが入っていれば対応できる可能性がある」と説明する。
鳥インフル(H5N1)での実験で、ワクチン原料と違うウイルスに対する免疫(交差免疫)を起こす効果が確認されたためだ。

一方、ワクチンで気になる副作用はどうか。
アジュバント入りワクチンは一時的な痛み、はれなどの炎症反応が起きる割合が、従来のワクチンより高いという。

ただ、炎症は免疫反応の一部。GSKの野呂部長は「今の知識では、炎症と効果的な免疫反応を切り離すことは残念ながら不可能です」。


体内で分解・吸収
実際にアジュバントとして使われている物質はどんなものなのか。

今回輸入される新型インフルのワクチンではサメの肝油(スクアレン)や界面活性剤が使われている。これらは最終的には、体内で分解、吸収されるという。

3種混合ワクチンやB型肝炎ワクチンには「アルム(水酸化アルミニウムなど)」が、GSKが昨年末に国内販売を始めた子宮頸(けい)がん予防ワクチンには細菌成分やアルミニウムから作った新型アジュバント「AS04」が加えられている。
DNAやRNAなどの核酸アジュバント候補として注目されている。

アジュバントが免疫力を高める仕組みは、90年代に細胞レベルでわかってきた。
細胞が細菌やウイルスを認識するセンサーである「受容体」を刺激していた。

子宮頸がん予防ワクチンに使われるAS04は、免疫に関係する樹状細胞が持つ「TLR」という受容体の「4番」を刺激する働きがあることもわかっているという。

慶応大学の小安重夫教授(免疫学)は「今ではどの受容体を、どんな種類のアジュバントで刺激すればよいかを考えたワクチン開発が重要になっている」と話す。

がんの再発防止や治療用の「がんワクチン」が日本など各国で研究されている。
ここでもアジュバントの技術が注目されている。

ウイルスや細菌と違い、がん細胞は正常な細胞が変化したものなので、単に免疫力を強めると、がん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃され、副作用が起きる場合がある。

そこで、がん細胞に特徴的な抗原と、アジュバントをうまく組み合わせ、がん細胞だけを攻撃する手段が研究されている。

「助っ人」の活躍分野は、さらに増えていきそうだ。



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