遺伝子分析による薬投与

今年最初の1月2日のこのブログでは、遺伝子を分析して抗がん剤の有効性を投与する前に予測するというお話をしました。
抗がん剤に限らず抗血栓薬のワルファリンや抗結核薬のイソニアジドの投与量を決定するためにこういった手法が臨床面で応用されようとしています。




##遺伝子を分析、個人に合った薬投与  抗がん剤脳卒中
副作用を抑制し効果を高める

遺伝子の個人差を調べ、体質に合った薬選びや副作用の少ない投与量の判断に生かす臨床研究が相次ぎ始まった。
東京女子医科大学は1月から、がん患者の遺伝子の個人差に応じて抗がん剤を選ぶ試みを始めた。
日本医科大学凸版印刷などは遺伝子の違いと脳卒中予防薬の効果との関係を調べ、投与量に反映させる研究に着手した。
こうした臨床データが集まれば、製薬企業の開発戦略などにも役立つ。
 
#大学病院、相次ぎ臨床研究
調べるのはSNP(スニップ、一塩基多型)と呼ばれる遺伝子の個人差。
遺伝子を構成する化学物質である「塩基」の配列の違いを指し、これが病状や薬の効き方に関係する。SNPは血液などをもとに判定できる。
 
東京女子医大・遺伝子医療センターは、がん患者を対象にSNPを調べ始めた。
薬の効き方を左右する特定の酵素などを作る遺伝子の個人差を割り出す。
今春をめどに約300人を検査する。
 
この遺伝子の個人差と「タモキシフェン」など代表的な5種類の抗がん剤の効き方などとの関係はある程度わかっており、遺伝子を調べた結果をもとに適切な薬を選ぶ。
1つの薬が効きにくいとみられる患者には別の薬や治療法を検討する。
 
日本医大と凸版、理化学研究所脳卒中の再発などを防ぐため、患者ら約200人のSNPを調べて抗血栓症薬「ワルファリン」の投与量を決める臨床研究を始めた。
血液凝固にかかわる遺伝子の違いなどを見極めて投与量を決定する。
 
ワルファリンは個人によって最適な投与量が6倍以上異なる。
薬が効きすぎて血液が固まらなくなる人では内出血の副作用リスクが高まるが、逆に血液への作用が少なすぎると血栓を防ぐ効果が期待できない。
SNPを調べ、副作用を減らしつつ予防効果を高められる投与量を判断する。
 
兵庫医療大学結核患者約200人のSNPを調べて治療薬「イソニアジド」の投与量を決める臨床研究を進める。
SNPの違いによって標準的な投与量の半分でよい患者と、標準以上投与しないと効果が出にくい患者がいることがわかり、実際の治療に生かす。
 
SNPを治療に応用する研究が加速する背景には、遺伝子と病気との関係について解明が進みデータもそろってきたことがある。
優れた薬でも患者によっては重い副作用が出る背景に遺伝子の個人差があることが明らかになりリスクを最小限にする試みが活発化した。
 
先端的な肺がん治療薬として2002年に日本でも承認された英アストラゼネカの「イレッサ」はSNPの影響で効果が高い患者がいる一方、重い副作用も起きた。SNPの活用が広まれば過去に副作用などのために製品化を断念した薬でも、一部の患者には安全に使える可能性が出てくる。
 
▼SNP(一塩基多型) 遺伝情報のわずかな差のこと。遺伝子を構成する塩基は1000~2000個に1個の割合で個人ごとに違っており、これが病気のかかりやすさなどの体質に影響する。
人間は数百万個のSNPを持つ。個人の体質などに合わせて最適な投薬や医療方針を選ぶ方法は「テーラーメード医療」と呼ばれ、米欧でも導入をめざしている。
SNPを基にした投薬はそうした医療実現への一歩になる。

出典 日経新聞・夕刊 2010.2.1
版権 日経新聞



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