肘部管症候群

ある慢性疾患で通院中の中年男性が、昨日の診察で「3か月前から左の肘から下の小指側がしびれる」と訴えられました。
定期の通院日より早く、どうやら周囲から頭の病気から来ているのでは、と脅されて早めに来院されたとのことです。

片方の手足がしびれたりした場合、多くの患者さんは脳卒中を心配して来院されます。
しかし、医療側は手足の両方の異常がない限り整形外科的な病気を真っ先に疑います。
上肢に限って考えると、首筋、上腕、前腕、手とすべてに症状がある場合には頸椎症、肘から先の場合には肘の異常(肘部管症候群)、手首から先の場合には手首の異常(手根管症候群)を疑うのです。

この患者さんの診察では、打腱器(先がゴムで出来た小さい診察用ハンマー)でたたくとビーンと痛みが走りました。
そして左肘を机につくだけでも痛みが走る状態でした。
このことは以下の記事でも書かれています。

肘のある部位を強く抑えると「電気が走る」経験は誰でもあるはずです。
ちょうど神経がその部位を走っているのです。



肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)

#肘部管症候群はどんな病気か
小指と薬指の感覚と、指を伸ばしたり閉じたり開いたりする手指の筋肉を支配している尺骨(しゃっこつ)神経が、肘の内側の肘部管というトンネルで圧迫や引き延ばしを受けて発生する神経麻痺です。

原因は何か
肘の内側の上腕骨内上顆(じょうわんこつないじょうか)というくるぶしの後ろに、骨と靭帯(じんたい)で形成された肘部管というトンネルがあります。
ここを尺骨神経が通ります。
トンネル内は狭くゆとりがないため、慢性的な圧迫や引き延ばしが加わると、容易に神経麻痺が発生します。
 
圧迫の原因には、トンネルを構成する骨が隆起した骨棘(こつきょく)や、靭帯の肥厚、トンネル内外にできたガングリオン嚢腫(のうしゅ)などがあります。
神経引き延ばしの原因には、小児期の骨折によって生じた外反肘(がいはんちゅう)(肘を伸展させると過剰に外側に反る変形)などがあります。


症状の現れ方
麻痺の進行により症状が異なります。
初期は小指と薬指の小指側にしびれ感が生じます。
麻痺が進行するにつれて手の筋肉がやせてきたり、小指と薬指がまっすぐに伸びない鉤爪(かぎづめ)変型(あるいは鷲手変形)が起こります。
筋力が低下すると、指を開いたり閉じたりする運動ができなくなります。握力も低下します。


検査と診断
肘の内側のくるぶしの後ろをたたくと、痛みが指先にひびくティネル徴候がみられます。
紙を患者さんの親指と人差し指の間に挟んで検者が引っぱると、親指を曲げないと引き抜かれてしまうフロメンテストが陽性になります。
 
電気を用いた検査では、神経を電気で刺激してから筋肉が反応するまでの時間が長くなります。
知覚テスターという機器で感覚を調べると、感覚が鈍くなっています。
 
首の病気による神経の圧迫や、糖尿病神経障害などとの鑑別が必要です。


治療の方法
初期でしびれや痛みが軽症の場合は、肘を安静にして、消炎鎮痛薬やビタミンB剤を内服します。
これらの保存療法が効かない場合や、筋肉にやせ細りがある場合は手術を行います。
 
手術の方法は靭帯を切ってトンネルを開き、神経の圧迫を取り除きます。
ガングリオン嚢腫があれば切除します。
神経の緊張が強い場合は、内上顆というくるぶしを削ったり、神経を前方に移動させます。
外反肘変形により神経が引き延ばされている場合は、矯正骨切り術といって、骨を切って変形を矯正(きょうせい)し、神経麻痺を治すこともあります。
 
肘部管は非常に狭いので手術が必要になることが多く、筋肉にやせ細りが出る前に手術をすると、予後は良好です。


肘部管症候群に気づいたらどうする
小指や薬指にしびれや痛みがあり、肘の内側のくるぶしの後ろをたたくとしびれや痛みが走ったら、整形外科に受診してください。
手指の筋肉にやせ細りがあれば急を要します。

<参考および引用サイト>
肘部管症候群
http://health.goo.ne.jp/medical/search/10930200.html





肘部管症候群
イメージ 2

http://www.orth.or.jp/Hospital/hizi/tyuubu.html
(わかりやすいイラストがついています)

手足のしびれ
イメージ 3

<手のしびれのいろいろ>
A.頚椎椎間板ヘルニア
  (神経根圧迫型、この場合は第6)
B.手根管症候群(正中神経絞扼)
C.肘部管症候群(尺骨神経絞扼)

イメージ 4

<あしのしびれ>
腓骨神経麻痺
腰部椎間板ヘルニア(第5腰神経根圧迫)
http://www1.ehime.med.or.jp/column/20.html



読んでいただいて有難うございます。
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