新型インフル発生から1年

新型インフル発生から1年が経ちます。
悪夢のような出来事でしたが、今となっては話題にもなりません。
今後の再流行に備えて今だからこそ、検証してみる必要がありそうです。
このブログでも「新型インフル」をとりあげるのも本当に久しぶりです。


新型インフル発生から1年 国内流行は沈静化 第2派到来へ警戒を 
新型インフルエンザの発生がメキシコや米国で確認されてから1年。
国内の流行はひとまず沈静化したが、第2波の到来や、より病原性の強い新型が出現する可能性も指摘されている。
今回の流行では、国や自治体、医療現場の対応などで多くの問題点が浮かび上がった。
この経験を今後の備えにどう生かすのか。課題は山積している。

現在、新型インフルエンザの国内の患者発生数は低いレベルで推移、全国の定点医療機関から1週間に報告される患者数は1施設当たり1人以下の状態が続く。
だが、専門家からは「流行が終息したのではなく小康期だ」との声が上がる。

日本で全国的な流行が始まったのは昨年8月。毎年流行する季節性インフルエンザに比べ4~5カ月も早い流行入りだった。
爆発的な増加はなかったものの、感染は徐々に拡大。患者数は11月下旬にピークを迎えた後、減少傾向となった。
米国では春と秋の2回、流行の「山」があったが、日本は1回だけだった。

政府は「感染拡大を防ぎ、基礎疾患(持病)を持つ人などを守る」との目標を掲げ、対策に取り組んだ。
「重症化、死亡を減らす点では成功だった」と、政府の専門家諮問委員会委員長を務める尾身茂自治医大教授は振り返る。

今回の国内における流行の大きな特徴は、専門家が首をかしげるほど他国に比べて死亡率が低かったことだ。

算出方法の違いがあり単純比較は難しいが米国の人口10万人当たりの死亡率は3.96人、カナダは1.32人、メキシコは1.05人、オーストラリアは0.93人、英国は0.76人。
一方、日本は3月23日現在の死亡者が198人で、死亡率は0.15人。
重症化や死亡のリスクが高いとされた妊婦も、国内では死亡者がゼロだった。

死亡率が低かったのは患者が若年層に集中し、死亡リスクが高い高齢者が比較的少なかったことが要因とみられる。
また、広範囲な学校閉鎖、タミフルなど治療薬の幅広い投与、医療へのアクセスの良さなどが功を奏したとの見方が多い。

一方で問題点も続出。発生初期に空港で実施された機内検疫などの水際対策は実効性に疑問の声が上がり、国内対策の遅れにつながったとの指摘も。
ワクチンの接種回数や時期の変更でも現場が混乱した。政府レベルでこうした点を検証する作業が始まった。

「秋には第2波が必ず来る」と警戒するのはインフルエンザに詳しいけいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫小児科部長。
過去の世界的大流行(パンデミック)でも、第1波の数カ月後に次の流行が起きた。
菅谷さんは、人口の半分程度が免疫を持てば大規模な流行には結び付かず、パンデミックは終息するとみる。

国内の推定感染者数は2千万人を超えたが、まだ感染していない人が多く、終息にはもう一度大きな流行を経験しなければならない。
「第1波では子どもが多くかかったが、第2波では中高年が相当気を付けなければならない」と警告する。

新型とは別に、海外では病原性の高い鳥インフルエンザH5N1型の人への感染が続き、状況は変わっていない。第2波の到来とともに、鳥インフルエンザの動向にも注意する必要がある。

出典 埼玉新聞 2010.4.24(一部改変)
版権 埼玉新聞社

 
<番外編>
「現場への情報伝達はマスコミより先に」、情報発信の一元化求める声も
http://www.m3.com/iryoIshin/article/118910/
■4月12日、厚生労働省新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議(座長:金澤一郎・日本学術会議会長)は、第2回目の会合を開き、「広報」をテーマに自治体の広報担当、報道関係者など10人からヒアリングを行った。
参加者からは「自治体、医療機関にはマスコミより先に情報を伝えてほしい。『ニュースで言っていた』という問い合わせ内容を知らされていないことがしばしばあり、混乱が生じた」
「政府としての統一見解を示すためスポークスパーソンの設置が必要」などの意見が上った。
(私のコメント;まさしくその通りです。当時マスコミの報道にはチェックを入れていましたが、患者さんから新情報を聞くことがしばしばでした。医師会からも厚労省からも情報は入りませんでした。)

■医師へのインタビューでは、
厚労省からの通知は自治体・医師会を経由するので迅速ではない。メディアからの情報の方が早く、患者の質問に答えられずに大変困った。このようなことが続くと患者に『あの医者はいい加減だ』と言われる」
(私のコメント;厚労省からの通知は実際にはまったく入って来ていません。)

「通知文書は量が多くて分かりにくい」との意見が多かったと紹介。メーリングリストメールマガジン等による希望者への迅速な情報配信の検討を提案した。 
ワクチンの情報提供については「遅すぎる」との意見が大半であり、これによって厚労省に対する信頼感が損なわれたとの印象が持たれていると指摘。検討プロセスの透明性をより向上させ、共有しやすくすることが必要だとした。また、医療現場の状況と厚労省の施策の乖離を減らすために、現場の声を集める仕組みを構築すべきだとした。
(私のコメント;ワクチンに関してはわれわれ第一線の医師は厚労省に対して大いに不信感を抱かせました。今後一切インフルエンザワクチンの「予約」はしないことにしました。)

■坂元昇氏(川崎市健康福祉局医務監)は、「国から自治体への情報伝達が遅く、マスコミ報道後に増加する問い合わせの対応に苦慮した」として自治体に対しては報道発表前に情報を提供するよう要望。
(私のコメント;自治体に情報が届いても医療機関には情報が伝わりません。診療するのは医療機関です。われわれ第一線の医師は自治体に対しても不信感を持っておます。そのあたりは坂元氏は理解しているのでしょうか。)

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律感染症法)第16条の「厚生労働大臣及び都道府県知事は、(中略)感染症の発生の状況、動向及び原因に関する情報並びに当該感染症の予防及び治療に必要な情報を新聞、放送、インターネットその他適切な方法により積極的に公表しなければならない」
(私のコメント;この感染症法は「誰に対して」が抜けています。今回は診療する医療機関特に第一線の『白衣戦士』ともいうべき開業医への情報が一番遅れました。医師会や自治体からは何の連絡もなく強い孤独感を味わいました。開業医は一般の方よりTVを見る時間も短く、結果として新しい情報は患者さんから教えていただくというお粗末ぶりでした。)

■吉川肇子氏(慶應義塾大学商学部准教授)は、心理学の視点から、言葉遣いや記者会見方法の見直しを提案。繰り返し使われた「正確な情報に基づいた冷静な対応」とのフレーズは、正確な情報:何が正確な情報か分からない、冷静:「私たちを冷静でないと思っている」と受け取られる、「他の人は冷静ではないですよ」とヒントを与えられる、何が冷静な対応なのか示されていない、などの問題を含む上に、繰り返すことで反発を招くと指摘。どこから発信されるものが正確なのか、現在何が分かっている/いないのか、どのような行動が「冷静な行動」なのかを具体的に示すべきだとした。また、早朝・深夜に行われた記者会見は、「冷静な対応」という呼びかけと矛盾するものであるとした。さらに、「短く・分かりやすく」という情報発信姿勢は広告と緊急時の広報を混同したものであり、「情報飢餓」状態にある人に対して十分に情報を提供しないと、他の情報源に当たられて混乱を招くと指摘した。
(私のコメント;吉川氏、冴えてます!)

■委員からは、諸外国の情報伝達ネットワーク構築例の情報収集、厚労省からの連絡が確実に届くための仕組みの構築などの検討が提案された。
一元化された情報発信とスポークスマンの設置について、岩田健太郎神戸大学大学院医学研究科教授は、「専門知識が求められることでもあり、日本では国立感染症研究所感染症情報センターがこの役割を担うことが適切だと考えられるが、現状では疫学調査や研究で手一杯。同センターの機能拡充、専門性の向上を図るべき」と提案した。

私のコメント;
この会議には10名の「有識者」が出席しています。しかしその中には現場の医師は1人もいません。医師かも知れないと思われる人は3名いますが決して本当の意味での現場ではありません。
出席者
川崎市健康福祉局 医務監
大阪府健康医療部長(全国衛生部長会会長)
国立感染症研究所感染症情報センター 主任研究官

残りは新聞社編集委員、心理学科教授、商学部教授、テレビ解説委員などです。
実際に新型インフルエンザを診療した人は1人もいません。
われわれ第一線の医師が参加させていただければ激しい議論になったこと請け合いです。





検疫対策へは一定の評価、対応切り替えの遅れを指摘する声も
http://www.m3.com/iryoIshin/article/119848/?portalId=iryoIshin&pageFrom=openIryoIshin
■4月28日、厚生労働省新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議(座長:金澤一郎・日本学術会議会長)は、第3回目の会合を開き、「水際対策・公衆衛生対策・サーベイランス」をテーマにヒアリングを行った。
参加者からは「検疫の開始・終了、国内対策へのシフトの時期が遅かった」「医学的根拠の不明瞭な検疫業務に徒労感を感じた」などの指摘があった。

■ 内田幸憲・全国検疫所長協議会会長は、エントリー・ポイントでの患者捕獲率は38.1%または50.0%だったと推計。
「大阪、兵庫の海外渡航歴のない患者発生を除外すると、検疫の効果はあるのではないか」と評価した。
また、日本では検疫をないがしろにする傾向が見られたとし、「行列に対する批判が非常に多く、暴動一歩寸前のような状態だった。国民への検疫法の周知・協力要請について、マスコミ・政府からメッセージ発信があると良かった」と振り返った。
一方で、検疫の開始、検疫終了へ向けたシフトダウンなどの時期が遅かったと指摘した。

■ 押谷仁・東北大学大学院医学系研究科微生物分野教授は、「公衆衛生対策の全体の方向性は概ね妥当であった」と評価。「日本では『過剰な対策』をしたとの批判も多いが、もし何も対策をしなかった場合には、6-7月にかけて地域的な流行、10月中に流行のピークが起き、ワクチン供給が全く間に合わなかったと考えられ、また患者増によるピーク時の医療機関への負荷、ハイリスクグループへの感染拡大による死亡者増などのシナリオが推測された」とした。

■濱田浩嗣・兵庫県教育委員会事務局 体育保健課長は、「全県の小・中・高等学校・特別支援学校の休業以降、県内の患者発生数は急激に減少し、感染拡大防止に一定の効果があったと考えられる」と評価。一方で、課題として全面的規制の基準、自治体ごとの対応のばらつき、校区のない私立学校等への対応、長期休業の限界などを挙げた。

■西浦博・ユトレヒト大学研究員は「検疫に関する提言」(岩田健太郎神戸大学大学院医学研究科教授が代読)として、入国時検査による感染者発見の効能は3割未満と推定され、少なくとも7割以上、より正確には8割5分以上の感染者が捕らえられずに入国したはずであると指摘。「すべての入国者を少なくとも9日間以上」停留しない限り、水際対策で新型インフルエンザの国内流行の