放射線と健康正しく知ろう

この度の東北地方太平洋沖地震により被災されました方々に、心よりお見舞い申し上げます。
犠牲になられた方々、そしてご遺族の皆様に対し、深くお悔やみを申し上げます。
また、福島第一原発事案(事故)で避難中の方々、そして計画停電中の首都圏の方々にお見舞い申し上げます。
また、被災者支援や原発復旧作業などの災害対策に全力を尽くしてみえる皆様に敬意を表します。


年1ミリシーベルトでも急性症状の1000分の1 低線量での発がん確証なく

放射線の健康への影響を理解するのはなかなか難しい。
2つのタイプの影響が混在するため、わかりにくい。一定量以上浴びたら必ず身体に症状が出る「確定的な影響」と、何十年もの間にがんになるかもしれない「確率的な影響」を、切り分けて考えなければならない。

「ただちに健康に影響が出る数値ではないが、できれば控えたほうがよい」――。
東京電力福島第1原子力発電所の事故後、野菜や牛乳、水道水から放射性物質が検出されるたびに聞く。
枝野幸男官房長官も記者会見でよく口にする。
一見、安心できるようで、そうでもない。
「ただち」という言葉がくせもの。
うがった見方をすれば、将来は大丈夫なのかという不安もわいてくる。


1万ミリシーベルトで死亡
放射線被曝の影響の一つである「確定的影響」は、一度に高い線量の放射線を浴びた場合に起きる。
放射線量がある値(しきい値)を超えると、急性か、もしくは少し時間がたってから、確実に健康を害す。

例えば、全身に500ミリシーベルト浴びると、血液中のリンパ球が一時的に減る。
1000ミリシーベルト(1シーベルト)以上だと、脱力感などの自覚症状が出始める。

7000~1万ミリシーベルトで中枢神経などがやられて、死亡する。
1999年に起きた茨城県東海村のJCO臨界事故で亡くなった作業員はこのレベルを浴びた。
1000ミリシーベルトを超えると確定的影響が問題になる。

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一方の「確率的影響」は、被曝後、数年~数十年をかけて出るもので、大勢の人が放射線を浴びるとき一定の割合の人にがんなどを発症することをさす。

原発から離れた場所に住む人にとって問題になるのは、比較的少ない放射線を受けたときに生ずる、この確率的影響だ。

体の外から受ける放射線量が累積で10~50ミリシーベルトになりそうだと屋内退避、50ミリシーベルトを超えると予測されると、その地域にいる人に避難が指示される。

確率的影響も200ミリシーベルトより低い線量では発がんリスクが上がる証拠はない。
「広島、長崎の被爆者でも(確率的影響による)発がんリスクの増加はない」(国立がん研究センターの祖父江友孝部長)

100ミリシーベルト以下になると喫煙など他の要因によるリスクと見分けが付かなくなる。

放射線を使う技師や医師、原子力発電所職員らは通常1年で最大50ミリシーベルト(5年間平均で20ミリシーベルト)まで放射線を受けても問題ないとされる。

この規制値は、急性で影響がでてくる1000ミリシーベルトまでには20倍、確率的な発がんリスクと比較しても2倍以上の余裕がとってある。


平時も年1.5ミリシーベルト
一般人の被曝の限度は、さらに安全をみて年間1ミリシーベルト(自然放射線量を除く)。
医師らは、放射線について知り線量計などで被曝を常に把握し管理している。
無防備な一般の人はより低い水準にとどめる。

年間1ミリシーベルトは、急性の症状が出る千分の1以下。
長期の発がんリスクが高まるかどうかを検証できないほどの水準だ。

理論上は、年間1ミリシーベルトを生まれたときから80歳までずっと浴び続けても、がんの発症リスクの上昇は0.5%以下と見積もられている。

実際には、放射線は日常的に宇宙から降り注ぎ、岩石に含まれる放射性物質からも出ている。
日本人は平均年間1.5ミリシーベルトを浴びている。

規制値はそれを超えればすぐに危険という「安全と危険を区切る境界線」ではない。
安全に十分な余裕がとってある。

にもかかわらず「ただちに」発言が出てくる背景には、低線量の放射線が人体に与える影響が確率的であるからだ。確率はどんなに低くても、全くないとはいえず、念のため「あると仮定して備える」という放射線防護のリスク管理の考え方が隠れている。
                  <滝順一、西村絵、長倉克枝 編集委員
出典 日経新聞・朝刊 2011.4.3
版権 日経新聞


<関連サイト>
福島第1原発>累積20ミリシーベルト退避検討を…安全委
福島第1原発事故について、内閣府原子力安全委員会は6日、累積の被ばく放射線量が20ミリシーベルトを超える可能性のある住民に対し、屋内退避や避難などの防護措置を講じるよう政府に伝えたことを明らかにした。
事故が長期化しており、現状が続けば、何も指示が出ていない30キロ以遠でも数週間で20ミリシーベルトを超える可能性があるといい、政府に新たな対応を求めた形だ。

■安全委の防災指針では、外部被ばくの予測が10~50ミリシーベルトだと屋内退避、50ミリシーベルト以上だと避難としている。
現在、福島第1原発周辺では半径20キロ以内は避難、20~30キロは屋内退避の指示が出ているが、屋内退避が長期化して生活に支障が出始めている上、30キロ以遠でも累積の放射線量が10ミリシーベルトを超える地点が出てきた。

■安全委は国際放射線防護委員会が緊急時の被ばくについて、20~100ミリシーベルト以内と定めているのを踏まえ、下限の20ミリシーベルトを基準に採用した。
代谷(しろや)誠治委員は「防災指針は事故発生後の短期間の措置を想定しており、長期化によって実情に合わなくなった。わずかでも超えてはならないという数字ではない。避難などの範囲をどうするかは行政が決めることだ」と説明した。
                                 <西川拓>
出典 毎日新聞 2011.4.6
版権 毎日新聞社





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