痔(いぼ痔)

始まりは25歳の出産

大阪府の主婦(60)は今年2月、痔(じ)の手術を受けた。
35年来の悩みだった痔。その始まりは1976年、25歳で迎えた初めての出産だった。

無事に長女を産んだ。ところが、おしりが痛い。
動くたびに、ズーン、ズーンと鈍い痛みが走る。
退院した後、里帰り先では階段を下りるのもやっとだった。

「こんなにひどい痛みがあるのは、どうしてかな……」

そのときは、出産する際に会陰(えいん)を切ったためかと思っていたが、診てくれた助産師にこう言われた。
「ああ。あんた、これ痔やわ」

痔は、肛門や腸の壁が腫れたり、切れたりして起きるおしりの病気だ。
痛みを感じたり、出血したりするが、痛みがない場合もある。
主に、肛門や直腸にいぼができる「いぼ痔」(痔核)、肛門の上皮が切れる「切れ痔」(裂肛)、肛門に膿(うみ)のトンネルができる「あな痔」(痔ろう)の3タイプがある。

年齢や性別に関係なく発症するとされる。
厚生労働省国民生活基礎調査によると、痔による痛みや出血などを自覚しているのは、2010年で年間約94万人。
男女比は6対5ぐらいだ。
女性では、今回のように、出産が自覚のきっかけとなるケースが多い。

患者の約半数を占めるのはいぼ痔。
肛門周辺の血行が悪くなり、静脈がうっ血していぼ状に腫れる。
長く同じ姿勢でいることや、冷え、排便時のいきみ過ぎなどが原因になるが、妊娠・出産もそのひとつ。大きくなった子宮に圧迫されて肛門周辺の静脈がうっ血し、出産のときに強くいきむことで悪化することがあるからだ。

この主婦の場合、出産後1カ月もするとおしりの痛みはひいた。
ただ、排便する際に肛門から米粒くらいの小さなおできが、時々ぴょこんと顔を出すようになった。
気にはなるが、痛くはなかった。

その4年後、2人目を出産した。
あの痛みの記憶がよみがえったものの、この出産ではおしりは痛まなかった。
「ああ、よかった」。
安心して、特に深くは考えず、治療もせずに過ごしていた。
しかし、痔は治ることはなく、静かに「成長」していたのだった。 (権敬淑)



35年目の激痛 受診決意

25歳で長女を出産したときに痔の痛みを初めて経験した大阪府の主婦(60)は、しばらくして痛みがなくなったこともあり、治療せずにそのままにしていた。
痛みもないし、出血もない。それでも、頭の片隅でいつも気にはしていた。

排便のとき、肛門から小さなおできが飛び出すようになった。
いぼ痔だった。
4年後に長男を産んだころは米粒大だったのに、その10年後には小豆より少し小さいくらいに膨らんできた。
トイレのたびに、指で肛門の奥におできを押し戻すのが習慣になった。

気にはしていたけれど、当時は医療機関を受診できずにいた。
恥ずかしい。
それに、手術で痛い思いをするのが怖かったからだ。

義父はかつて、いぼ痔を切る外科手術を受けたことがあった。
「手術の後、(痛くて)寝込んでいた」と夫に聞かされた。
「あのかくしゃくとしたおとうさんが弱音を吐くほど痛い手術なんて、私はとても耐えられない」

そして、発症から30年以上が過ぎた2010年。
飛び出したいぼ痔は、指で押しても戻らなくなっていた。

「受診しようか」。女性医師のいる病院がないかインターネットで調べた。
自宅から通えるところに、希望通りのクリニックがあった。
でも、やっぱり踏ん切りがつかない。
クリニックを紹介したページを印字したものの、しまい込んだ。

ようやく覚悟を決めたのは今年初め。
35年前の出産のときと同じ激痛に襲われた。

年末からダイエットに挑んだら便秘になった。
制限した上、偏った食事が悪かったようだ。コロコロした水分の少ない硬い便になった。
いきんで排便したとき、おしりに激痛を感じた。

それからは、座ったり、排便したりすると、ズンと鈍い痛みが体中に走った。
便器にしたたるような血も流れた。
しばらく市販の座薬も試したが、よくならない。
「もう、ダメだ。今度こそお医者さんに行こう」。
しまっておいたクリニックの資料を引っ張り出した。

3年前に母親に付き添って訪れた病院で見たポスターを思い出した。
「痔は切らずに治せます」と書いてあったはず……。



いぼ痔 あっけなかった手術

いぼ痔(じ)の悩みを抱えながら、35年間治療せずにいた大阪府の主婦(60)は今年初め、ようやく受診する決心をした。
ずっと治まっていた痛みが、ダイエットによる便秘がきっかけでぶり返してしまったからだ。
女性医師のいる病院を探して、大阪府吹田市のNクリニックを受診することにした。

手術が怖かった。
だから、受診する前に、「切らずに治せる」という最新の治療法をパソコンで調べた。

「ALTA療法」。
硫酸アルミニウムカリウム入りの薬を患部に注射して、固めて小さくする手術だ。
痛みが少なく、日帰りか短期入院で済む。

ただ、この療法はいぼ痔でも肛門奥の直腸の粘膜にできた「内痔核」が対象。
肛門の皮膚部分が腫れる「外痔核」や切れ痔などには効かない。
「私はどうなんだろう」と不安だった。

いよいよ受診。
受付でスタッフが問診票を渡してくれた。
黙って症状を記入すればいい。
口頭で聞かれたら、ほかの患者もいるので恥ずかしい。
こまやかな配慮がうれしかった。

問診や触診、視診をした院長は、「奥にいぼ痔が三つあります。これは注射で縮めましょう」。
ALTA療法を勧められたので、ホッとした。

「外の痔は注射は効きませんから、ぷちんと切りましょう」

「え、切るんですか」

「そんなに痛くないですよ」

2月に手術を受けた。
前日は午後9時から絶食。

処置室のベッドで左肩を下にして横になる。
点滴が始まったとたん、薬の鎮痛効果でうとうととした。
約30分後、眠りから覚めたらすべて終わっていた。

手術はあっけなく終わり、その日のうちに帰宅できた。
少し痛みはあったが、気になるほどではない。
「こんなに簡単に済むなら、もっと早く治療すればよかった」

2週間後の検診では、注射した痔は固まって小さくなっていた。
外に出ていた痔を切ったあとも順調に回復していた。

お盆には、子どもや孫と一緒にキャンプにも出かけた。
痔が恥ずかしくて、20年近く行ってない婦人科のがん検診にも、今年はきちんと行くつもりだ。
<私的コメント>
本人しか分からないこういった悩みもあるんですね。
勉強になりました。