便失禁

便失禁、相談してみて 適切な治療、半数は改善・完治

知らない間に便が漏れたりトイレに間に合わなかったりする便失禁。悩む人は500万人に上るといわれている。食事や排便の仕方を変えて薬をのめば、半数は症状が改善するか完治するが、治療を受けていない人も多い。学会は3月、患者が最初に接する機会が多いかかりつけ医にも適切な治療を知ってもらおうと、初めての診療指針を示した。

ある男性(81)は4年ほど前から、知らない間に便が漏れて下着
が汚れることが多くなった。
誰にも言えず悩んでいたが、家族に相談し、2015年に排便機能センターがある病院を受診した。
 
最初は便の水分を吸収して硬さを調整するのみ薬などを試したが、症状は改善しなかった。
このため、「仙骨神経刺激療法」(SNM)という治療を受けた。
 
SNMは、おしりに心臓のペースメーカーのような約5センチ大の装置を埋め込み、排便に関わる仙骨神経に電気刺激を与えることで
大腸や肛門の動き、感覚を改善する。
14年4月に公的医療保険が適用された。
 
男性はSNMで症状は全くなくなった。
ジムで入浴する時も便の心配をする必要がなくなった。
男性は「もっと早く受診すればよかった」と話す。
 
便失禁は、気づかないうちに便が漏れる「漏出性」と、便意は感じるがトイレに聞に合わない「切迫性」、両方の症状がある「混合性」の三つに分かれる。
男性の主治医らが約300人の患者を調べたところ、漏出性が49%で、切迫性が16%、混合性が35%だった。
 
原因は、加齢によって肛門の開閉に関わる筋肉の機能が低下したり、出産でこの筋肉が切れたりするなど様々だ。
また、脊髄損傷や直腸がんの手術後の後遺症で起こることもある。
 
半数は食事や生活、排便習慣の見直し、薬物療法で症状が改善するか完治することを知ることも大切だ。

加齢・出産など原因
日本大腸肛門病学会は3月、「便失禁診療ガイドライン」を公表。
指針ではまず、食事や排便など生活習慣の改善や薬物療法を試みることを推奨している。
 
便がまとまるように食物繊維を多く含む豆やきのこや根菜などをとる。
一方で便がゆるくなりやすい酒や果物、香辛料のほか、腸の運動を活発にするカフェインの摂取を減らす。
便意を感じたら我慢せずにすぐにトイレに行く。
 
治療薬は主に2種類ある。
一つは便の水分を吸収して硬さを調整する薬で、もう一つは便の回数を減らして便を硬くする下痢止めだ。
持病でのんでいる薬に便を軟らかくする作用があれば量や薬を変える。
 
専門の医師がいる消化器外科や肛門科では肛門を締める力や、筋肉の損傷を検査をする。
筋肉の収縮が悪ければ、肛門を締めたり緩めたりする骨盤底筋訓練などをする。
また、外出前に「経肛門的洗腸法」で腸を洗って便を出しておけば、失禁の心配をせずにすむ。
肛門から1~2日に1回、500~1000ccの水を入れて便を流し出す。
自宅でできるが、30~60分かかる。
 
症状が改善せず、肛門の筋肉の損傷が原因の場合、SNMや筋肉をつなぐ手術を試みる。
SNMが先か筋肉の形成術が先かは専門家の間でも結論が出ていない。
筋肉の損傷から比較的短期間なら、形成術を先に受ける方がいい、と専門家は指摘する。
 
肛門周辺の筋肉が傷んだり切れたりする理由で多いのが出産だ。
出産直後から治療に取り組む医療機関もある。
出産後かなりの時間がたってから便失禁の悩みで受診する女性は
少なくない。
症状が出たら早めに専門の医師を受診したい。

参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.12.20



<関連サイト>
便失禁とは-自らの意思に反して便がもれる症状
https://medicalnote.jp/contents/160125-021-HT

便失禁の原因-複数の要因が重なり合って生じる
https://medicalnote.jp/contents/160125-022-MT
肛門を締めたり緩めたりする括約筋は、内肛門括約筋と外肛門括約筋の二重構造になっている。
内肛門括約筋は不随意筋といって自律神経がコントロールする筋肉です。肛門を締めようと意識しなくても、自律神経の働きで締めてくれる。
これに対して外肛門括約筋は随意筋と呼ばれる筋肉で、手足の骨格筋と同様に自分の意思で締めることができる。
内肛門括約筋は通常は閉じているが、肛門の近くまで便が降りてくると緩む。
しかし、その時は直腸からの刺激で便意を感じることができるので、便がもれないように自分の意思で外肛門括約筋を締めることができる。
この一連の協調作業がうまくいかないと、排便が正しくコントロールできず便失禁につながると考えられる。

原因
・加齢によるもの
・出産・分娩によるもの
・肛門周囲の括約筋あるいは神経の損傷によるもの
過敏性腸症候群IBS)によるもの
・糖尿病などによる末梢神経障害
心理的要因、生活環境要因
・特発性便失禁

便失禁の検査と診断
https://medicalnote.jp/contents/160125-023-DB
1.日常排便習慣に対する質問事項
患者さんにとっての正常な排便とはどんな状態か
それがいつから、どのように変わったか
下剤などの内服薬、浣腸、洗腸などの排便補助を行なっているか(いつから・どのように)
普段の便の性状(※ブリストルスケールで記載)
排便時にいきむか、いきむとしたらどのくらいの時間か
便とガスの排出を区別できるか、水様便と固形便の識別ができるか
便排出を我慢できるか、できるとすればどのくらいの時間可能か
ガス排出を我慢できるか、できるとすればどのくらいの時間可能か
排便前に腹痛や腹部の膨満感があるか
排便に指や手を用いた補助が必要か
排便後、拭き取るのに問題はないか
2.便失禁に焦点をおいた質問事項
漏れることを自覚できるか、意識的に我慢できない便失禁か
漏れるのはガスか、液状便か、固形便か
最初の便失禁はいつ起こったか、その後時間的にどう変わってきたか
どの程度の量が漏れるか、その性状はどのようなものか
どのくらいの頻度で失禁するか、失禁を引き起こすきっかけはあるか
漏れは排便後に起こるか、それとも不定期か
日常生活に影響があるか、どのような支障があるか
予防的にパッドなどの保護用品を使用するか、それは有効か
3.便失禁に関わる日常生活についての質問事項
食事内容と嗜好品(コーヒー・アルコールなど)の摂取状況
喫煙歴、体重の変化(BMI; ボディマス指数
内服薬(向精神薬投与を含む)
日常生活状態:起床、食事と排便、入眠時間などの確認
生活環境:とくにトイレに関する環境の確認
日常生活の活動性、認知症の有無
既往歴・併存疾患:とくに尿失禁、糖尿病併存の有無

検査と診断
・視診
・直腸指診・膣診
・直腸肛門内圧検査および直腸感覚機能検査
・超音波検査・MRI(核磁気共鳴画像)検査
・排便造影検査

便失禁の治療-多くの方が保存的治療によって改善される
https://medicalnote.jp/contents/160125-024-DL
直腸内に便がたまっていることが脳にうまく伝わっていない場合でも、定期的に排便をして直腸内に便がない状態にすることで失禁を防ぐことができる。

便失禁の外科治療をめぐる最新の話題
https://medicalnote.jp/contents/160125-025-JJ
仙骨神経刺激療法(Sacral Neuromodulation; SNM)