TPPと医療

<TPPを問う> 混合診療、現場に賛否

支出膨らみ財政破綻 最高の医療を低負担で 「制度改革の好機」指摘も
野田首相が交渉参加を表明した環太平洋連携協定(TPP)で、日本の医療現場が変わるかもしれない。
日本医師会(日医)などが声を大にするのは、米国の求めで営利企業の病院経営や混合診療が全面解禁されれば「日本が世界に誇る国民皆保険制度が崩壊しかねない」との危惧。
庶民とすれば安心して気軽に治療を受けたいが、医療現場からは賛否の交じった複雑な声が聞こえてくる。

日医は会員数約16万人。
開業医と勤務医がほぼ半数ずつだ。
医師会としては混合診療の全面解禁に反対だが、保険外の先進的医療を手がけることの多い勤務医の中には解禁に賛成の声もある。

愛知県内の病院幹部の外科医(56)は「目の前の患者さんに少ない負担でベストの医療を提供できる」。解禁されれば、保険外の新しい有望な薬や治療を保険診療と併用しやすくなるからだ。

例えば、抗がん剤は人によって効果がさまざまのため、1種類ではなく2、3種類を組み合わせて使うことが多い。
しかしうち1種類でも公的保険の対象外の薬が入れば、全体が混合診療扱いになり、治療費も薬代もすべてが自己負担となってしまう。

解禁のメリットに期待する一方でこの医師は「これが全員にとなると制度として成り立つのか」と制度の行く末にも気を病む。

公的保険からの支出がどんどん膨らみ財政的に破綻すれば、保険適用の医療を減らさざるを得なくなり、風邪や腹痛などの軽い病気は「保険外で」となる可能性も指摘される。

「がんが再発した患者さんに何百万円もの薬を提供しても、延びる命は2カ月余ということもある。それをみんなで支えるのか-。保険はどの範囲までが妥当かを国民が考えるべき時に来ている」と問題提起する。

医療格差が生まれることに断固反対する立場の愛知県医師会の理事は「構造改革推進派は、財政難を理由に保険の給付範囲を見直したいのが本音。TPP参加の真の狙いは、米国の圧力を利用して、自国では政治的に実現困難な皆保険制度の改革を断行することではないか」と疑いを隠さない。

一方で「TPPに参加するとなぜ混合診療が全面解禁されてしまうのか。反対なら交渉で突っぱねればよく、議論に飛躍があるような気がする」と、医師会の論理に疑問を呈するのは、名古屋市内の大規模病院の院長。
混合診療解禁の是非などは、TPPで初めて出てきた問題ではない。これまでもずっとあった矛盾が露呈しただけだ」と指摘する。

TPP反対派は「日本の医療を食い物にして、自国の経済成長と雇用拡大を図るのが米国の狙い」と警戒するが、この院長は「米国を恐れて防御するばかりでなく、日本から新しい医薬品や医療機器を作ったり、自らさまざまな制度改革に取り組むなど攻めの姿勢に発想を転換することが必要だ」と話す。

混合診療 公的医療保険が使える診療と、保険外の診療の併用。
日本では、平等な医療を受ける機会を保証した皆保険制度の趣旨に反するとして、一部の先進医療や差額ベッド代などの例外を除いて原則禁止されている。
このため、保険外の治療法や薬を組み合わせると、本来なら保険が使える入院料なども含めて全額が自己負担になる。
混合診療が解禁されると、医療関連企業が最新の薬や治療の保険適用を目指す理由が薄れ、結果として保険適用の範囲が狭くなり制度が維持できなくなると医師会などは主張している。

出典 中日新聞 2011.11.17
版権 中日新聞社

<私的コメント>
どの組織でもそうですが、組織が方針を打ち出しても、その組織の総意とは限りません。
極端にいえば半数いえば、組織の過半数が反対していても組織としては違う方針を打ち出すこともありうるのです。
日本医師会は会員の意見が十分には反映されない組織となっています。
代議員制度をとっていることや、各会員が意見をきちんといえる雰囲気は全くありません。
かくいう私は「TPPと医療」については、日々の診療に埋没していて、確たる意見も知識もないのが現状です。


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