膵臓がんに術前抗がん剤

膵臓がんに術前抗がん剤 放射線併用、選択肢増える

診断と治療が難しいとされる膵臓がんは患者が増え、死亡数は年2万6千人以上で肺、胃、大腸、肝臓がんに次ぎ5番目に多い。
日本経済新聞社が「日経メディカル」誌の協力を得て実施した「日経実力病院調査」では治療成績向上のために術前の抗がん剤治療などの取り組みが目立った。
新薬の承認で選択肢も増加。根治のために早期発見の挑戦も続く。


膵臓がんは早期では自覚症状がなく、発見された段階で8割以上が最も進行した4期の状態という。
根治を目指すためには切除が必要だが、日本膵臓学会のガイドラインでは切除が適しているのは、転移が近くのリンパ節までや、がんが胃などに直接及んだ4a期まで。
さらに肝臓など離れた臓器に転移した4b期は切除せずに抗がん剤治療が中心となる。

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脾臓を含む膵臓のがんの「手術あり」が2010年7月から11年3月に136例と全国で最も多かったのは大阪府立成人病センター(大阪市)。
しかし大東弘明・消化器外科部長は「4b期で手術できない患者も多い」という。

肉眼的には切除できても完全に切除できなかったり、肝臓に転移したりして再発することが多く、5年後の生存率は10~20%程度。
他のがんに比べて治療成績が悪い中、手術前に抗がん剤放射線の治療を行うことが注目されている。

手術前は膵臓への血流が保たれていて放射線の効果が大きい。
また「膵臓がんの手術は特に身体的負担が大きく、術後に抗がん剤放射線治療ができないこともある。術前ならば必要なだけ治療できる」と大東部長。
同センターでは肝臓での再発を抑える治療法も導入。
手術前後の抗がん剤放射線治療と組み合わせ、手術5年後の生存率が56.2%に上った。
「難しいがんの代表とされてきたが、手術前後の治療を併用すれば5年以上生存できる患者が増えてきた」という。

こうした治療成績の向上を支えているのが膵臓がんで使える抗がん剤の増加。
01年にジェムザール、06年にTS―1が承認され、同センターの消化器検診科の井岡達也副部長は「進行した膵臓がんの5年生存率を10ポイント以上改善した」と話す。
昨年7月にタルセバが承認され、海外に比べて承認の遅れ(ドラッグラグ)が目立っていた膵臓がんでも選択肢が増えてきた。

ただ、それぞれ効果や副作用に特徴があり、タルセバは生存期間を25%延ばす結果がある半面、湿疹や1割弱の患者に重篤間質性肺炎が起きている。
ジェムザールは副作用が少なく重篤患者にも使いやすいが、効果はタルセバには及ばない。
TS―1も肺の副作用が少ないが、下痢や食欲不振を起こす患者もいる。

井岡副部長は「抗がん剤をどう使うかは患者の状態や希望で異なる。患者と相談しながら決める」という。
さらに手術不能だったがジェムザールとTS―1を併用して放射線治療を行った結果、がんが縮小して手術可能となった患者もおり、「今後の可能性に期待している」(井岡副部長)。

抗がん剤の使い方については、「手術なし」が157例と多い県立静岡がんセンター(静岡県長泉町)が中心となり07年に設立した研究グループ「JASPAC(ジャスパック)」も取り組んでいる。
現在34医療機関が参加。「膵臓がん患者は施設ごとでは少ない。
複数の医療機関が協力して、手術に加え、どの抗がん剤をどのタイミングで使うか研究している」と同センターの上坂克彦副院長(肝・胆・膵外科)。

手術後に抗がん剤放射線治療を実施する医療機関も多く、術前治療は注目を集めているものの「抗がん剤単独と放射線併用のどちらが有望か、まだ分かっていない」(上坂副院長)。
このため4月にも術前治療として抗がん剤単独と放射線併用の各治療成績を比較する臨床試験を始める。

膵臓がんを巡ってはがん細胞に栄養を送る血管を狙って攻撃するがんワクチンも注目されていた。
だが開発していた創薬ベンチャーオンコセラピー・サイエンス川崎市)は先月末に臨床試験の結果、生存期間を延長することが認められなかったと発表している。

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出典 日経新聞・夕刊 2011.3.15
版権 日経新聞



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ワイキキビーチ
現地時間 2012.3.17 12:55 撮影