男と女が生まれた深い意味

私たちが生きていること 38億年の歴史が物語る、男と女が生まれた深い意味

・私たちが生まれるには卵と精子の合体が必要だ。
男と女、生物全体で見るならオスとメスが必要ということだ。
そんなのあたりまえと思うだろうが生物学を勉強すると、これは決してあたりまえではないことが
わかる。

・地球上に生きものが登場したのが38億年前だった。
その時の生きものは、恐らく現在のバクテリアに近い一つの細胞だっただろう(原核単細胞生物)。
単細胞生物も生きものだからもちろん子孫をつくりる。
人間とは違って、まず自分自身が大きくなり、中にあるDNA(ゲノム)を倍にした時、二つに分裂する。
こうして元の細胞とまったく同じ細胞が二個生まれる。
これが子孫だ。
こうしてできた二個の細胞がまた二個に分裂すれば四個になり、さらに次の分裂でハ個になるというように子孫はどんどんふえていく。
 
・ここでちょっと考えよう。
一個の細胞が二個に分かれるのだから元の細胞(親と言ってよい)は娘たち二個の中に残る(生物学ではなぜかこれを娘と呼び、息子とは言わない)。
親は死んではいないのだ。
つまり、ここには死はない。
もちろん細胞が大きくなるには養分や水が必要だから、それがなければ死ぬほかない。
一方、人間には寿命があり、どんなに恵まれた環境に置かれてもいつかは必ず死ぬ。
しかし単細胞生物には本来死がないのだ。
私たちは、生と死を対に考えるが、生命誕生の時には死はなかった。

・実は、生の中に死が組み込まれたのは、性が生まれた時だ。
38億年前の生命誕生の地球上には、分裂して増える、今のバクテリアと同じような原核単細胞生物しかいなかった。
ある時、細胞に変化が起こり、この時に出来た細胞を真核細胞と言い、人間の体と同じ性質を持つようになった。
真核細胞は単細胞での存在出来るが、分裂した細胞が離れずに集まって存在する性質が強く、多細胞が生まれた。

・多細胞生物をつくる細胞は、さまざまな性質になる。
最初の多細胞生物は海綿(カイメン)仲間だったが、そこには骨のようなものもあった。
なかでも大事なのは生殖細胞精子と卵)。
こうしてオスとメスの区別が誕生した。
今の人間のように、親は死に、子孫は新しく受精卵から生まれることになった。
このような変化が起きたのは、地球上に細胞が生まれてから20億年以上たってからのことだ。

・つまり、個体が死んでまったく新しい個体が生まれることになったのはオスとメス、つまり性ができてからのことなのだ。
性が存在するということにはこのような大きな意味があるのだ。
 
・死という大きな犠牲を払ってまで性があることになったのはなぜだろう。
性が誕生する前を考えてみると、一個の細胞が分裂し、同じものがふえていく・・・。
これではさまざまな生きものは生まれない。
今の生物界は、性のある多細胞生物が生まれ、卵と精子という二つの細胞が混ざり合って新しい個体を生み出したからこそ、これほど多様になったのだ。
性と死と共に、多様性という生きものが生き続けるためにとても大事なことを手に入れたことがわかる。
サカナもカエルもイモリもトリもタヌキも、そしてさまざまな昆虫や草や水も・・・いつもはあたりまえと思って見ているまわりの生きものたちを、みんな性と死があってこその存在だと思って見直そう。

・人間一人一人が唯一無二の存在であるのも、もちろんこの中にあってのことなのだ。
男性と女性という存在は、生きることそのものを支えるとても本質的なものであり、両方の性あ
っての「生きる」であることが38億年の歴史から見えて来る。
日常の中で、ホント男って困ったものだ、と思うことは少なくないが、長い眼でゆったりと見直すと大らかな気持ちになれるのではないだろうか。
                      (生命誌研究者 中村圭子

私的コメント
これで、自分の「死」というものを何となく受け止めることが出来るかも知れません。
生きていることも「仮の姿」ということも実感出来ます。