タミフル、頼り過ぎ注意

タミフル、頼り過ぎ注意

抗インフル薬の正しい服用法 耐性ウイルス増やす恐れ
インフルエンザの治療薬の代名詞ともいえる「タミフル」。毎冬のインフルエンザシーズンでは、1日でも早く症状を抑えるために多くの人が服用する。特に日本は世界最大の消費国だ。だがタミフルが効きにくくなった耐性ウイルスが国内でも増える傾向にある。4月には国際研究グループが薬の効果に疑問を投げかける報告書をまとめるなど、タミフルを巡る状況も変わりつつある。

頭痛、関節痛に筋肉痛と1週間ほどつらい症状に見舞われるインフルエンザ。
毎年流行する季節性ウイルスは主に3種類ある。
A型がHINI型とH3N2型(A香港型)、それにB型だ。
HINI型は従来はAソ連型だったが、2009年に新型として世界で流行した豚由来タイプに取って代わられたと考えられている。
タミフルはどの型にも処方される。
 
異なる効果の見解
タミフルは体内に侵入したウイルスの増殖を抑える作用がある。
症状が現れてから48時間以内に服用することが推奨され、迅速検査と組み合わせて日本では年間約800万人が服用する。
国内では01年に発売されたが、05年ごろは世界のタミフルの7~8割、最近でも5割前後を日本が消費しているといわれる。
しかし、今のところ科学的にはっきりしている効果は「4~5日の発熱期間を1日ほど短縮する」ことだけだ。
  
日本では1日でも早く仕事に復帰するために多くの人が服用する風潮がある。
一方、欧米ではもともと健康だった人に対し、自宅で療養して体調の回
復を待つように勧めるのが一般的という。
薬を飲んで1日も早く楽になれると見るか、回復までたった1日の差ととらえるかは国によって違う。
 
タミフルは日常の治療で使うだけでなく、鳥インフルエンザが人から人に容易にうつるタイプに変異し流行する新型インフルエンザ対策として
各国が備蓄している。
このためタミフルの実力を見極めようとする研究が続いている。
  
「効果は限定的だ」。
4月末、英オックスフオード大などのグループは、タミフル製造元のスイスの製薬大手ロシュの臨床試験のデータを請求して独自の解析結果を発表した。
内容は、1日程度は発熱期間を短くするものの吐き気などの副作用があり、感染拡大も重症化も抑えられないというものだった。
 
これとは異なる結論を出したのが英ノッティンガム大学のグループだ。「09年の新型の流行時に抗インフル薬を使い、重症化を防ぐことができた」。
今月(2014年6月)4日、多くの研究者が集まって都内で聞かれた
抗ウイルス薬に聞する国際会議の席でこんな発表をした。
世界中から約3万人分の入院患者のデータを集めて分析。
タミフルや、別の抗インフルエンザ薬である「リレンザ」などに一定の効果があるとの結果をまとめた。
 
世界でも論争が続いている状況だが、国内の研究者はどうみているか。
「重症化した場合の死亡率を3~4割程度は減らせるのではないか」という見解や「万能の薬ではないが、最大限活用するのが現実的」との考えがある。
 
感染症対応に一石
タミフルに頼るとしても懸念材料がある。
耐性ウイルスの出現だ。
ウイルスは頻繁に遺伝子変異を起こし、その中で薬の作用に耐えられるタイプができてしまう。
13~14年にかけての冬には、北海道などでHINI型で耐性を持つウイルスが検出された。
国立感染症研究所の調査によると、耐性ウイルスの割合は全国で4%程度で、最近は増加
傾向にあるという。
 
専門家の間では当初からタミフルでも耐性ウイルス出現が予想されていた。
耐性を獲得する代わりに増殖能力が低くなり、それほど広がらないのではという見方もあった。
 
耐性ウイルスの割合は、しばらくは少なかったが08年に一気に高まった。
北欧で最初に見つかったAソ進型の耐性ウイルスが世界に広まった。

ソ連型は翌09年に流行した耐性を持っていない豚由来タイプに取って代わられたた
め、このときは耐性ウイルスは姿を消した。
「不幸中の幸い」と表現する研究者もいる。
 
耐性ウイルスがいつ、どこで急増するのかは分からない。
タミフルを多く使うと耐性ウイルスが生まれるリスクが高まることもある。日本は適切な使用を考えるべきだ」と警告する専門家もいる。
 
「1日でも早く仕事に戻らねば」と思う人も多いだろうが、タミフル問題が感染症との付
き合い方や仕事の進め方を見直す機会になるかもしれない。

出典
日経新聞・夕刊 2014.6.13


<関連サイト>
4種類の抗インフル薬で解熱効果に大差なし、B型ではリレンザがやや良い傾向
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/special/flu/topics/201210/527237.html
タミフルリレンザラピアクタ、イナビルの4種類の抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)は、A型あるいはB型においてともに解熱効果に大きな差が見られなかったことが示された。ただ、B型ではリレンザがやや良い傾向があることも報告された。

抗インフルエンザウイルス薬 について
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002n2pk-att/2r9852000002n2r1.pdf

日本感染症学会提言「抗インフルエンザ薬の使用適応について(改訂版)」
http://www.kansensho.or.jp/guidelines/110301soiv_teigen.html

抗インフルエンザ薬の特徴と比較一覧 | 作用機序や副作用など
http://for-guests.com/anti-influenza-drugs-2205/

抗インフルエンザ薬の作用機序
http://kusuri-jouhou.com/training-course/influenza8.html