空腹時血糖が正常でも油断は禁物

空腹時血糖が正常値なら、糖尿病は心配しなくていい?

会社勤めを続けている限り、避けては通れない職場の健康診断。
自覚症状のない病気を見つけてくれるのは有難いが、仕事に追われるなかで再検査を受けるのはできれば避けたいのが人情。
異常値を指摘されたとしても、どこまで生活を見直せばよいのか、今ひとつ釈然としない人も多いだろう。

職場健診では、糖尿病を早期発見する目的で「糖代謝」の検査が行われている。
代謝の状態を調べるには、血液検査で「血糖値」と「ヘモグロビンA1c」の数値を見るのが基本だ。
 
血糖値とは、脳や筋肉などのエネルギー源として使われる血液中のブドウ糖(=血糖)の濃度のこと。
静脈血漿1dLに含まれるブドウ糖の重量(mg)で示される。
 
血液中のブドウ糖の量は食事によって変動するが、膵臓から分泌される「インスリン」というホルモンの働きによって、一定範囲内に保たれるようになっている。
ところが、このインスリンの分泌量が少なかったり、分泌はされていても作用が不十分だったりすると、血液中のブドウ糖の量が多くなる。
こうした高血糖の状態が慢性的に続く病気が「糖尿病」だ。

糖尿病初期では、空腹時血糖は正常だが食後に高血糖を示す人も多い。
 
食事前の血糖値は通常、110mg/dL未満に保たれている。
食事をすると、30分程度で血糖値が上がり始め、90分程度でピークに達し、4時間程度経つと食事前の数値に戻る。
健康な人では、食後の血糖値のピークは最高140mg/dLほどで、食事前の血糖値から30%を超えて上がることはほとんどない。
一方、糖尿病の人は、病気の状態によって異なるため一概には言えないが、食事前の血糖値は126mg/dL以上あり、食後のピークには200mg/dL以上になる。
そして、その後もなかなか下がらず、高血糖の状態が続く。

このように、血糖値は食事と関連して変動するため、職場健診では一般的に、最も安定しているといわれる「空腹時血糖」を調べる。
職場健診の日に朝食や昼食を抜くよう指示されるのはこのためだ。
ちなみに、食事の時間と関係なく血液検査をする場合の値は「随時血糖」と呼ばれる。
 
ただし、糖尿病の初期では、空腹時血糖には異常がなく、食後に高血糖を示す人も多い。
糖尿病の初期にはまだ、インスリンがある程度は分泌・作用しているため、空腹の状態が長く続いていると、血糖値は正常値程度まで下がる。
しかし、インスリンの働きが低下しているので、食後は高血糖となり、下がるのにも時間がかかる。
 
つまり、空腹時血糖を調べるだけでは、糖尿病を見つけにくいケースもある。
そこで、糖尿病の診断には、血糖値だけでなく、ヘモグロビンA1cも用いられている。

一度の血液検査で糖尿病と診断される場合も
ヘモグロビンA1cは、血液の赤血球に含まれるヘモグロビンにブドウ糖が結合したもので、1日の血糖値の平均が高いほど増える。
血液検査でヘモグロビン中にヘモグロビンA1cが何%あるかを調べることで、検査前の1~2カ月間の血糖値の平均値を推察できる。
 
ヘモグロビンA1cはもともとは糖尿病患者さんの血糖コントロールの状態を見るために使われていたが、変動する血糖値と比べて判定しやすいため、1970年代半ばから糖尿病の診断や職場健診にも用いられるようになった。
米国などではヘモグロビンA1cだけで糖尿病を診断することもあるようだが、日本ではあくまでも血糖値と併用して診断する。
 
ヘモグロビンA1cの採用による最大のメリットは、1回の血液検査で糖尿病と診断できるようになったことだ。

かつては、血液検査で糖尿病が疑われた人には、二次検査として『ブドウ糖負荷試験(OGTT:Oral Glucose Tolerance Test)』が行われていた。
OGTTでは、空腹時の血糖値を調べたうえで、75gのブドウ糖液を飲み、30分間隔で2時間後まで血糖値と血中インスリン値を測定する。
代謝の状態が詳しく分かる一方で、患者さんや医師の負担が大きく、費用もかかる。
そのため現在では、厳密な血糖コントロールが必要な『妊婦糖尿病』が疑われる妊婦さんに実施する以外は、ほとんど行われていないのが実情だ。

<私的コメント> 
個人的には今も昔も糖尿病の状態を把握するための重要な検査と考えています。

日本糖尿病学会では、糖尿病の診断には、以下のような基準を設けている。

まず、血液検査で血糖値とヘモグロビンA1c値を調べる。
空腹時血糖値が126mg/dL以上なら「糖尿病型」、60mg/dL以上110mg/dL未満なら「正常型」、どちらにも属さない場合(110mg/dL以上126mg/dL未満)は「境界型」と判定される。
随時血糖の場合は、200mg/dL以上で「糖尿病型」となる。
 
空腹時血糖値または随時血糖値で糖尿病型と判定され、同時にヘモグロビンA1cが6.5%以上だった場合には、1回の血液検査で糖尿病と診断される。
また、血糖値で糖尿病型と判定され、糖尿病の典型的な症状(のどが渇く、体重の減少、尿量の増加など)や明らかな合併症(糖尿病網膜症など)がある場合にも、同様に1度の検査で糖尿病と診断される。

「境界型」は糖尿病予備軍。必ず再検査、生活改善を
一方、1回の検査では判断できず、再検査が必要となる場合もある。
 
再検査で血糖値とヘモグロビンA1cのいずれも『糖尿病型』でない場合などは『糖尿病の疑いがある』にとどまることになるが、『自分は将来、糖尿病になる可能性が高い』という認識を持つほうがいい。
血糖値が『境界型』の場合も“糖尿病予備軍”と捉えて、再検査は受けるようにしたい。
 
糖尿病は進行するまで自覚症状が表れにくく、放置していると糖尿病網膜症や糖尿病性腎症など、深刻な合併症を引き起こす。
血管の老化も早く進み、動脈硬化による脳卒中心筋梗塞などのリスクも高まる。
 
職場健診の糖代謝検査で「要注意」「要再検査」などと判定された人、特に肥満や飲酒の習慣がある人は、次のような生活習慣の改善を心がけるといい。

1)食事は規則正しく、間食はしない
 3度の食事はなるべく毎日同じ時間にとり、間食はしないようにする。また、朝食・昼食をしっかりとって、夕食は軽めにする。

2)定期的に運動をする
 30~60分程度のウオーキングなどを毎日続ける。時間が取れない場合は、通勤時などになるべく多く歩き、休日にいつもより時間をかけて運動するように心がける。

3)カロリー過多になる習慣を控える
 特に、飲酒や外食の習慣がある人は、カロリー過多になりやすいので要注意。ご飯の量は1日の食事を合わせて400g程度を目安にする。




<糖尿病豆知識>
● 一度発症すると2型でも糖尿病の体質になり、一生の付き合いとなり、食事制限、運動療法、規則正しい生活、そして定期的な診察が必要で、医療費も馬鹿にならない。

● 刺身など新鮮な食材で素材そのものの旨味を活かす。フッ素加工のされているフライパンを利用して油を少なくする。網焼きや蒸し器などで、余分な油を落とす。レモン、ライムなどの柑橘類を取り入れる。海藻やきのこなどの低カロリーの食材を使う。

● パンを食べるときには、サラダやヨーグルトなどを一緒にとるとよい。

● 「シナモン」が血糖値、コレステロール値、中性脂肪値を下げ糖尿病の治療に効果がある。シナモンには、インスリンを増大させる機能と抗酸化作用がある。しかし、適量をほどほどに摂取する事が大切なのであって、大量の過剰摂取はしないようにしよう。食べ物に何でもかんでもシナモンパウダーをかけるのではなく、1日に1杯コーヒーにパラパラと振りかけて飲む程度にしておこう。

● “可溶性食物繊維を多く含む食材” 野菜 きのこ あずき グリーンピース プラム

● パンを食べるときには、サラダやヨーグルトなどを一緒にとるとよい。