まばたき、脳に休息効果

まばたき、脳に休息効果 健康状態つかむ指標にも

人間は1分間に平均で20回もまばたく。
目を乾燥から守るためと考えられていたが、これほど回数が多い理由はわかっていない。
その謎に脳科学や心理学などから迫ろうという研究が進んでいる。
脳をリフレッシュさせるなど新たな役割が見つかった。
病気や心の状態をつかむ指標に役立てようという成果も出ている。
 
まばたきは霊長類に特有の生理的な行動だ。
ネコやイヌはほとんどまばたきをしないのに、チンパンジーニホンザルは1分間に10回以上まばたく。
京都大学霊長類研究所などの研究では、群れの規模が大きくなるほど回数が増えるという。アイコンタクトのようなコミュニケーションに使っているとみられる。

無意識にやっているまばたきは、目を守るための行動だと考えられてきた。
まばたいたときに涙が出て目を潤すほか、強い光から網膜などを守る。
強い光が当たると、反射的にまぶたを閉じる仕組みが目にはある。
しかし、目を潤すためなら1分間に3回もまばたけば十分だといわれる。
多くの科学者が別の役割があるはずだとみる。
 
まばたきは脳内の情報処理と密接に関わっている。
乳児は1分間に1回ほどしかまばたかない。
まばたきは人間の成長や発達と関係しているようだ。
 
こんな研究がある。
男女10人に30分の映画を見せ、まばたきに伴う脳活動の変化を機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)で観察した。
集中力を発揮するときに働く脳の活動がまばたきに合わせて一時的に低下した。
これとは反対に、リラックスした際に活動する領域は血流が増えて活発に働いた。
ただ、意識的にまばたきを増やしても、脳はリフレッシュされないという。
 
別の実験で、ストーリーを追うのに重要でない変わり目のタイミングでまばたくこともわかった。
個人的な差はほとんどなく、ほぼ同じタイミングでまばたくという。
まばたきは脳に入る情報に区切りをつけて、新たな展開に備えられるようにする役割を果たしているのではないか、と思われる。
 
肉体や健康の状態を知る手がかりになることもわかってきた。
喫煙でニコチン依存症になりやすいかどうかをまばたきの回数から推測できる可能性があることも分かってきた。
遺伝子を調べて依存になりにくいタイプの人は、そうでない人に比べてまばたきの数が多かった。
診断の指標として利用できるかもしれない、と期待されている。
 
パソコン作業と疲労の関係がまばたきの回数でわかるという研究もある。
1日に2時間以上作業する人は2時間未満の人に比べてまばたきの回数が多い。
こうした人たちは目などの強い疲労を訴えているという。
 
心理学の分野では、まばたきを指標に心の動きを探る研究が進む。
例えば、消費者が興味のある商品を目の前にするとまばたきが減ることを利用し、マーケティングや商品陳列に生かす成果がある。
 
ものごとに集中するとまばたきが減り、不快に思っているときは増えるようだ。
まばたきが減るのは重要な情報を目から入れなければならないからだ。
回数が増えるのは興味がなく、情報入力を拒んでいると考えられるという。
 
まばたきは好感度にも影響するようだ。
テレビなどを見ている人はまばたきによって画面に映る人物への印象を変えるという。
ある大学での実験では、まばたきの回数が多いアナウンサーに対する印象は「神経質で冷徹」になる傾向があった。
 
大勢の人がいるなど緊張しやすい場面では、まばたきの回数が増えやすい。
米国の研究では、大統領選のテレビ討論会を分析すると、まばたきが多い候補者が負ける傾向にあった。
多いと視聴者や観客に悪い印象を与えるからで、はずれたのは2000年のブッシュ前大統領くらいだとされる。まばたきの回数を減らす練習をして討論会に臨む候補者が多いという。
 
同じ人でも、まばたきは1分間に数回から50回まで大きく変わる。
目は口ほどにものを言うとされ、まぶたの動きにも心の働きが現れるとみられる。
まばたきの役割に注目する研究者は増えており、異分野からの参入も多い。
こうした連携の中から新たな発見が出てくるのかも知れない。

「まばたき」の生理的な役割
・涙で目を乾燥から保護
・涙に含まれる抗体で細菌などを退治
・目に入ったゴミを涙で洗い流す
・目を動かしたときの像のボケを修正
・強い光から角膜や網膜を守る

「まばたき」「無意識」3種類
人間のまばたきには3種類ある。
ひとつが無意識に目を閉じたり開いたりする周期的なまばたき。
このほかに、光が目に差し込んできたときに反射的にとじるまばたき、ウインクのように意識的にするものがある。 
1回のまばたきの速さは平均で0.1~0.15秒だといわれている。
 
まばたきは人間の心理状態や人格を映す指標として注目されてきた。
近年は統合失調症てんかんの患者に特有のまばたきのパターンを研究しているほか、疲労やストレスを測る指標としても注目されている。
従来は心理学から研究されてきたが、医学や工学、社会科学などの研究者も関心を持っている。


参考
日経新聞・朝刊 2016.5.12