脳卒中の後遺症改善 神経リハビリ

脳卒中の後遺症改善 神経リハビリ多様に

装具、脳波で動かす
手足がマヒして不自由な生活を余儀なくされる脳卒中の後遺症。
これを改善する「ニューロ(神経)リハビリテーション」と呼ばれる治療法が注目されている。
ダメージを受けた脳の細胞の働きを、近くの細胞が補う仕組みを利用する。
発症から数年たった患者でも効果が確認されるケースがあるなど、従来のリハビリの常識を変える結果が出ている。

脳卒中は脳の血管が詰まったり破れたりする病気の総称で、大きく脳梗塞脳出血くも膜下出血に分かれる。
発症して一命をとりとめたとしても、脳の細胞がダメージを受けた影響で手足のマヒなどの後遺症が出やすい。
厚生労働省の調査によると、脳卒中は介護が必要になる原因の2割近くを占めている。

'''来年(2016年)実用化狙う
慶応義塾大学病院のリハビリテーション科で、2016年の実用化を目指しているのが「BMI療法」だ。
BMIブレイン・マシン・インターフェースの略で、脳波などを読み取ってその命令で機械を動かす最先端技術だ。
これをリハビリに応用する。

患者は頭部に脳波を読み取る装置を、マヒした腕にモーターで手の指を動かす装具を着け、指を伸ばすよう頭でイメージをする。
すると脳の運動に関連した部分の活動が活発になる。
それに伴う脳波の変化を装置が読み取り、その合図で装具を動かす。
これを繰り返すことで手を動かす脳の神経回路を再構築する。

BMI療法の対象となるのは指を伸ばす筋肉が全く動かせない重度の片マヒの患者。
実際の治療ではイメージ作業を1日1回40分間、10日間実施する。
臨床試験では約7割の患者でマヒの改善を確認した。

BMI療法に先立って同病院で開発され、既に多くの医療機関で実施されているのが「HANDS(ハンズ)療法」だ。
BMI療法よりマヒの程度がやや軽く、手を動かそうとするときに筋肉に表れる電位変化(筋電)を検出できる患者が対象となる。

患者はマヒした側の腕に、電気刺激によって指の動きを手助けする装具を着ける。
患者が指を伸ばそうとしたときに腕の筋肉に発生する筋電をとらえて、装具が動く仕組みだ。

治療期間は通常3週間で、1日8時間、電気刺激装置と装具を着けて、毎日1時間程度の作業療法訓練を行うほか、訓練以外の時間でも日常生活でマヒ側の手を使うようにする。

重度の患者がまずBMI療法で症状を改善した後、HANDS療法や通常のリハビリに移行できる。
さらに、患者側の条件によっては適用できない場合があり万能ではないが、リハビリの可能性を広げる有力な選択肢だ。

マヒ側の手訓練
特別な装置や器具を使わないニューロリハビリも普及し始めている。
代表的なものが米国で開発された「CI療法」だ。
マヒしていない側の腕を拘束して使えない状態にした上で、マヒ側の手で、様々な作業を難易度を上げながら集中的に実施する。

CI療法のメニューは、テーブルの上に積まれたお手玉をマヒした手でつかんで床に落とす、輪投げの輪を手で運んでピンに通す、ブロックを積み上げる、などだ。
Aさんは2回にわたるCI療法を経て、現在は「手を強く伸ばすなど一部の動作は難しいが、普通の動きはか

CI療法はマヒした側の指が別々に動かせるなど、運動機能がある程度残っている場合に有効だ。

筋肉の緊張を緩和する「ボツリヌス療法」などを組み合わせることもある。
患者が作業課題に取り組みやすくしたうえで、CI療法を実施して効果を高める。
CI療法の効果を定着させるため、日常生活でマヒした側の手を積極的に使い続けてもらう指導も大切となる。


<ニューロリハビリテーションの主な手法 ~ 手・指向け治療が主流>
C I 療法
脳卒中などでマヒしていない側を拘束し、訓練課題を集中的に実施して、マヒ側の随意運動を誘発・改善する

H A N D S 療法
マヒ側の腕に電気刺激装置と手関節を固定する装具を装着。
指を動かそうとしたときに筋肉に発生する電気をとらえ、電気刺激によって運動を補助する

B M I 療法
患者がマヒした指を動かすようイメージしたときの脳波の変化を捉え、腕に装着した電動装具が作動する。
HANDS療法よりマヒの重い人が対象

ニューロフィードバック
脳の血流の変化を測定するセンサーを頭部に着け、脳の運動に関係した部分が活性化する様子をモニター画面で見ながら、手や指を動かす様子をモニター画面で見ながら、手や指を動かす様子をイメージする

N E U R O(ニューロ)
磁場によって脳を刺激する反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)で手足を動かしやすい状態にした後に、集中的に作業療法を行う

促通反復療法(川平法)
患者が手足を勣かそうとした瞬間にその動きを担う筋肉を刺激する施術を繰り返す。
これにより、別な神経回路を通じた運動を引き起こす

ロボット療法
上肢用ロボットでは、マヒした手でアームを握って、様々な難易度の動きを繰り返す。
下肢用では歩行の踏み出しを促す機能などがある


脳卒中の後遺症による片マヒのリハビリは従来、マヒのない側を訓練し片手で日常生活を送れるようにするのが主流だった。
新手法によりマヒした側の機能をある程度回復できる可能性が出てきた。
 
脳の信号を読み取る機器を使う方法以外に、リハビリ用ロボットを使う手法、特殊な施術を通じて筋肉を刺激することで神経回路の再構築をはかる促通反復療法(川平法)など、治療法もさまざまだ。
 
ニューロリハビリの対象は、手や指向けと足向けがあるが、現在は手や指の機能回復を目的としたものが多い。
脳卒中患者のうち後遺症が出るのは約半数。
約6割が歩けるようになる一方、手が動かせるようになる人は15%程度にとどまり、機能回復のニーズは高い。


参考
日経新聞・夕刊 2015.12.24