人の体の「原型」は女性?

人の体の「原型」は女性?

Y染色体があると男性」というのはあくまで原則。
Y染色体があっても体、心は女性という人がいる。
ひとりの人の中で「遺伝的な性」「体の性」「心の性」が一致しないこともあり、性のあり方は多様で複雑だ。

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胎児は初め、男性でも女性でもない。
最初の分かれ道は、性腺が精巣か卵巣のどちらになるか。
Y染色体があると受精後7週目ごろから精巣に変わる。
 
精巣は精子を作る器官だが、胎児では、体を男性化させるホルモンを出す働きが大切だ。
これによって、精子がたまったり、通ったりする器官が発達し、子宮や卵管の元になる器官は消えてゆく。
腹部にある精巣は股間に移り、外性器も男性型になる。

Y染色体がないと、一連の変化が起きない。
性腺は卵巣になり、卵巣はホルモンを出すことがなく、子宮や卵管が発連して、外性器は女性型になる。
このため、人の体の「原型」は女性とも言われる。
 
こうした過程で支障があると、性の不一致が生じる。
例えば「完全型アンドロゲン不応症」。
Y染色体を持ち、体内に精巣ができて男性ホルモン(アンドロゲン)も作られる。
でも、その受容体が働かず、外性器などが男性化しない。
外見は典型的な女性だ。
男性ホルモンが弱く働く「部分型」の人もいて、その強弱で、男性化の程度も変わる。
 
Y染色体がない人でも支障が起きる。
副腎という組織で男性ホルモンが作られる異常があると、卵巣や子宮、卵管があっても、外性器が男性化する。
 
これらは遺伝子変異が主な原因で、「性分化疾患」と呼ばれる。
様々なケースがあり、出生時に性器の形で性別を判断しづらいこともある。
性別を迷うような重症は4500人に1人と言われるが、軽症を加えればさらに多い。
 
判断に迷う時は、医療チームと家族が話し合って戸籍上の性別を決める。
重視するのが、将来自分のことを男性と思うか、女性と思うか。
脳の性である「心の性」だ。
 
心の性は養育で決まるという考えが過去にあった。
今は、脳も胎児期に浴びる男性ホルモンで男性化する、という説が有力。
ただ、赤ちゃんの段階で心の性を正確に調べる手段がなく、「性器の形やどのケースにどちらの性別が合っていたかという過去のデータに頼らざるを得ないところもある。

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体は典型的な男性あるいは女性でも、心の性と一致しない「性同一性障害GID)」の人もいる。
国内に数万人いるとみられ、原因は詳しくわかっていない。
 
GID当事者の多くは、物心つく頃には体の性に違和感があり、体つきが変わる思春期にその思いが強くなる。
 
体の性に無理に合わせようとすると、うつや自殺のリスクが高まる。
それぐらい心の性は強い。
 
このため、ホルモン療法や性別適合手術で、体を心の性に合わせる治療が選ばれている。2004年に施行された法律で、手術を受けていることなどを条件に、戸籍の性別変更も認められた。
  
身長が違うように、性も典型的な男性、女性から広がりを持っている。
こういった性の様々な姿は、男性にも女性にもなれるという、多くの生物に共通した仕組
みに根ざしている。
 
また、こうした多様性を社会が受け入れられないことが、差別や偏見につながっている。

<番外編>
26年前、性腺を精巣に変えるスイッチ役の遺伝子「SRY」がY染色体で見つかった。
実はこれが男性化の主役。
SRYさえ働けば、男性化か始まる。
哺乳類以外ではスイッチ役が別の遺伝子だったり、卵の置かれた温度だったりと様々だ。こんな点でも性の奥深さが感じられる。   

 
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参考
朝日新聞 2016.11.19