「食べる力」を鍛えて体調改善

「食べる力」鍛え体調改善

口からふつうに食べられることは人生の楽しみであるだけでなく、栄養状態の維持や病気からの回復にもかかわっているらしいことがわかってきた。
食べる力を取り戻すためのリハビリテーションに取り組む施設もあり、衰えを早めに知るための健診も始まっている。

脱・胃ろう 早めに訓練
「これなら食べられるでしょう? 見て下さい」。
ある地域保健医療センターの医師が入院患者の一人、Mさん(69)の口元にスプーンに乗せたゼリーを運んだ。
Mさんは一目みてから口に入れ、かみ始めた。
 
Mさんは今年1月と6月に脳卒中を起こした。
食べ物などが誤って気管に入って起きる「誤嚥性肺炎」を繰り返し、9月に別の病院で胃に直接栄養を入れる胃ろうをつける手術を受けた。
10月初旬、同センターに転院。
約10日間でゼリー食を口にできるようになった。
妻のKさん(67)は「こんなに早く口からとれるようになって驚いた。退院したら、大好きな牛肉を食べてほしい」と言う。
 
同センターでは医師や看護師、管理栄養士、歯科衛生士らでつくる「摂食嚥下栄養療法部」があり、胃ろうをつけた患者ができるだけ早く口から食べられるように取り組む。
日中は横にならないようベッドを起こし、少しでも運動量を保ってもらう。
口の中のケアや、食べる力にかかわる筋肉のストレッチ、舌を動かす練習などをしながら、少しずつ食べる訓練をする。
 
食べ物をのみ込む「嚥下」の機能が落ちている人は、そうでない人と比べて体重や食事量などでみた栄養状態が低めの場合が多い。
国内の高齢者約900人を対象とした調査でそんな結果が報告されている。
逆に、口からの食事を早めに再開できれば、全身状態の改善も早められる可能性があるわけだ。
 
実際、Mさんらが誤嚥性肺炎で入院した高齢者約330人の経過を分析すると、入院の2日以内に口からの摂取を試みた人が治療に要した期間は8日間ほど。
とりあえず禁食にした人たちより、5日間ほど短かった。
 
Mさんは「胃ろうは患者にとって必要なこともある。ただ、胃ろうをつけたことで口から食べるための支援をやめないでほしい」と話す。

のみ込む力 鍛え保つ
脳卒中などをきっかけに、のみ込む機能が障害を受けたり、誤嚥性肺炎を繰り返したりすると、口から食べるのが難しくなって胃ろうが必要になりやすい。
 
ただ、のみ込む力がいったん落ちても、リハビリによって口からの摂取に戻すことが期待できる。
機能は自然に回復することもある。
 
厚生労働省研究班が、胃ろうで栄養をとっていた人を対象に調べると、特別なリハビリをしなくても口から食べる能力があると判断できた人が約3割いた。
食べる機能の状態を十分に調べず、主治医が「(口からとるのは)何となく危なそうだ」と判断して胃ろうにする例も多い。
 
認知症パーキンソン病などの場合、食べる機能は回復しにくく、リハビリの効果が出にくい。
こうした病気の人に「訓練すればよくなる」と過剰に期待することは、本人や家族を追い詰めることになる。
本人が何を望み、リハビリでどこまでの回復が見込めるのか、医療者らとよく相談してほしい。  
 
ウェブサイト「摂食嚥下関連医療資源マップ」は、内視鏡などを使ったのみ込む機能の検査やリビリに取り組む全国の医療施設などが紹介されている。

のみ込む力を保つためには口を大きく開けたり、仰向けの状態から頭を起こしたりして、の
どの筋肉を鍛える運動が効果的だ。
また、背筋が丸まってくると、呼吸が浅くなって誤嚥が起きやすくなる。
深い呼吸ができるようにするためには腕を組んで頭の上に挙げる運動が有効だ。
 
ふつうに座る姿勢をとれるといったことが、食べる力を取り戻すためには重要となる。

食べる力のやや落ちた入院患者95人を対象にした別の調査でも、全身の筋肉が落ちた人はそうでない人に比べて、後になって嚥下障害を起こしやすかった。


衰え 歯科健診でチェック
食べる力の衰えを早めにキャッチするため、75歳以上の人を対象とした歯科健診が一昨年度から始まっている。
後期高齢者医療制度の一つ。
虫歯や歯茎のチェックに加えて、30秒間に何回唾液をのみ込めるか、舌をうまく動かせるかなどを調べるのが一般的だ。
食事中にむせるなど食べる力が落ちても、早期であれば改善にもつながりやすい。
自身の口腔機能について知る機会として活用したい。
 
検査項目や対象年齢などは地域によって差がある。
すべての地域で実施しているわけではないので、厚労省は「居住する市町村で高齢者医療を担当する部署に問い合わせてほしい」という。

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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2016.11.2