熱中症 今すぐ対策

熱中症 今すぐ対策 暑さ慣れない体 発汗作用鈍く/車で昼寝 短時間でも危険

夏の事故と思われがちな熱中症だが、実は新緑の季節でもよく発生する。
真夏と違い、体が暑さに慣れておらず体温調節に重要な発汗機能がまだ鈍いからだ。
また、気持ちも油断しがちでエアコンの利用や水分補給も後手に回る。大型連休など、外出する機会も増え始めるこの季節ならではの注意点を探った。

春先のキッチンでも、うっかりすると熱中症になる。
熱中症というと炎天下での行楽などが連想されるが、春でも家庭の暮らしの中にも危険は潜む。

最近はマンションなど気密性の高い建物が増え、日当たりの良い部屋では、夏ではなくても気温は高くなりがち。
室温が高いなか、ガスコンロの前に立ち続けるなどして、春でも自宅にいながら熱中症になることもある。
 
真夏に比べればそれほど暑くない春に、なぜ起こるのか。
発汗機能という体のメカニズムが、発症を抑える上で鍵を握る。
本来は汗が気化することで熱を奪い、体温を調整する。
ただ、春先は体が冬の気候に慣れたままの状態で、夏場に比べると汗をかきにくくなっている。
 
一方で5月は暑い日が急速に増え始める時期。
東京における最高気温25度以上の「夏日」の日数(1981~2010年の平年値)は、4月の1.4日から5月は9.3日に跳ね上がる。
暑くなり始める時期に、体がしっかり対応できておらず、環境と体調のバランスを取りづらいのがこの季節の特徴だ。

水分補給は十分に
水分をしっかりとれば、熱中症の防止策となる。
ただ、行楽シーズンが始まったばかりの季節では、十分な水分補給がおろそかになりやすい。
 
例えば、野球観戦。ひいきのチームが勝っても負けてもスタンドではビールのピッチが早くなりがちだが、喉を潤した気になっても、体温調節に必要な汗をかく水分は体内に残っていない可能性がある。
行楽地では、アルコールや、コーヒー・紅茶などカフェイン入りの飲料を飲むことも多いが、これらは利尿作用が強く、摂取した水分が体内にとどまりにくい。
脱水症状はそれ自体が危険だし、熱中症のリスクも高まる。
春でも屋外活動ではスポーツ飲料などの携帯を心掛けたい。
 
春の熱中症の大きな要因として、「まだ暑い季節ではないという思い込み」がある。
春の陽気のなか、外回りの営業マンが車で仮眠をとったり、家族を送迎する合間にマイカーで昼寝をしたりする人の姿もよく目につく。
車中における熱中症の事故は真夏の炎天下より春先から初夏にかけて発生する傾向がある。
 
JAFが最高気温23度の比較的過ごしやすい春の日に、車内の温度を測定する実験をしたところ、ダッシュボード付近で70.8度まで上昇し、運転席の顔付近も48.7度に達した。
春だと近隣への配慮などもあり、住宅街などでは、駐車中の車でもエアコンをかけず、せいぜい窓を開けるだけでしのぐ人も目立つ。
ただ、風のない日は窓を開けても、車内の気温を下げる効果はあまり期待できない。
特に子どもや高齢者は短時間であっても車内に残すのは危険なので、注意が必要だ。

満員列車も要注意
日陰も安全ではない。
オフィス街の裏路地などが盲点になる。
風通しが悪くて湿度が高いと、汗をかいても気化しにくい。
車通りが多い幹線道路が近い場合などは温度も高くなりやすい。
 
5月は入社や転勤など環境の変化で疲れも出てくる時期。
通勤時の満員列車にも注意が必要だ。
クールビズも始まるが、そもそも上着の着用が必要なケースもあり、朝晩の肌寒さで衣替えも遅れ気味になる。
最近は鉄道会社も気候に応じて柔軟に冷房を運転するが、体調が悪いまま、ほぼ正装で人混みにもまれれば、熱中症の症状が出る危険性はある。
人混みでは体感温度がさらに2~3度は高くなるという。
 
「まだ夏ではない」という思い込みは体や心を油断させる。
対策の一つとして、暑くなる前から適度な運動も心掛けたい。
発汗機能を“始動”させるだけでなく、「暑さ対策が必要な季節だ」という意識付けにもつながる。

参考・引用
日経新聞・夕刊 2017.5.1