加齢黄斑変性

加齢黄斑変性 薬の注射で視力維持

50歳以上の人に起こりやすい加齢黄斑変性
有効な治療が乏しかったが、眼球に薬を注射する治療薬が複数登場し、視力の維持や改善が見込めるようになった。
負担を減らすため、患者の個別の状態に応じた治療の取り組みも広がりつつある。

iPS細胞を加齢黄斑変性の患者に移植 理研など
麻酔後に注射 日帰りで
「なんだか今日は手元が見えにくいな。ジャガイモの皮がむきにくい」
Yさん(女性、67歳)が目に異変を感じたのは20年近く前、夕飯の支度をしている時だった。
近くの眼科を受診すると、右目の真ん中あたりが見えなくなっていた。
 
その後、加齢黄斑変性と診断された。
高齢などで目の黄斑という部分に変化が生じてものが見えにくくなる病気だ。
黄斑は網膜の中央にある直径数ミリのくぼみで視細胞が集まっている。
ここに異常が起こり、見えにくくなる。
 
Yさんは老廃物がたまって異常な血管(新生血管)が生じ、出血や水分が周囲に染みだす「滲出型」だった。
日本人に多く急速に視力が低下することがある。
Yさんが受診した90年代は、レーザーで新生血管を焼き切ることぐらいしか治療法はなかった。
小康状態を保っていたが、2012年に再発。
今度はその後に出た注射薬による治療を受けることができた。
 
現在の第一選択の治療は、新生血管の成長を促す物質「血管内皮増殖因子」(VEGF)の働きを抑える薬による方法だ。
麻酔した後に、眼球に注射針を刺して薬を患部に送り込む。
治療は日帰りで済む。
 
08年、最初の治療薬「ペガプタニブ」が認可された。
その後、より強力な「ラニビズマブ」「アフリベルセプト」の二つが09年、12年にそれぞれ認可された。
治療薬を柱にした厚生労働省研究班の治療指針も12年に公表された。
 
治療薬の登場で視力の改善も目指せるようになった。
 
Yさんは年1~4回治療薬を注射し、視力の低下はほぼ収まっており、「なんとか生活していけるという希望が持てるようになった」と話す。
今もラジオ体操の支援など地域でボランティア活動をしている。

患者は増加 注射回数は症状で判断
加齢黄斑変性は欧米に多い病気だったが、日本でも近年、患者が増えている。
50歳以上の男性に特に多く、成人の中途失明の原因の一つになっている。
主な症状として、障子の桟など格子状のものがゆがんで見えたり、視野の中心部が暗くぼやけたりする。
 
福岡県久山町の大規模調査で、加齢黄斑変性と診断された人の割合は、1998年は0・9%だったのが、2012年には1・6%に増えた。
 
現段階で根治する治療法はない。
iPS細胞で網膜の細胞をつくり移植する臨床研究が始まっているが、実用化はしばらく先になりそうだ。当面は薬で症状が進むのを抑える治療が中心になる。
 
薬による治療では、3カ月間を導入期とし月1回ずつ注射し、その後は維持期として、再発を抑えるために多くが一定の間隔で注射し続ける。
治療薬の一つ、ラニビズマブが出た当初は、維持期は注射せず、検査で新生血管の再発などが見つかってから注射するやり方が一般的だった。
しかし、この方法だと長期間経つと改善した視力が次第に悪化することがわかった。
 
その後に登場したアフリベルセプトは、維持期に2カ月に1回定期的に注射し続ける方法が奨励された。
だが、1回の注射で3割の自己負担だと5万~6万円かかる。
間隔をもっと空けても再発率は変わらないという研究成果もあり、最近は検査で再発がないかを確かめながら個々の患者の状態に応じて徐々に注射の間隔を延ばしていく方法が広まりつつある。
 
改善した視力を維持しながら、なるべく注射の回数を減らすのが理想だ。
どんな状態の患者にどれぐらいの間隔で注射するのが最適かを判断するために臨床データを積み上げる必要がある。

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朝日新聞・朝刊 2017.5.31