広がる「新型」出生前診断

広がる「新型」出生前診断 これまでと何が違う?

妊婦の血液から胎児の染色体を調べる「新型出生前診断」が、国内で開始されてから4年が経った。
母体への負担が少なく、精度の高い検査であることから普及しつつある。

広がる出生前診断 3年半で3万人超
出生前診断とは、胎児の染色体などを、生まれる前に調べる検査のことだ。
1990年代に普及した超音波検査は、妊婦のおなかに超音波装置を当て、胎児の首の後ろに見られるむくみの厚さから、ダウン症候群などの可能性を評価する。
また、母体血清マーカー検査は、妊娠15週以降に妊婦の血液を採取し、血液中のたんぱく質などの濃度を測定して調べる。
いずれも、実際に疾患がある場合に診断できる検出率は8割程度で、この検査だけで診断を確定することはできない。
 
一方、羊水検査の検出率はほぼ100%で、確定診断に用いられる。
超音波装置で胎児の位置を確認してから、腹部に長い注射針を刺して羊水の中に浮遊している胎児由来の細胞を採取して診断する。
ただ、子宮に針を刺すため、約300人に1人の割合で流産が起こる恐れがある。
 
新型出生前診断は、2011年に米国で始まった。
「無侵襲的出生前遺伝学的検査」という名称で、NIPTとも略される。
妊婦の血液を採取し、羊水検査のような母体への負担が少ないことから「無侵襲的」とされている。
妊婦の血液にわずかに含まれている、胎児の胎盤に由来するDNAから、ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーの3種類の染色体異常を調べる。
妊娠10週と早い時期から検査可能で、検出率が99%以上と高いことなどが特徴だが、陽性と判定された場合、羊水検査などの確定検査を受ける必要がある。
 
国内では臨床研究として13年4月に始まり、日本医学会が認定した87施設(17年7月末時点)で実施されている。
対象は、
▽高齢妊娠(分娩時35歳以上)
▽染色体疾患のある胎児を妊娠・出産した経験がある
▽超音波検査や母体血清マーカー検査の結果などから胎児に染色体疾患の可能性がある
――のいずれかに当てはまる人だ。
 
認定施設の9割以上の病院に所属する医師らでつくる「NIPTコンソーシアム」は、今年3月末までの4年間の実施状況をまとめた。
これまでに4万4645人が検査を受け、陽性と判定されたのは1・8%にあたる803人。
そのうち、675人が羊水検査などの確定検査に進み、陽性と確定した人は605人。
その後、94%にあたる567人が人工中絶を選択していました。
 
元々、出生児の3~5%は、心疾患や奇形など何らかの先天性疾患を持って生まれてくる。
その中で、染色体異常は4分の1程度と考えられている。
つまり、NIPTの診断結果が陰性でも、障害を持って生まれてくる可能性はある。
 
この検査を受ける際には、検査でわかることやわからないことを正確に理解しておくことが大切だ。
しかし、近年、一部の医療機関が認定を受けずに検査を提供しているとして、コンソーシアムなどは8月、「遺伝カウンセリングと適切な診療が受けられる認定施設で検査を受けて欲しい」と、妊婦へ呼びかけを出した。
 
一方、体外受精させた受精卵のすべての染色体を調べ、異常がないものを子宮に戻す「着床前スクリーニング」について、日本産科婦人科学会は2月、臨床研究として開始したと発表した。
計100組の夫婦を対象に、この検査が流産する率を下げ、出産率を高めるのかどうかを調べるというものだ。
ただ、「命の選別につながる」という意見もあり、本格的な導入には倫理的な課題が議論になると見られている。

 
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朝日新聞・朝刊 2017.9.16