自覚しにくい高齢者の貧血

自覚しにくい高齢者の貧血 重大な病が原因かも

若い女性に多いと思われがちな貧血は、高齢者にもよく起きる。
ただし高齢者はもともと日常の活動性が落ちていることが少なくなく、症状が目立ちにくい。
重大な病気が隠れていることもあり、注意が必要だ。日ごろから鉄分を多く含む食事をとることが、予防につながる。

「高齢者こそ肉食を」 貧血防ぐ食事の注意点は
認知機能の低下も
貧血は、血液の赤血球に含まれるたんぱく質「ヘモグロビン」が減った状態を指す。
ただし若者と高齢者では、定義が少し異なる。
 
一般的には血液1デシリットル中のヘモグロビンの値が男性13グラム未満、女性12グラム未満だが、65歳以上の高齢者は男女とも11グラム未満の場合に貧血と判断されることが多い。
 
加齢に伴い、貧血は増えていく。
とくに多いのは、ヘモグロビンをつくるのに重要な鉄分が不足する「鉄欠乏性貧血」だ。
 
貧血の典型的な症状は、動悸や倦怠感など。
だが高齢者はもともと日常生活の活動性が落ちていることが多く、さらに症状もゆっくり進むため、こうした症状を自覚しにくい。
典型的な症状はあてはまらず、むしろ合併している病気の症状が前面に出てくることが多い。
 
貧血になると酸素が臓器に行き渡りにくくなり、胸の痛みが強くなるとか、肺気腫のような呼吸器疾患が悪化して呼吸困難になることもある。
脳に酸素が行き渡りにくくなることで、人によっては認知機能の低下や、うつ状態の悪化したような症状が出ることもある。
 
ある調査では、ヘモグロビン値が1デシリットル中11グラム以下になると、高齢者では1年後に1人で外出できなくなる割合が約2・5倍に上昇していた。
貧血は要介護のリスク要因になる。
貧血は、老化が反映された指標ととらえるべきで、健診のヘモグロビン値には日ごろから注意を向けたい。

重大な病が原因かも
別の病や薬が貧血を引き起こすこともある。
 
代表的な病気はがんだ。
胃や大腸などにがんがあり、そこから出血したための貧血がある。
がんは加齢とともに患者が増える。
高齢者で鉄欠乏性貧血とわかれば、胃や腸から出血していないかを検査するべきだ。
 
血液がんの症状として、貧血が現れることもある。
とくに多発性骨髄腫や骨髄異形成症候群などは高齢者に多い。早く診断できれば適切な治療を早く始められる。
胃がんなどで胃を切除した人にも貧血が起きやすい。
胃の切除によって、ビタミンB12が吸収されずに欠乏することが原因となる。
手術から5年ほどたって症状があらわれることが多いため、注意が必要だ。
 
結核などの感染症や関節リウマチなどの慢性炎症でも、赤血球をうまくつくれなくなるなどし、貧血を招くことがある。
 
高齢者の貧血では、加齢に伴う生理的な要因によるのか、背景にある病気の治療が必要なのか、医師が見極めることが必要だ。

気になることがあれば医療機関を受診しよう。

高齢者が多く使う薬が貧血につながることもある。
腰やひざの痛みを鎮めるために使われる鎮痛薬(NSAIDs)は、胃腸の出血が副作用として起きることがある。
また、ワーファリンなど脳梗塞を予防する薬も出血が起きやすくなるため貧血になる場合がある。
必要に応じて薬の使い方を変更することも選択肢になる。

肉類をしっかり ビタミンCもいっしょに
「ヘモグロビン値が1デシリットル中10グラム以下になったら、必ず医療機関を受診してください」
 
鉄のサプリメントを自己流でとると過剰摂取になる恐れがある。
貧血予防自体には鉄分を多く含むレバーや肉をふだんの食事にとり入れる必要がある。
 
高齢者は食が細くなりがちで、栄養不足による貧血に陥りやすい。
健康の維持には、バランスのとれた食事が基本だが、貧血予防のためにも、高齢者は肉を食べることを心がけたい。
 
肉類は、ホウレンソウや小松菜などに含まれる非ヘム鉄よりも、効率よく体に吸収されるヘム鉄が豊富で、鉄欠乏性貧血に効果がある。
コレステロールなどを気にして敬遠しがちだが、50~60代は80グラム、70歳以上でも70グラムの肉を毎日とってほしい。
 
かんきつ類などビタミンCを一緒にとると、鉄の吸収をより高める。
赤身の魚や海藻、大豆製品などにも鉄分は多く含まれている。

 
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参考・引用
朝日新聞・朝刊 2017.9.6