前視野緑内障

前視野緑内障 経過見て治療

視野に障害出る前の段階 神経の状態を定期的に検査
日本人の中途失明の原因として最も多い緑内障は視神経が傷み、徐々に視野が欠ける病気だ。
最近では検査技術が進歩し、まだ視野に障害が出ていない人でも緑内障の早期の段階として「前視野緑内障」と捉える考え方が出てきた。
神経の損傷は1度の検査では一過性の原因かどうか区別できない。
焦らず正確な検査を定期的に受けて、症状の進行を見極めながら治療計画をたてることが重要だ。

東京都に住む30代男性のAさんはコンタクトレンズを処方してもらうため、近くの眼科を受診した。
眼圧や眼底を調べた医師に「緑内障に似た特徴がある」と告げられ、視野の見え方や網膜の神経の状態も詳しく検査した。
幸い視野が欠ける異常はなかったが、網膜の神経に損傷があり、一部が薄くなっていた。
 
医師からは「前視野緑内障かもしれない。治療が必要になる可能性がある」
と説明を受けた。眼圧を下げて緑内障の進行を抑える点眼薬は服用を始めると一生続けなくてはならない。Aさんは「まだ30代なのに」と不安を抱え、治療を始めるべきか悩んでいる。

焦らず見極めて
眼圧が高くない場合、慌てる必要はない。
1~2年間経過をみて、確かに前視野緑内障だと分かってから治療を始めても遅くない。
少ない回数の検査では、治療が必要な状況なのか見極められないからだ。
 
緑内障は眼圧によって視神経が傷み、視野が欠けていく。
眼圧は目の中の水分である房水によって調整され、眼球の形を保つ働きがある。
だが、房水が目の外に排出されにくくなるなどして流れが滞ると眼圧が高くなり、視神経が圧迫されてしまう。
 
視神経は目の中の網膜に届いた光の情報を脳に伝えている。
眼球の奥で視神経が集まり、折れ曲がって束になっている部分「視神経乳頭」の中央部には「陥凹」という少しくぼんだ形があり、緑内障患者では視神経の損傷によってくぼみが大きくなる。
 
視神経が傷つくと、視神経につながる網膜の神経の層も傷み、薄くなる。
健康診断の眼底検査で、陥凹や網膜の神経の層の状態を確認し、緑内障の疑いと診断される人は多い。
白内障など別の病気で眼科を受診し、緑内障の疑いがみつかることもある。
 
神経がある程度障害を受けても、すぐには視野に異常は出ない。
仮にそのまま神経の損傷が進めば、やがて視野が欠け、緑内障を発症する恐れがある。
 
近年、網膜の神経の層の厚みを測る光干渉断層計(OCT)などの検査機器が普及し、視野に障害が出る前に神経の損傷を詳しく把握できるようになった。
医療のレベルが上がり、前視野緑内障という考え方が可能になった。

1~2年は観察
ただ1回の検査では神経の損傷が進行するものなのか、一過性の原因で起きたものなのか判断できない。
緑内障の危険因子とされる近視では、眼球が変形する影響で神経に損傷がみられることが多いといわれるが、損傷が進まないこともある。
別の病気の治療で服用したステロイド薬の副作用で眼圧が一時的に上がり、神経が傷んだ可能性なども考えられる。
 
眼圧が異常に高い人など緑内障を発症する危険性が高い場合は治療を始めたほうがいい。
だが、眼圧が正常な人は定期的な検査で経過を観察する必要がある。
 
約半年に1回のペースで眼底や視野、約3カ月に1回は眼圧を検査し、1~2年間は様子をみることが望ましい。
神経の損傷などが進んでいると確認できれば前視野緑内障と判断され、治療に移る。
逆に変化がない場合、治療は不要だと考えられる。
 
緑内障は患者本人が症状に気付きにくい。
片目の視野の欠けた部分を反対側の目で補ったり、視点を知らず知らずのうちに動かして脳の働きが視野の全体を合成したりするからだ。
視野の異常を自覚するのは症状が進行してからで、その段階から治療すると手遅れになりやすい。
 
早期の発見と治療は、発症や進行を遅らせると期待できる。
前視野緑内障の疑いがあると言われた人は、まずは緑内障の専門クリニックを受診しよう。

参考・引用
日本経済新聞・朝刊 2018.3.12