慢性疾患で高まる「がん」リスク

慢性疾患で高まる「がん」リスク

糖尿病は大きな発がん要因だ。
わが国の調査でも、膵臓がん・肝臓がんを約2倍、大腸がんを1.4倍、がん全体でも1.2倍に増加させることが分かっている。
糖尿病の人は「がん予備軍」と言える。

しかし、糖尿病以外の慢性疾患でもがんが増えることが明らかになってきた。
台湾での大規模な追跡調査では、がんではない40万人を対象に、血圧、コレステロール値、心拍数、血糖値、蛋白尿、腎機能、呼吸機能(肺活量など)、尿酸値を測定した上で追跡調査を行った。
 
平均8.7年の追跡期間中にがんを発症したのは9273人、がんで死亡したのは3779人だった。
発がんのリスクは、血圧や呼吸機能の異常とは有意な関連がみられなかった。
 
それ以外の異常はがんの発症リスクを高めることが分かった。
特にコレステロールが低すぎる人は高い人よりリスクが44%も高まっていた。

8種の異常すべてががんで死亡するリスクを高めていた。
やはりコレステロールが低い人たちは高い人より64%もリスクが高くなっていたが、なぜそうなるかのメカニズムの解明はこれからの課題だ。

<私的コメント> 
コレステロールの人の中には、すでにがんにかかっている人が含まれているのではないかという議論が以前からあります。
ここのところは大変重要な問題で、国内にもこういったことを根拠に「コレステロールは下げなくてもよい」と主張し、本まで書いている医師(中には医師でない人も含む)がいます。
こういった主張には「根拠」が正しいという前提が欠かせません。
残念ながらこの問題(疑問)は未だに解決されていません。

これまでの疫学調査によると、好ましくない5つの生活習慣(喫煙、野菜・果物不足、運動不足、飲酒、肥満)が、がんになる原因の約25%、がんで死亡する原因の約40%を占めるとされる。
一方、台湾での研究から8種類の慢性疾患が、がんになる原因の約2割、がん死亡原因の約4割をもたらすことが分かった。
慢性疾患が重なると最悪の生活習慣の人と同じくらいのリスクとなるわけだ。
 
私の33年の臨床経験からも、高齢のがん患者の多くが慢性疾患を持っていると言える。

<私的コメント>
この記事を書かれている中川先生は放射線科医です。

逆に言えば、がんだけを治療しても背景にある病気が悪化すれば元も子もないわけだ。
実際、がん治療を始めたあとで、別の病気の症状が強くなり、後悔したケースは枚挙に暇がない。
 

昨今はがん専門病院で治療を希望する患者が増えている。
しかしすべての病気に対応できる「総合力」のある大学病院などでがん治療を受けるメリットは大きい。

執筆
東京大学病院・中川恵一 准教授

参考・引用
日経新聞・夕刊 2018.5.16