考え方を変えて「痛み」を改善

検査では異常なし・・・でも消えない

その痛み「考え方」変え改善
検査ではっきりした異常はないのに、つらい痛みがいつまでも消えない。
そんな人たちの「考え方のくせを変えることで、苦しみを和らげようという手法がある。
痛みが完全には消えなくても、できることを増やして生活の質を上げることをめざしている。

自信取り戻して緩和
千葉県の男性(63)が腰の痛みに苦しみ出したのは6年ほど前。
検査で問題はなく、整形外科の医師に「もう来てもらっても仕方ありません」と言われた。
 
あまりに痛くて、会社を退職。ほとんど自宅で寝て過ごした。
別の医師から紹介を受け、今年1月から、千葉大医学部で「認知行動療法」を受けている。
 
医師や臨床心理士と向き合い、まず緊張による痛みを和らげるための腹式呼吸などを習った。
面談では「妻の支えなしで一人で歩く」といった目標を決め、次回までに挑戦した。
事前の不安の度合いは「100点」。
でも、実行できて不安は「40点」になった。
 
痛みはまだ残っているが、行動範囲が広がり、「自信とやる気が芽ばえてきました」。
鎮痛薬を一時、やめることもできた。
 
長く続く痛みは「慢性疼痛」と呼ばれ、原因不明のことが多い。
周囲にわかってもらえず、孤立することもある。
国内の調査では、18歳以上の約15%が腰や肩などに6カ月以上続く痛みを抱えていた。
 
痛みのせいで体を動かさず気分が落ち込むと、ますます痛みを感じやすい。
認知行動療法は、そんな悪循環を断つ手段だ。
 
たとえば、痛みで仕事がうまくできなかった場合、患者は「私はいつも痛みに苦しめられている」といった考え(認知)に陥りやすい。
それを、「きのうは仕事ができた」といった別の事実に目を向け、「いつも必ず痛いわけではなく、できることはある」という考えができるようにする。
 
千葉大では2000年、I教授(精神医学)らが認知行動療法を始めた。
現在はS教授(認知行動生理学)が中心になって取り組む。
 
海外での研究のまとめでは、慢性疼痛への認知行動療法は治療しない場合と比べ、痛みに伴う生活への支障や気分などの改善に「軽度から中等度の効果がある」とされている。
 
運動や瞑想も効果
慢性腰痛の治療で実績のある福島県医大も、「痛いから動けない」といった考え方を「痛くても動こう」へと変えてもらうことに力を入れる。
運動は痛みを軽減しやすいからだ。
 
「腰痛で趣味の合唱ができない」という人には「見学だけでいいから会場へ行きましょう」とすすめる。
N講師(整形外科)は「会場で友人と話すだけでも、生活の質を上げるきっかけになり得る」という。
 
九州大のH講師(心療内科)によると、重い慢性疼痛の人では両親の不仲やいじめなど、つらい過去を抱えていることが少なくなく、「一般的な認知行動療法では効果が出にくいことがある」という。
 
そんな人たちへの治療の一つとして、瞑想の手法を骨格とした「マインドフルネス」を導入している。
仰向けの状態で、つま先から頭の先まで意識を向けていく、といった内容だ。
新世代の認知行動療法とも呼ばれ、効果を示す研究も出てきた。

NPOが相談窓口
認知行動療法は、うつ病などには公的な医療保険が認められているが、慢性疼痛は適用外。
このため、千葉大では自費のカウンセリング(30分あたり6480円)として実施している。
 
実施に時間がかかる一方、医療機関側の収入につながりにくく、取り組む施設はまだ少ない。
複数の診療科が連携して痛みの治療に取り組む施設では、患者の心理的背景にも目を配っていることが多い。
 
NPO法人「いたみ医学研究情報センター」は、痛みに関する無料の電話相談窓口(0561・57・3000、月・水・木曜の午前9時~午後0時半と午後1時半~5時)を開設している。


痛みへの”考え方のくせ”を変えるイメージ 痛みのせいで何もできない。人生ろくなことがない・・・

↓ 認知行動療法による考え方の見直し

痛くてもできることはある。悪いことばかりの人生ではない

↓ 

痛みのつらさが和らぐ

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2016.6.29