「オンライン診療」 対面診療なくネットで薬処方 厚労省指導へ

ED・薄毛 対面診療なくネットで薬処方 厚労省指導へ

「オンライン診療」と称して、勃起不全(ED)や男性型脱毛症(AGA)の治療薬など医師が診療して処方する薬を、患者に一度も会わずに処方する医療機関が複数あることがわかった。
厚生労働省は無診療治療を禁止する医師法に違反する疑いがあるとし、指導に乗り出す。
同省の指針では、禁煙外来を除いて初診は医師が患者と実際に会って診察しなければならない。

オンライン診療は4月に一部で公的医療保険が認められ、スマートフォンで診察が受けられるため普及が進む。
そのためのアプリを提供する企業が次々と出て、手軽に受診できる。
日本医療ベンチャー協会によると、全国で月に1千~2千件の診察がオンラインで行われているという。
 
厚労省が3月に示した指針では、初診は対面でと定めている。
だが、ネットで検索すると「ED薬を処方、来院する必要は一切なし」などと説明する医療機関が多数出てくる。
その一部に電話で確認したところ、少なくとも10以上の医療機関が通院不要と回答。
スマホで質問に答え、画面上で医師の診察を受ければよいという。
 
EDのほかAGA、低用量ピルなど、患者が人目に触れることを嫌う傾向がある薬が多かった。
花粉症治療のための抗アレルギー薬や、抗インフルエンザ薬の予防投与の処方などもあった。
国民生活センターには、「一度も対面診療をせずに薬の危険性の説明が不十分だった」「薬が効かなかった」などの相談が寄せられているという。
 
厚労省は、オンライン診療で得られる情報だけでは診断に不十分だとの見解だ。
ある専門家は「初診で対面診療し、問診のほか視診、打診、聴診、必要によっては血液検査やX線撮影などを行うことで正しい診断ができる。薬の副作用を予防することもできない危険性がある」と話す。
ED薬では、多くの心臓病患者が使っているニトログリセリンなどとの併用が禁忌とされ、死亡例もある。
 
厚生省(当時)は1997年、遠隔診療の通知で、「初診及び急性期の疾患に対しては、原則として直接の対面診療によること」とした。
2015年に厚労省が遠隔診療は離島、へき地に限らないことを明示したことでオンライン診療が増えた。
「原則」なら問題ないと解釈して初診でも対面診療をしない場合が出てきたことから、同省は通知のあいまいな部分を明確にするため、今年3月に指針を定めた。

受診してみると、スマホ画面に医療資格ない「相談員」
「遠隔診療におきまして、初診・再診ともに来院いただく必要は一切ございません」とホームページに記載していた、泌尿器科と皮膚科を標榜する東京都内の診療所を、ED治療の初診患者として記者が実際に受診してみた。
 
まず、スマホで遠隔診療のためのアプリをダウンロード。
アプリの指示に従って高血圧や糖尿病といった既往歴の質問に回答し、診療予約までスマホだけで簡単にできた。
 
当日、スマホの画面に「相談員」を名乗る男性が出た。
医師かどうかを尋ねると、この男性は医師どころか医療関係の資格さえ持っていなかった。
相談員は「医師から問診で問題のない患者は相談員による薬の説明だけで良いと指示を受けている」と話した。
「医師が常駐している」とも話したが一度も姿を見せず、実際に医師がいたのかわからなかった。
 
相談員は健康状態を確認後、ED薬の種類や違い、価格について説明。
最後に好きな薬を選ぶと1錠単位で処方できるという。
登録したクレジットカードで決済し、数日後には自宅に薬が配送される仕組みだ。
診察料は無料で薬代と配送料、予約料だけでいいという。
記者は薬を選ぶ段階で処方を断った。
 
後日、診療所の院長が取材に応じた。
相談員が対応したことについて、「医師が1人しかおらず、来院した患者の注射などの対応をしていた」と釈明した。
初診で患者と実際に会わなかったことについては、「厚労省の出した通知があいまいで、自費診療なら初診の対面診療は不要だと思っていた」と説明。今後は相談員だけで対応することはしないという。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2018.10.29

<私的コメント>
当院では「オンライン診療」は行っておりません。
本来は「遠隔診療」の本来の主旨は「遠隔『地』診療」であった筈です。
 
厚生省(当時)が1997年という20年以上も前に、すでに遠隔診療の通知を出していたことも知りませんでした。
しかし、「初診及び急性期の疾患に対しては、原則として直接の対面診療によること」として『原則として』という文言を入れたため医療現場での混乱を招いてしまいました。
厚生労働省は無診療治療を禁止する医師法に違反する疑いがあるとし、指導に乗り出す」ということですが、すべて「原則として」という表現が招いた混乱と言えます。
当時のインターネットを取り巻く環境は「オンライン診療」が行えるようなインフラは整備されていなかった筈です。
ところが「遠隔診療」の意味がいつのまにやら「オンライン診療」にすり替わってしまった感があります。
「2015年に厚労省が遠隔診療は離島、へき地に限らないことを明示した」ということと「オンライン診療は4月に一部で公的医療保険が認められた」ということの時系列的関係が不思議です。
今年の3月までは遠隔診療がどのように行われていたのでしょうか。
また条件緩和も早過ぎなかったのではないでしょうか。
普通なら、まずは公的医療保険を使った「離島、へき地」での「オンライン診療」を認め、しかる後に次回の診療報酬改定時に「離島、へき地に限らない」ようにするのが物事の順序というものではないでしょうか。
「オンライン診療」には多くの業者が群がっています。
解禁を急いだのには何か政治的な匂いも感じます。
いずれにしろ、「原則的」という表現も含め、厚労省が自ら招いた混乱と言えます。