パーキンソン病 診療ガイドラインが7年ぶりに改訂

パーキンソン病、増える治療法 診療ガイドライン、7年ぶり改訂

神経伝達物質の減少で体が動かしにくくなるパーキンソン病。日本神経学会は今年5月、診療ガイドラインを7年ぶりに改訂した。症状が進んだ進行期の患者の治療の選択肢が広がった。また、早期の患者の治療薬の選択肢も増え、リハビリテーションの重要性を強調している。

*腸に持続的に薬投入
パーキンソン病は、脳内の神経伝達物質ドーパミンの減少で神経回路に異常が起き、手足の震えなどが起きて体が動かしにくくなる原因不明の難病だ。
約20万人が患っているとされる。
 
群馬県の男性(70)は約10年前、左の薬指の震えが止まらなくなり、パーキンソン病と診断された。
ドーーパミンを補う薬を服用すると症状は治まった。
ところが次第に薬の効果が持続しにくくなり、2016年には薬を1日6~8回のんでも効果がすぐに切れるようになった。
足が固まってすくんだようになり、動けなくなってしまう状況に週2回は陥るようになった。
 
順天堂大学順天堂医院(東京都文京区)脳神経内科の服部信孝教授は、二つの選択肢を示した。
一つは手術でおなかに小さな穴をあける胃ろうを作って空腸まで管を入れ、持続的に薬を投入する「持読経腸療法」。
もう一つは、手術で脳に電極を入れ、体内に埋め込んだペースメーカーで電気刺激を与える「脳深部刺激療法」だ。
 
脳に電極を入れるのが怖かったので、男性は「持続経腸療法」を選んだ。
薬剤の入った約500グラムのポンプを身につけ、夜間を除き1日16時間少しずつ腸に薬を入れている。
「薬の効果が切れて動けなくなることが無くなり、生活の質が良くなった」と話す。          

持続経腸療法は、1日5回以上薬をのんでもすぐに効果が切れてしまう進行期の患者の治療法として、16年に承認され、改訂ガイドラインに初めて入った。
順天堂大神経内科の大山彦光准教授は「認知症の症状が出る恐れのある患者さんは脳深部刺激療法ができない。
進行期になると治療の選択肢が少なかったのが幅が広がった」と話す。

*リハビリ「有効」
早期の患者の治療についても、体内でのドーパミンの分解を阻害する薬などが新たに承認されて改訂ガイドラインに追加され、選択肢が増えた。
歩行運動やストレッチなどのリハビリも「早期から進行期までどのステージにおいても有効性が商い」と明記された。
 
関東中央病院(東京都世田谷区)神経内科の織茂智之統括部長は「リハビリをするかしないかで、5年後、10年後の症状がかなり変わる。ぜひ取り組んでほしい」と話す。

*病気の診断より正確に
改訂ガイドラインでは診断基準も変わった。
パーキンソン病と似た症状の別の病気と初期の段階から見分けられるようにした。

従来は、
①運動が緩慢になる
②静止している最中でも手足が震える(振戦)
③筋肉が硬くなりこわばる(筋強剛)
④身体のバランスがとれず倒れやすくなる(姿勢保持障害)
という四大運動症状の存在が診断基準の柱だった。
しかし、姿勢保持障害は病気が進んでから出現することが多い
ため、基準から外れた。
 
新たな診断基準は、運動緩慢と、振戦か筋強剛の一つ以上があり、補助的な診断法などで条件を満たすことなどとされた。

放射性同位元素を使った心臓の検査も補助的診断法に加わった。
パーーキンソン病患者では、心臓に集まるはずの神経伝達物質に似た物質が集まっていないことが多い。
関東
中央病院の織茂さんは「他の神経変性疾患ではこういった現象が起きるのはまれで、80%以上の感度と特異度でパーキンソン病と診断できる」と言う。
 
ガイドライン作成委員長の順天堂大の服部さんは「今回の改訂で国際的基準と同じになった。国際的な研究チームの比較では、従来は約86%だった診断精度が新基準では約93%に上がった。正確に診断することが大切だ」と強調する。   

朝日新聞・朝刊 2018.10.31