痛み止め 伝達物質の合成や放出を妨げる

痛み止め 伝達物質の合成や放出を妨げる

医療機関で処方されたり、ドラッグストアで購入したりして、痛み止めを使っている人も多い。
飲み薬や貼り薬など様々なタイプがある。
そもそも痛みはどのように生じ、伝わるのだろうか。
そして、薬はどうして効くのだろうか。
 
外部の刺激がなぜ痛みを起こし、どのように脳に伝わって認識されるのかが、分子レベルで理解できるようになってきた。

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例えば、ぎっくり腰の場合、歩くのが難しいほどの強い腰痛が起きる。
その原因は、背骨の関節の炎症などだ。
炎症が起きると、その刺激に対して、「受容器」と呼ばれる器官が反応する。
受容器は、熱や物理的、化学的な刺激などに反応する種類がそれぞれ決まっていて、体中にある。
 
受容器が刺激を受け取っても、すぐにそれが伝達されるわけではない。
刺激が一定以上になったとき、電気エネルギーが発生する。
そこからは、まるで駅伝でたすきをつなぐかのような展開が、体内で繰り広げられる。
 
電気信号は受容器から感覚神経を通って脊髄へ届く。
そこで次の神経へと受け継がれ、脳の中心部にある視床へ伝わる。
そこからさらに大脳の痛みを感じる部分に行き着き、初めて痛みと認識される。
 
代表的な痛み止めのアスピリンは、痛みの伝達が始まる部分の周辺で働く。
炎症が起きると、電気エネルギーの発生頻度を増やす物質が出てくるのだが、その合成を防ぐ。
このタイプの痛み止めは「NSAIDs(エヌセイズ)(非ステロイド性抗炎症薬)」と呼ばれ、ロキソニンもその一つだ。
 
ただ、NSAIDsは、胃腸や腎機能への副作用があることが知られている。
そのため、同様の仕組みで、より胃や腸の副作用が少ないように開発されたのが、「COX2阻害剤」というタイプで、セレコキシブなどの薬がそれに当たる。
 
一方で、人の体には、痛みが伝わる経路とは逆方向に、痛みを感じにくくする神経の経路も備わっている。視床から脊髄に逆戻りする経路で、ここを活性化することで痛みを抑える薬がある。
 
代表的なのがモルヒネだ。
モルヒネは、古代ギリシャやローマの時代から鎮痛剤として使われていたアヘン(オピウム)から取り出された。
現在では類似の作用を持つ合成化合物と合わせて、「オピオイド」と呼ばれている。
合成された薬には、トラマドールなどがある。

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ここまでは、けがや病気などによる「急性痛」についての話だが、何カ月も痛みが続く「慢性痛」が起きることもある。
神経の異常などが原因と考えられている。
 
その一つは、脊髄で神経伝達物質が異常に放出されることで起きる。
このため、傷や炎症が治っても、痛みが続いてしまうのだ。
プレガバリン(商品名・リリカ)は、この痛みを伝える物質が過剰に放出されるのをブロックすることで作用する。
 
また、神経の異常には、末梢神経が傷ついて過敏になっていることで痛みが続くケースもあり、こうした場合には抗うつ薬が使われることもある。
 
市販薬の痛み止めには様々な成分が含まれ、漫然とのみ続けると副作用が出る。
市販薬でも処方薬でも、副作用には十分注意が必要で、自分の薬がどんな種類か分からないなら、医師や薬剤師に尋ねてみたほうがよい。

参考・引用一部改変
朝日新聞・朝刊 2019.3.16