慢性腰痛には運動を

慢性腰痛、運動の勧め 背筋・腹筋鍛え、症状改善 診療指針7年ぶり改訂

腰痛は、国民の5人のうち4人が、生涯のうちで一度は悩まされる症状だ。

腰が痛むと、体を動かすのに乗り気でなくなる。

たびたび腰が痛くなる人は、じっとしているのがいいのかと思いきや、実は体を動かした方が治療にはよい、というガイドライン(指針)を関連学会がまとめた。

どういうことなのか

 

福島県会津若松市の会社員、Nさん(37)は、高校3年の頃から腰痛に悩まされてきた。

5年前と3年前には立てないほどの激痛に襲われ、救急車で運ばれて入院。

欠勤せざるをえなかった。

痛みへの恐怖から、腰から上を前後に動かすことすらためらっていた。

 

昨年8月、福島県医科大学会津医療センター・整形外科にかかったところ、腰の骨にひびが入り離れてしまう「第5腰椎分離症」と診断された。

 

Nさんは手術を覚悟したが、主治医は「まずはできることを」と「運動療法」を提案した。

同病院の理学療法士と「運動療法」進めることにした。

 

理学療法士から、寝た状態でひざを抱えこむストレッチ(あおむけの状態で片ひざを抱えながら、逆側のひざの裏側を床に押しつける)や、両ひじを立ててうつぶせの姿勢を維持して体幹(背筋や腹筋)を鍛える体幹レーニング(両手両膝を床につけ、片腕と逆側の片ひざをまっすぐ伸ばし5秒キープ。交互に10回ほど繰り返す)を教わった。

 

Nさんは当初、再び激痛に襲われる恐怖心から体がこわばっていたが、徐々に、腰が曲げられる範囲が広がった。

「少しずつ動ける範囲が広がる。好循環が生まれた」と振り返る。

 

今年1月に通院をやめ、現在は自宅でテレビを見る合間にストレッチ体幹レーニングを続ける。

趣味のゴルフを再開し、子どもとも走って遊べるようになった。

 

日本整形外科学会と日本腰痛学会は今年5月、7年ぶりに診療指針を改訂。

慢性腰痛には運動療法を強く勧めた。

昔は腰が痛ければ鎮痛薬を飲んで安静にしているのが普通だったが、いまは動いた方が楽になるのが常識になっている。

痛みを繰り返す悪循環を断ち切るには、まず運動することを考えたい。

 

筋肉量を維持、予防にも○

新たな診療指針は、国内外で発表された論文385本をもとに、医師らがまとめた。

まず、腰痛を3種類に分けた。

発症から4週間未満を「急性」、4週間以上3カ月未満は「亜急性」、3カ月以上は「慢性」と定義し、治療法について、勧める強さを4段階に分けて示した。

 

診療指針では、慢性の腰痛に対して運動療法を強く勧めている。

急性の場合でも、じっとしているより、ふだん通りの生活を続けることが良いとした。

 

指針が強く勧める背景には、運動が腰痛の改善や予防につながるとの研究が、近年積み重なってきたことがある。

大阪市立大学が腰痛患者約1700人を調べた研究でも、背筋や腹筋といった体幹筋肉量が減ることが、腰痛の悪化に関係することがわかった。

 

同大のT准教授(整形外科)は「運動には手術を回避する効果がある。とくに背骨に沿った筋肉(脊柱起立筋)が減ると姿勢が維持できなくなるため、日頃の運動で体幹筋肉量を保つことが大切になる」と指摘する。

 

ただ、重度の坐骨神経痛など、運動療法だけでは治療が進まない場合もある。

運動療法で改善しない場合は、手術が必要になることもある。

 

また、今回の指針は鍼治療やヨガ、マッサージなどの代替療法は科学的知見が確立されていないとして、治療を勧める程度を示さなかった。

 

鍼治療に携わる人からは、新指針に、これまで発表された鍼治療の論文が十分反映されていないとの声もある。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2019.12.25