糖尿病、食事療法は柔軟に 学会が新しい診療ガイドライン

糖尿病、食事療法は柔軟に 学会が新しい診療ガイドライン

糖尿病を治療する第一歩が、エネルギーや栄養を適正に取るための食事療法だ。

日本糖尿病学会は「糖尿病診療ガイドライン2019」で、体重や食事について、これまで求めていた一律の基準を緩め、「柔軟な対応」を求めるようになった。

 

■ 極端なカロリー制限せず

 横浜市のTさん(67歳、女性)は、2007年に人間ドックを初めて受診したところ、糖尿病と診断された。

膵臓から出る、血糖値を調節するホルモンの一種インスリンがうまく働かなくなり、血中の糖が増えてしまう病気だ。

病状が悪化すれば、合併症を起こし、心不全や腎不全、失明につながることもある。

 

Tさんは入院を勧められるほど、血糖値が高かった。

紹介された大学病院で始まったのが「食事療法」だった。

食事の総エネルギー量(カロリー)や食塩量などをコントロールするものだ。

主治医からは「1日あたり1600キロカロリーを目安に」と減量を促された。同年代の平均摂取カロリーは2000キロカロリー弱とされる。

診療の後、管理栄養士に食べ物のサンプルを見せられ、「たったこれだけ?」と驚きながら、具体的に食べられる量を覚えた。

 

言われた通りに続けると、約1年で体重は数キロ減った。

Tさんは「自分に合わせた食事療法を進めてくれる医師の思いに応え、できる限り守りたいと思う」と話す。

 

Tさんは食事療法を始める前、BMI(体格指数)がおよそ25あった。

当時は22が標準とされており、体重が原因で標準を超えていた。

減量後の体重も、BMIが22になるところまでは落ちなかった。

 

だが、主治医は血液検査などの数値を見て、「問題ない」と判断した。

医師は、極端なカロリー制限はせず、体重は増やさないように、と指導することが最近は多い。

 

背景には、科学的根拠がある。

近年の研究で、総死亡率が最も低いBMIは、糖尿病の患者であっても20から25と幅があることがわかった。

75歳以上の後期高齢者では、25を超えても死亡率の増加がみられなかったという研究もある。

 

■ 体重の基準緩め食習慣尊重

こうした科学的な根拠に基づき、日本糖尿病学会は2019年9月、「糖尿病診療ガイドライン2019」を発表した。

食事療法についてTさんの例のように、患者に合わせた「柔軟な対応」を勧めるようにした。

 

具体的には、唯一の正しい体重をイメージさせる「標準体重」という言葉を「目標体重」に変え、従来は年齢に関係なく、BMIを「22」としていたのも、65歳以上について「22~25」と基準を緩くした。

さらに、775歳以上は「適宜判断する」と注釈をつけた。

 

これまで目標値が定められていた、炭水化物やたんぱく質などの「栄養素摂取比率」については、決めることに明確なエビデンス(根拠)は「ない」と明記。

普段どれぐらい活動しているかや他の病気の状態、年齢や好みなどに応じた対応を求めている。

 

一定の目安としては炭水化物をカロリーの50~60%、たんぱく質を20%以下と示したが、「食事療法を長く継続するためには、個々の食習慣を尊重しながら、柔軟な食事を」と呼びかけている。

 

ダイエット法としても注目されている「炭水化物制限」については、カロリーを制限せずに、炭水化物のみを極端に減らして体重を落とすことは「現時点では勧められない」としている。

 

食習慣などが多様化し、ガイドラインでの一律の基準は実効性に乏しくなっていた。

患者を中心に医師や管理栄養士らとのチーム医療で、一層個人に合わせた治療を進めなければならない。

高齢者の目標が幅を持つようになったので、しっかり食べないといけない人への説明もしやすくなった、とある管理栄養士はいう。

 

参考・引用一部改変

朝日新聞・朝刊 2020.3.12 別刷り

 

<関連サイト>

「糖尿病診療ガイドライン2019」が示した食事療法

https://wordpress.com/post/aobazuku.wordpress.com/924