米屋のカビから「世界一の薬」

コレステロール低下剤「スタチン」

血中のコレステロール値を下げる薬「スタチン」は、世界で最も売れている薬と言われる。
世界中で3000万人以上が利用し、年間の総売り上げは3兆円を超える。
この薬は、製薬会社「三共」出身で、東京農工大名誉教授の遠藤章さん(73)なしには
誕生しなかった。

「あの瞬間は、新薬開発という高い頂に向けた長い闘いの始まりにすぎなかった」
 
73年夏、フラスコの中で白い結晶が次々に浮かび上がってきた。
後に、コレステロール低下薬開発の原点となるスタチン(コンパクチン)発見の瞬間を、遠藤
さんはこう振り返る。
 
東北大農学部を卒業し、1957年に製薬会社の三共(現、第一三共)に入社した。
1966~1968年に留学した米国で、コレステロールが血管内にたまって動脈硬化が進み、
心筋梗塞脳梗塞に苦しむ人たちの多発を目の当たりにする。

抗生物質を作り出して敵を攻撃する微生物がいるように、生物に必要なコレステロールの合成
を邪魔する物質を作る微生物もいるに違いない」
 
そんな仮説をたて、、1970年に研究を始めた。
ラットの肝(臓)細胞にカビやキノコの培養液を加え、コレステロール合成をブロックする物質
がないか調べた。
研究開始から3年間に調べた微生物は6000種類を超えた。
ついに見つけたのは、京都の米屋で見つかった青カビが作り出す物質だった。
 
しかし、そこから新薬開発への道のりは、挫折の連続だった。

ラットでの実験では効果は確認できず、開発は中断してしまう。
転機は1976年1月、同僚の獣医師がニワトリでの実験を約束してくれた。
その結果ニワトリのコレステロールは劇的に低下したのだ。

患者に劇的効果 毒性の克服難航

しかし、ラットの再実験で肝臓への毒性があることがわかった。
それでも遠藤さんは「コンパクチンは構造も性質もとても素直な物質。やっかいな硫黄や窒素
も含んでいない。
だから薬になる」という直感を抱いていた。
 
そんなころ、大阪大病院から「家族性高コレステロール血症の重症患者にコンパクチンを使い
たい」との申し出があった。
患者は心臓発作を繰り返していた。
1978年2月、人での臨床試験に踏み切った。
計9人に使ったところ、副作用はほとんどなく、コレステロール値を劇的に下げた。
 
試験の中心となった山本章さん(75))(現、国立循環器病センター研究所名誉所員)は
「患者さんは危険な状態だったが、効く薬がなく 、困っていた。コンパクチンのことを知り、
医師の全責任で、患者さんに使うことを決めた」。
 
しかし、三共は1980年、新薬開発を中止した。
理由は公表されていないが、イヌの実験でリンパ腫を起こす危険性が出たとの情報が広がった。
その後、ニュースは海外から飛び込んできた。
三共と共同研究を進めていた米国のメルク社がコンパクチンの類似物質を見つけ、1987年に
ロバスタチン(商品名メバコール)を商品化した。
 
遠藤さんは1978年末に三共を退社し、東京農エ大の助教授に転じていた。
「米国の底力、迫力を思い知った」
1989年、三共はようやく、コンパクチンの一部を改良したプラバスタチン(商品名・
メバロチン)の商品化に成功した。
 
スタチン系コレステロール低下薬は現在、世界で7剤が、100カ国以上で販売されている。
医療情報・コンサルティング会社IMSジャパンによると、7剤の年間総売り上げは2006
年に約277億ドル(約3兆2千億円)。
ファイザーが発売するアトルバスタチン(商品名・リピトール)は世界の医薬品売り上げの
1位を占める。
  

世界との壁実感  新薬開発に教訓

1985年にノーベル医学生理学賞を受けた米国のジョセフ・ゴールドスタインとマイケル・
ブラウン両博士は、開発の先鞭(せんべん)をつけた遠藤さんの功績を高く評価する。
昨年、「スタチンの発見」で遠藤さんが日本国際賞を受けた際は、祝福のビデオメッセージ
を寄せた。
 
日本動脈硬化学会の北徹・理事長(京都大副学長)は「スタチンは遠藤さんを中心にした
グループの20世紀における重要な発見だ。
多くの大規模な臨床試験で、血中のコレステロール値を下げ、虚血性心疾患などの発症頻度を
減らすほか、総死亡率を下げることも証明された。
惜しむらくは、我が国の発見でありながら、大規模臨床試験での臨床効果が海外から発信され、
臨床応用も海外から始められたことだ」と話す。
 
遠藤さんは「世界の新薬開発の潮流は近年、合成化合物を標的にするものに変わったが、新薬
開発のペースが落ち込み、再び、天然物に注目する動きが出ている。
スタチンを教訓として、画期的な新薬開発につながるならば、この変化を歓迎したい」ど述べて
いる。
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出典 朝日新聞 2007.11.5
版権 朝日新聞社

<コメント>
「世界中で3000万人以上が利用・・・」
そんなに少ないとは思えません。
循環器専門医にとってスタチン抜きの脂質異常症の治療は考えられません。
ノーベル賞は遠藤氏に是非とっていただきたかったですね。

<参考サイト>
自然からの贈りもの~コレステロール低下薬「スタチン」はこうして生まれた
http://www.japanprize.jp/prize/2006/lec/j_2_lec.swf
2006年(第22回)日本国際賞受賞者 
「治療技術の開発と展開」分野
http://www.japanprize.jp/prize/2006/j2_endo.htm
財団法人国際科学技術財団
http://www.japanprize.jp/prize/prize_j1.htm

<新聞切り抜き帖>
■大量破壊の道具を後生大事に抱えているのは、本来、恥ずかしいことだろう。
枕元に銃がないと寝つけない親分にも似て、実は弱さの証明なのだ。
その恥ずかしい核が、国際関係の場では「格」になる。
保有を宣言したとたん、北朝鮮は米国と交渉できる立場になった。
独裁者は「もっと支援を」と図に乗るばかりだ。
ほどなく「平和の祭典」を開くのはアジアの核軍事大国。
思えばその次の五輪を争ったのも、英仏海峡を望む核保有国同士だった。
 朝日新聞・朝刊 2008.8.6 「天声人語
<コメント>
この前開かれた洞爺湖サミット
核を持つ国、持たざる国と分けて考えてみるのも一興です。

センター試験 科目選択、柔軟に
社会 世界史と日本史も可能に
日経新聞・朝刊 2008.8.6
<コメント>
えっ。
今まで世界史と日本史の両方の選択は出来なかったんですか?
大昔の話ですが、私の頃は普通に両方を選択して受験していました。
今でも役にたっていると思います。
少なくとも数学よりは。
<追加 2008.8.9>
良く考えてみたら、私の場合一応理系(医学部)ということで、世界史1科目で受診した
ようです。
遠い昔のことで記憶が曖昧でした。
しかし日本史もしっかり勉強した記憶があります。
(大学受験のトラウマはいまだに抜けません)


「歴史」については、格言がいっぱいあります。

・歴史――おおかた悪い支配者と、バカな兵士とによって惹起された、おおむね事業ではない
出来事に関する、おおよそ間違っている記述。

 byビアス
・歴史が教える最も実際的な知恵は、民族が進展の可能性を持っていることである。

 by柳田国男
・歴史家はただ事物の経過を書き留め、評価せねばならないだけであり、みずから事物の決定に
 参与してはいけない。

 byマイネッケ
・歴史の任務は人間の冒険に意味を与えることです。神々がそうであったように。

 byマルロー
・歴史はいつでも敗者に背を向けて、勝者を正しいものとするものだということを忘れては
 ならない。
 
byツヴァイク
・歴史は君主にとってはすぐれた女教師であるが、彼女のほうは、少々散漫な生徒をもって不幸
 なのである。

 byエンゲル
・歴史は、自由な国においてのみ真実に書かれうる。

 byヴォルテール
・歴史は人間自身がその対象である。歴史に内在する一つの条件は、歴史が人間のことを把握し、
 理解し、分からせるよう努めることである。

 byランケ
・歴史は犯罪と災難の記録にすぎない。

 byヴォルテール
    出典http://kuroneko22.cool.ne.jp/50-ra.htm

 
読んでいただいて有難うございます。
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