新型インフルエンザの強毒化

きょうは新型インフルエンザの強毒化のお話です。


新型インフルエンザ:4種が10年で混合 ウイルス変異は「生き残るためか」


新型を引き起こした今回のウイルスは人と鳥、豚2種の計4種のウイルスが10年かけて混合し、生まれたことが判明した。
このようなウイルスの変異はなぜ、どのような仕組みで起こるのだろうか。
 
◆変化しながら増殖
ウイルスは細菌、真菌(カビ)などの微生物と違い細胞がなく、宿主の生きた細胞の中でしか増殖できない特徴がある。
基本的に、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)の遺伝子の塊と、それを包むたんぱく質の殻から構成される単純な構造だ。

ウイルスは増殖の結果、宿主の生物に病気を引き起こすが、それは単純な自己複製の繰り返しではなく、時々、変化しながら増えていく。
この変化を「変異」と呼ぶ。
今回の新型インフルエンザのように変異の度合いが大きいと、それにより引き起こされる病気の症状や感染のしやすさが大きく変わることがある。

なぜウイルスは変異を繰り返すのか。国立遺伝学研究所の五條堀孝教授(分子進化学)は「感染された宿主は自分を守ろうと、免疫でウイルスを激しく攻撃する。一方、ウイルスはこの攻撃にさらされても全滅しないよう、生きながらえるため変異するのではないか」と推測する。

◆パターンは四つ
変異には大きく四つのパターンがあるという。
これをインフルエンザウイルスで示してみよう。

インフルエンザウイルスの遺伝子はRNA。
そのため遺伝情報はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)の4種の塩基の組み合わせで作られている。

第一は「塩基の置き換わり」による変異だ。
ウイルスが生き延びるには、感染した宿主細胞内でRNAを複製する必要があるが、そのコピーの際にエラーが生じる。
例えばGがAになったり、CがUになるなど、一部の塩基が正確に複製されず、他の塩基に置き換わってしまう。
「塩基置換突然変異」と呼ばれ、インフルエンザウイルスにはこれを修復する機能がないという。

第二は「遺伝子再集合」という変異だ。
インフルエンザウイルスは、遺伝子が8本の分節に分かれている。
同じ細胞に違う種類のインフルエンザウイルスが同時に感染すると、増殖の際にウイルスの遺伝子が分節単位で組み換わってしまうことがある。
過去のインフルエンザ・パンデミック(世界的大流行)だったアジア風邪(1957年)や香港風邪(68年)、そして今回の新型インフルエンザもこの遺伝子再集合による変異で生まれた「新型」だ。

このほか、コピーの際、それまで存在しなかった塩基が突然挿入されたり、逆に存在していた塩基がいきなり欠失したりして起こる変異がある。
また、二つの異なる遺伝子が一部を組み換えることで、新しいものが生じる変異もある。

中略

五條堀教授によると、インフルエンザウイルスは(HIVウイルスと同様)、一つの遺伝子が複製されるに当たり1000分の1から10万分の1の割合で変異が生じる。
そのため真核生物に比べ平均して約100万倍も速く変異して進化するという。

一方、あまり変異しないウイルスもある。
天然痘やポリオ、はしかなどが代表例で、変異が少ないためにワクチンの効果が高く、天然痘は根絶に成功した。

世界保健機関(WHO)の緊急委員会委員を務める田代真人・国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長によると、今回の新型インフルエンザウイルスは「遺伝子解析から典型的な弱毒型」で、重症化しやすい強毒型に変異する可能性はほとんどないという。
それでも田代センター長は「第1波から(人に対する病原性が)大きく変異し、(たとえワクチンを作っても)効かなくなる可能性は否定できない」と警戒する。
http://mainichi.jp/select/science/news/20090512ddm016040071000c.html
出典 毎日jp  2009.5.12
版権 毎日新聞社

<コメント>
以前にも「コピーミスによる変異」という話は聞いたことがあります。
インフルエンザウイルスには意思はないわけですから、「生きながらえるため変異する」と考えるより「コピーミスの結果として現在まで生き残った」という考え方のほうが自然と考えます。
高病原性への変異は怖いですが、コピーミスによると考えればインフルエンザウイルスも可愛くなる?
そんなわけないか。


<番外編>
日経新聞・朝刊 2009.5.31 より
「秋以降に第2波か」
■20世紀以降に出現した過去の新型インフルエンザでは、2年ほどの流行期間中に流行の波が2~3回に分かれてやってきた。
■1918年のスペイン風邪は春の第1波では患者も死者も少なかったが、秋以降の第2波で被害が広がった。
ウイルスの性質が変化したためとされている。
■今回の新型も、ウイルスが国内のどこかで細々と生き残り秋までに性質を変えてしまう可能性がある。
これから冬を迎える南半球で流行中に変異し再び北半球に戻ってくる恐れもあり、両にらみでの監視が欠かせない。
■弱毒型か強毒型かは本来、人間ではなくトリに対する病原性を表す。
弱毒型ウイルスは基本的に気道や肺など呼吸器だけに感染する。
これに対し、新型として出現が警戒されてきたH5N1型は強毒型で全身の臓器に感染する。
人間に対しても5~10%といった高い致死率があると懸念されてきた。
■強毒型に分類されるのは「H5」「H7」の2グループに属するウイルスだけ。
今回は「H1」なので強毒型になる可能性はまずない。
■しかし、スペイン風邪は弱毒型のまま、ウイルスが微妙に変わり、致死率は2%に達したため楽観視はできない。
■今回の新型は現段階では季節性インフルエンザ(致死率約0.1%)と比べて病原性はそれほど変わらないといわれる。
しかし肺などの呼吸器で増えやすい性質を獲得すれば高い致死率になることは十分ありうる。
■2種類のウイルスが同じ細胞に同時に感染して、混合ウイルスが誕生するケースがある。
今回もH5N1型などと一緒になって全く新しいウイルスが出現する可能性もないとはいえない。



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(画像をクリックすると大きくなります)
朝日新聞・朝刊 2009.6.2
<コメント>
温度により増殖する効率が、ウイルスやアミノ酸の種類によって異なる。
鳥、豚、ヒトでそれぞれ体温が違い、上気道と下気道では温度が違うはずですから興味深い話です。

犬や馬のインフルエンザもあるんですね。ちょっと前に犬は風邪引かないんですよって患者さんにいわれて、真に受けていた私は馬鹿でした。
猫のインフルエンザもあるんでしょうね。

ペットからヒトへの感染はひとたまりもありません。
鶏や鶉(うずら)みたいに大量焼却はできません。

そして何よりも鳥。
検疫なしで空から侵入します。



新型インフルエンザ 変異 高病原性 関連サイト>
新型インフルエンザって?
http://www.pref.tottori.lg.jp/dd.aspx?menuid=39389
■高病原性鳥インフルエンザウイルスが新型インフルエンザに変異する仕組みは2通り考えられます。
まず、高病原性鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染、ヒトの体内で変異するこで新型となる仕組みです。
■次に、高病原性鳥インフルエンザウイルスと従来のインフルエンザウイルスがヒトに同時に感染し、ヒトの体内で混ざり合い変異し、新型になる仕組みです。
実はブタは鳥インフルエンザウイルスとヒトのインフルエンザウイルス両方に感染するため、ブタが同時に感染し、ブタの体内で混ざり、新型になる可能性もあります。
(恐らく今回の新型豚インフルエンザの流行前に書かれた内容と思われますが卓見です)


<番外編>
新型ウイルス、由来は「人鳥豚豚」 10年かけ4種混合

新型の豚インフルエンザウイルスは人と鳥、2種類の豚が持っていた計4種類のウイルスが複雑に混じりあってできたことが、米国や日本の研究チームの解析でわかった。
疾病対策センターCDC)や世界保健機関(WHO)が公開する新型インフルの遺伝子情報をもとに調べた。
予防や治療の基礎データとなるウイルスの正体が明らかになってきた。

米コロンビア大などのチームは、今回のウイルスと過去の研究でわかっている豚のウイルスの遺伝子情報を照らし合わせた。
この結果、ウイルスに8本あるリボ核酸(RNA)のうち、6本が北米の豚に感染するウイルスから受け継がれたもので、2本が欧州やアジア由来のユーラシア型の豚ウイルスから受け継がれたことを見つけた。
前者の6本には、人、鳥のそれぞれに感染するウイルスに由来するRNAも混ざっていた。

人は通常、豚や鳥のインフルにはかからないが、豚は人や鳥のインフルにも感染する性質を持つ。
98年ごろ、北米で豚インフルが流行したときに、豚の体内で豚ウイルスと人のA香港型ウイルス、鳥ウイルスが混じり合って、まず「3種混合」のウイルスができたとみられる。

これが北米の豚ウイルスと交雑を重ね、最終的にユーラシア型の豚ウイルスと合わさって「4種混合」の新たな豚ウイルスになったという。
このウイルスの表面のたんぱく質が、人に感染しやすい変異を起こした可能性が高い。

生物資源研究所(沖縄県名護市)の根路銘(ねろめ)国昭所長たちは、北米の豚ウイルスから受け継がれた6本のRNAのうち、1本が人、2本が鳥、3本が豚(北米)由来であることを示した。

国立感染症研究所のウイルス研究室長などを務めた根路銘所長は「ルーツが詳しくわかってきたことで、対策につなげられる可能性がある。
今後もウイルスは変化する可能性があり、監視が必要だ」と話している。
http://www.asahi.com/special/09015/TKY200905020187.html
出典 asahi.com 2009.5.3
版権 朝日新聞社

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<自遊時間>
「かぐや」HDTVによる低高度(近月点)撮影 [HD]
http://www.youtube.com/watch?v=gJmT3dPbwHE&hl=ja
月周回衛星かぐやの立体視映像
http://vision.ameba.jp/watch.do?movie=662185
月周回衛星かぐや
http://zoome.jp/kklaborat0ry/diary/19