男性更年期

日本のみならず世界の各国で高齢化社会が急速に進行しつつあります。
そのため高齢者の quality of life (QOL) をいかに保つかということは医学的にも重要な課題となっています。
男性に限った話ではありますが、その一つに男性更年期障害があります。
女性特有の更年期障害については有名な話ですが、私も最初に「男の更年期」という言葉を聞いた時にはちょっと耳を疑った記憶があります。
男性の場合には、女性のような急激な性ホルモンの低下はありません。

最近では、わが国でもマスコミによる紹介もあって多くの関心を集めつつあります。

欧米では partial androgen deficiency in aging male ( PADAM ) と一時いわれたことがあります。
最近では late-onset hypogonadism (LOH) と呼ばれています。
日本語では加齢男性性腺機能低下といいます。
このLOHの定義は「加齢に伴う臨床的・生化学的症候群で、特有の症状と血中tテストステロン(testosterone 低下)」と定義されています。


#LOH症候群の症状
LOH症候群の主要な症状は以下の7つとされています。
(1)リビドー(性欲)と勃起の質と頻度、とりわけ夜間睡眠時勃起の減退
(2)知的活動、認知力、見当識の低下および疲労感、抑うつ、短気などに伴う気分変調
(3)睡眠障害
(4)筋肉量と筋力の低下
(5)内臓脂肪の増加
(6)体毛と皮膚の変化
(7)骨減少症と骨粗しょう症に伴う骨塩量の低下と骨折のリスク増加
*自分で診断しやすいのは、早朝勃起(朝だち)が減る、体毛(髪の毛ではなく、顔の髭や脛毛)が薄くなる、精巣(睾丸)が小さくなる、といった症状です。


#LOH症候群の診断
LOH症候群のチェックリストにはいくつもあります。
病院ではaging males' symptoms (AMS)スコアが使用されることが多いのですが、自分でやってみるのならMorleyのものが簡単です。



Morleyスコア
男性更年期障害」チェックリスト
(1) 性欲が低下してきた
(2) 元気(活力)がなくなってきた
(3) 体力あるいは持久力が低下してきた
(4) 身長が低くなった
(5) 日々の愉しみが少なくなった
(6) 物悲しい気分になったり、怒りっぽい
(7) 勃起力が弱くなった
(8) 運動能力の低下を感じる
(9) 夕食後、うたた寝をすることがある
(10) 仕事能力の低下を感じる

3つ以上該当すれば更年期障害の疑いあり。
(1)または(7)だけでも男性ホルモン低下の可能性あり。
セントルイス大学/Dr.Morley J.E.作成)


このリストの(1)か(7)に当てはまるか、あるいは(1)か(7)以外の項目のうち4つ以上当てはまるなら、LOH症候群が疑われます。
もう一つチェックリストをやっておくと完璧です。
このリストで、(1)か(2)に当てはまって、さらに当てはまる項目の合計が5つ以上なら、うつ病かもしれません。


LOH症候群の診断には血液中の男性ホルモンの測定が必須となります。
男性ホルモン(テストステロン)にはいくつかの種類がありますが、日本人男性では遊離型テストステロン(活性型のホルモンでテストステロン全体の1~2%を占める)がLOH症候群の診断に最も信頼できる指標であるとされています。
「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き」では遊離型テストステロンが8.5pg/ml未満なら男性ホルモンが明らかに低いと判断し、8.5pg/ml以上から11.8pg/ml未満の男性を男性ホルモンが低下傾向にある(ボーダーライン)と判断することを推奨しています。

ある会社で健診をした45―65歳の男性を対象に行われた調査では約20%が中等度以上に該当したという報告さえあります。
つまり5人に1人は見つかる計算になります。

男女の更年期には少し特徴に違いがあります。
女性の更年期障害では身体的な不定愁訴自律神経失調症状)が出やすいのに比べ、男性ではストレスの影響が大きいため精神症状の方が強く出やすいといわれます。
とりわけ抑うつ症状が強く、うつ病との鑑別が難しいケースもあります。
中高年男性の精神症状では最も多いうつ病以外にも男性更年期障害も疑う必要があります。


#男性ホルモン補充療法
LOH症候群の治療は男性ホルモンの補充が中心となります。
しかし、この治療をするかどうかは血液中の遊離型テストステロンの値で決まります。
遊離型テストステロンが
(1)8.5pg/ml未満であれば男性ホルモンの補充を第一に行います。
(2)8.5~11.8pg/mlなら他の治療と有用性/リスクの比較を行い判断します。
男性ホルモンを3ヵ月間補充して、症状が改善するかをみてみるのも有用なやり方です(治療的診断といいます)。
(3)11.8pg/ml以上なら男性ホルモン補充は行わず、他の治療を選択します。

男性ホルモンの補充療法としては、わが国では
(1)男性ホルモンの注射(2~3週に1回)、
(2)胎盤性性腺刺激ホルモン(hCG)の注射(週に数回)、
(3)男性ホルモン軟こうの塗布(1日に1~2回)
などが行われています。
欧米では男性ホルモンの補充法として、皮膚から吸収させるパッチやジェル、口のなかの粘膜から吸収させる錠剤、3ヵ月に1回で済む注射などがあります。
ただ、これらはまだ日本では認可されていません。

男性ホルモン補充療法には副作用があります。
前立腺癌」、「乳癌」、「多血症」が進行/増悪する可能性があるため、これらの病気の患者さんは男性ホルモン補充療法を受けることはできません。
また、男性ホルモン補充療法を開始した方は、これらの病気について定期的に検診をうける必要があります。
男性ホルモンの投与により、「女性化乳房」、「ニキビ」、「多血症」、「睡眠時無呼吸」、「体液の増加」が出現することがあります。
さらに、男性ホルモンは「前立腺肥大症」の進行を早める作用があると考えられるため、男性ホルモン補充療法中には定期的に「前立腺」の検診を受ける必要があります。
これは女性ホルモンの補充療法(HRT)と乳がん・子宮がんの関係と似ています。


以上のことから、男性ホルモン補充療法を開始するにあたっては、体重測定・血液検査・内分泌(ホルモン)検査・PSA検査(前立腺癌の検査)・胸部X線撮影・前立腺超音波検査(前立腺肥大症の検査)を受ける必要があります。
特に、補充開始後の最初の1年間は3ヵ月ごとに検査を受けねばなりません。

#男性更年期障害と生活習慣病
更年期の時期は男女を問わず生活習慣病が症状として現れてくる時期と重なります。
男性更年期障害は加齢による男性ホルモンの低下だけでなく、多数の要因が複雑に絡み合っている状態です。
従って総合的に診察が出来る内科医に診察してもらうことも重要です。

<参考および引用サイト>
男性更年期障害とLOH(加齢男性性腺機能低下)症候群
http://danseifunin.com/man-perimenopausal-symptom.html


男性更年期障害とLOH(加齢男性性腺機能低下)症候群
http://danseifunin.com/man-perimenopausal-symptom.html

<自遊時間>
6月12日の朝日新聞・夕刊で「真夏のナリオン」という封切り映画の
広告が出ていました。
なぜか数多くの現役政治家が映画評を載せていました。

トップには麻生太郎 自由民主党総裁(どういうわけか総理大臣という
肩書きは書かれていません)。
いわく
「リーダーは、常に適切な判断を下さなければならない。そしてそれは
徹底した孤独な作業である」

私もこの言葉にはコメントをしたいのですが、あえて控えます。