新ぜんそく(喘息)薬「オマリズマブ」

今年(2009年)3月に重症喘息向けの新薬「オマリズマブ」(商品名・ゾレア、ノバルティスファーマ)が発売されました。
ステロイドなど従来の薬では、発作を抑えられなかった喘息患者さんにも効果があると報告されています。
ただ、小児に適応がないこと、高価であることなどの課題があります。

この新薬は、抗体医薬というタイプに分類されます。
抗体医薬とは、体内に侵入した特定の異物(抗原)に結合して、その異物を排除する「抗体」の性質を利用した医薬品で、がんやリウマチを中心に製品化が進んでいます。

外来患者のうち重症喘息は10%ぐらいで、この方達がオマリズマブの適応となります。


##重症者の半数に適応
喘息は、空気の通り道である気道が狭くなり、呼吸が苦しくなる病気です。
咳(せき)が止まらないなど重い発作が出ると、酸素不足や意識障害に陥り、最悪の場合は命を落としてしまうこともあり油断できない病気です。
国内の患者数は400~450万人と推計されています。

90年代、喘息の原因は「気道の慢性的な炎症」と分かり、炎症を抑える吸入ステロイド薬が治療の中心になりました。
これに気管支拡張薬や抗アレルギー薬を併用し、治療効果は格段に向上しました。
その結果95年に7000人を超えていた喘息死亡者数は、2007年には約2500人にまで減りました。

重症患者にはステロイドの飲み薬を併用するのが通常でした。
しかし飲み薬は、吸入薬と違って長く飲み続けると、糖尿病や白内障骨粗しょう症などになりやすいため、できれば使いたくない薬です。

今回登場したオマリズマブは、こうした重症患者を対象に承認されました。
喘息の引き金になるアレルギー反応を抑える薬です。

ダニやほこり、花粉などアレルギーの原因となる「抗原」が体内に入ると、身体を異物の侵入から守る血液中の免疫細胞のB細胞が、免疫グロブリンのG抗体(IgG抗体)を主に作り出し、対抗します。これは正常な免疫機構の働きです。

ところが、一部の人では、「IgE」という別の抗体が作られ、鼻や気管など粘膜の下にあるマスト細胞(肥満細胞)にくっつきます。
この細胞はアレルギー反応を起こす本体で、再び抗原が接すると、ヒスタミンなどの化学伝達物質を放出し、気道の炎症などを引き起こします。
これが喘息です。

オマリズマブは、IgE抗体と結合することで、抗体がマスト細胞に結合するのを防ぎます。
化学伝達物質の働きを抑える従来の抗アレルギー薬とは異なり、その前の段階で作用します。

オマリズマブの対象となるは、血液検査などでIgE抗体が確認できるタイプの患者で、重症患者の約5割を占めます。
ただし小児には使えません。

2週か4週おきに皮下注射し、吸入ステロイドなど基本的な薬はこれまで通り使います。
国内の臨床試験では、有効成分を含まない薬(偽薬)と比べ、ぜんそく症状が悪化する率が低く、気管支の状態も改善しました。

副作用が心配な経口や点滴のステロイドを減らせるため、重症の喘息患者さんには試す価値がある薬と期待されます。

問題は、費用が1本約7万円と高価で、健康保険の3割の自己負担でも、2週おきに3本ずつ使えば、負担は月に12万円を超えます。
国の高額療養費制度などを十分活用する必要があります。

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<参考および引用記事(一部改変)>
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/saisin/20090618-OYT8T00569.htm
出典 読売新聞 2009.6.18
版権 読売新聞社


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出典 朝日新聞
版権 朝日新聞社

<関連サイト>
喘息治療用の抗体医薬「ゾレア」、日本上陸へ  【新薬】オマリズマブ
http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20090122/126611/
■2009年1月21日、喘息治療薬のオマリズマブ(商品名:ゾレア皮下注用)が製造承認を取得した。
喘息に適応を持つ日本で初めての抗体医薬(ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体製剤)である。
2週間もしくは4週間に1回の皮下注射で、重症喘息患者の症状増悪頻度を減少させる効果などが確認されている。
海外では2003年に米国、05年に欧州連合EU)で承認されるなど、これまでに46カ国で承認されている。
■喘息は「気道の慢性炎症を基本病態とする慢性疾患」であり、発作性の呼吸困難、喘鳴、胸苦しさ、咳などが主な症状である。
発作には、種々のアレルゲンによるアレルギー性炎症が関与しており、中でも免疫グロブリンのIgEが介在する一連のアレルギー反応が重要な役割を果たしていると考えられている。

オマリズマブ(遺伝子組換え)
http://www.wam.go.jp/wamappl/bb11GS20.nsf/0/7a63c72655da4d1649257527002b0d22/$FILE/20081222_5shiryou1~2.pdf
■通常、成人にはオマリズマブ(遺伝子組換え)として1回75~375mgを2又は4
5 用法・用量 週間毎に皮下に注射する。



<自遊時間>
「ゾレア」は皮下注射の薬剤です。
各種のワクチンも皮下注射です。
インフルエンザワクチンの接種シーズンになると、必ずTVで接種風景が放映されます。
しかし、多くの医師の接種方法は筋注になってしまっています。
私は以前から不思議に思っていました。
TVカメラで写されるわけですから、自分の接種方法が正しいかどうか今一度チェックするのが普通です。
間違っていれば全国的に恥をかいてしまうことになります。
私はTVで平気に写させる先生方は、性格上大らかな方々なんだろうなと思っています。

皆さんもTVだけでなく実際自分でワクチン接種を受ける際にどのような接種方法をされているかチェックしてみて下さい。
そんな簡単なことだけでも先生の力量(普段からきちんと勉強しているか、考えながら医療を行っているか)が分かりますよ。

<皮下注射 関連サイト>
皮下注射
http://blog.m3.com/naika/20061113/1
皮下注射と筋肉注射の違い - 教えて!goo
http://oshiete1.goo.ne.jp/qa1657488.html
皮下注射について、おしえて
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q137494243
皮下・筋肉注射の手技について
http://okwave.jp/qa3739605.html


新型インフルエンザワクチン 関連ニュース>
新型インフルワクチン、国内治験なし承認も 早期接種へ
http://www.asahi.com/special/09015/TKY200908250147.html
■舛添厚生労働相は25日の閣議後会見で、新型の豚インフルエンザ用ワクチンを医療現場に早急に供給するため、ワクチン輸入にあたり薬事法の特例承認を初めて適用する考えを明らかにした。
海外で臨床試験(治験)が実施されていれば、国内で改めて治験をしなくても承認する方針。

政府の決定が必要になるため、舛添氏は「最終的には総理がご決断する」と述べた。

副作用の可能性が残るため、舛添氏は「非常に難しい問題。専門家や薬害被害者の意見も聞き、コンセンサスを得たい」と話した。
26日にも専門家らとの意見交換会を開く。
医薬品を輸入するには国内で再び治験をするのが通例で、最短でも半年かかるとされる。

また国産ワクチンについて舛添氏は「10月下旬に出荷が可能とメーカーから聞いている」と話した。厚労省はどんな人から使うかの優先順位を9月中に決め、10月にも接種を始めたいとしている。

厚労省は接種対象を5300万人とみている。
国産の供給量は年内に1300万~1700万人分にとどまる見通しのため、舛添氏は不足分を輸入で賄う考え。
接種対象は
▽医療従事者100万人
▽持病がある1千万人
▽妊婦100万人
▽乳幼児600万人
▽小中高校生1400万人
▽高齢者2700万人(持病がある600万人を含む)。

一方、厚労省は25日、感染症法施行規則を改正し、新型の豚インフルの患者が出た場合の医師の届け出義務をなくしたと発表した。
http://www.asahi.com/special/09015/TKY200908250147.html


新型インフル「米国民の半数感染、死者9万人」予測
オバマ米大統領の科学技術諮問委員会(PCAST)は24日、秋から冬にかけ、最悪の場合、米国民の半数が新型の豚インフルエンザに感染し、約9万人が死亡するなどの予測を盛り込んだ報告書を発表した。1918~19年に大流行したスペイン風邪ほどではないものの、今回のウイルスは国に対する「保健衛生上の深刻な脅威」になるとして、政府に備えを求めた。

報告書によると、米総人口の30~50%が感染、最悪の場合、180万人が入院する。また30万人が集中治療室(ICU)で治療を受ける可能性があり、子どもや若者を中心に3万~9万人が死亡すると予測している。

米国では季節性インフルエンザで毎年約3万6千人が死亡しており、最悪の場合、その2倍強の予測だ。

早ければ米国の学校の新学年に当たる9月に第2波の流行が始まり、ピークを迎える10月中旬には新型対応ワクチンの接種が始まるものの、免疫ができるまで数週間かかるためにワクチンの有用性が大きく損なわれる可能性があるとした。



<自遊時間>
5月に我が家に猫が迷い込んで来てから猫という言葉につい反応してしまいます。


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