急増する謎の高血圧

きょうは「ためしてガッテン」ネタです。
TVでご覧になった方も多いのではないでしょうか。

薬も減塩も効かない!?急増する謎の高血圧
http://cgi2.nhk.or.jp/gatten/archive/program.cgi?p_id=P20100210

テーマは脳卒中などの危険因子「高血圧」。
今回ご紹介するのは「普通の高血圧」とは全くの別物。
年齢や生活習慣とは無関係、健康な人にも突然襲いかかり、血圧を下げる薬もほとんど効果がない
「謎の高血圧」です。
しかも脳卒中の危険度は普通の高血圧の4倍以上。
患者数は最大で400万人とも言われる超危険な高血圧なんです。
何よりも恐ろしいのは、普通の高血圧とは見分けがつかないのに「対策は異なる」ということ。
つまり、それを知らないまま一生懸命生活改善に励んだり、ほとんど効果のない降圧剤を飲み続けている人がたくさんいることが判明したのです。
番組では、そんな謎の高血圧の見分け方、そして治し方をお伝えします。

##薬も減塩も効果がない!?謎の高血圧
「謎の高血圧」とはどのような高血圧なのでしょうか?
取材した患者さんたちの証言によると、いつの間にか血圧が急上昇していたというもの。
血圧とは血液が血管の壁を押す圧力のこと。
したがって、通常、血圧は長い年月をかけて上昇していくものです。
ところが30代のある男性の場合。これまで120(mmHg)程度だった上の血圧が、ある時、190にまで上昇していることに気づいたのです。
また、その他の特徴も「普通の高血圧」とはことごとく異なります。
減塩の効果がない、食事管理の効果がない、運動の効果がない。
そして最も怖いのが、降圧剤の効果も初めだけ。次
第に効果が弱まっていくというものでした。
それなのに、脳卒中の危険は普通の高血圧に比べて4.2倍も高いというのです。
一体どうしてこんなことが起こってしまうのでしょうか?

※高血圧の基準(家庭血圧)は上が135以上または下が85以上です。
(コメント;これは診察室での血圧で家庭では「125以上または下が80以上」となります。しかもこの数値はあくまでも若年者・中年者での数値です。高齢者ではそれぞれが140以上または下が90以上、135以上または下が85以上)となります。)


##謎の高血圧のカギを握る「ある臓器」とは?
一見、普通の高血圧と見分けがつかない「謎の高血圧」ですが、実は患者さんには、共通して「ある臓器」に問題があることが明らかになりました。
それは「副腎」です。
「腎臓」の上に乗っている3cm程度の臓器で、一見、腎臓の一部のようにも見えますが、全くの別物だったのです。
以前、生活習慣病などでダメージを受けた腎臓が血圧上昇を招く要因になることをお伝えしました。
ところが謎の高血圧は、それとは異なり、副腎に異常が起こっていたことが問題だったのです。
一体それは何なのでしょうか?


##原因は副腎から出る「あるホルモン」の不思議な働き!
謎の高血圧には副腎から出るホルモンが深く関わっていることが明らかになりました。
名前を「アルドステロン」と言います。
アルドステロンは塩分に含まれるナトリウムを確保するホルモンです。
ナトリウムは生物の筋肉や心臓を動かすのに必要なので、人間が健康に生きていく上でなくてはならないホルモンだったのです。
では、なぜそんなホルモンが謎の高血圧を引き起こすのでしょうか?
実は、アルドステロンは魚にはなく、人間にあるということが判明しました。
海にすむ魚の場合、周囲はナトリウムが豊富なので、アルドステロンが不要です。
ところが陸にすむ人間の場合、摂取したナトリウムが排出されないように、体内に確保する必要がありました。そこで発達したのがアルドステロンだったのです。
謎の高血圧に悩まされる患者さんは、ある異変によりアルドステロンが増加していることがわかりました。
そのため、必要以上のナトリウムを血中に取り込んでしまいます。
すると、体はナトリウムを薄めようと、血液中の水分を増やします。
その結果、血液は血管を圧迫し、高血圧が引き起こされていたのです。
そしてアルドステロンを増加させていた原因は、副腎にできたわずか数ミリ程度の腫瘍(しゅよう)でした。
何らかの理由で、副腎の細胞が増えてしまっていたのです。
腫瘍と言ってもほとんどの場合が良性で転移はしませんが、血圧の上昇を招く原因になっていました。
この謎の高血圧を「原発性アルドステロン症」と言い ます。
腫瘍ができる原因はわかっていません。


##謎の高血圧を早期発見する!治す!
原発性アルドステロン症を早期発見する方法は「血液検査」です。
採血して血中に含まれるアルドステロンを調べることで、この病気の疑いがあるかどうかがわかるようになってきました。

「血液検査を受ける目安」は下記となります。
※下記はあくまで目安です。病状によって条件は異なります。

(1)薬を飲まなくても上の血圧が160mmHg以上、または下の血圧が100mmHg以上

(2)薬を飲んでも上の血圧が130mmHg以上、または下の血圧が85mmHg以上

(3)血中のカリウム値が低い(3.5~4mEq/Lを下回る場合)

血液検査を受けた後は、「ホルモンの精密検査」や「CT検査」など患者さんの病状に合わせた検査を選び、診断を確定します。

その後は「手術」です。正確には「腹腔鏡下(ふくくうきょうか)副腎摘出術」と言います。
お腹に1cmほどの穴をあけ、異常のある副腎を摘出するのです。
入院は5~7日程度、費用は20万円程度です。
移植できる腎臓と同様、副腎も2つあるため、1つ摘出しても特に問題はありません。
ただ両方の副腎に腫瘍ができてしまった場合は「アルドステロン拮抗薬」という薬でホルモンの働きを抑えることができます。


##異変を見逃さない!「正しい血圧の測り方」は?
血圧の異変を見逃さないためには、正しく血圧を測定しなければなりません。
そのためには一機会につき2回は測定することが大切です。
1回目は行動時の影響を受けやすく、比較的高い数値が出てしまいます。
2回目は安静の影響で低めに出ます。
大切なのは、そのどちらかを切り捨てるのではなく、両方を自分の数値として長期間記録していくことです。
例え1回であっても長期間記録していくことが大事です。

日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2009」によると、「測定機会」は朝と夜の2回。
「血圧計」は上腕用を推奨しています。指や手首のタイプは血管を圧迫させるのが上腕用より難しく、正確な数値が出にくいとされています。


読んでいただいて有難うございます。
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