運動せずにメタボ改善?

朝日新聞・朝刊2010.7.30の「科学欄」に、「運動せずにメタボ改善?」というタイトルの記事が掲載されました。
「ネイチャー」誌に掲載されたということのようですが、すでに4月に同じ内容の記事が発表されています。
「電子版」が正式に学術誌に掲載されるようになった、ということなのでしょうか?


#脂質を燃やすホルモン、東大解明 運動せずに体質改善も
脂肪細胞が分泌するホルモン「アディポネクチン」が、筋肉細胞で働いて糖や脂質の代謝を高めて体内での燃焼を進め、運動したのと同様の作用を果たすことを、東京大の門脇孝教授らのチームがマウスの実験で解明、1日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表した。

糖尿病やメタボリック症候群の人は、アディポネクチンが出にくくなることが知られている。
人でもマウスと同じ作用があるとみられ、この仕組みを活性化する薬が開発できれば、薬を飲んだだけで運動をしたのと同様の体質改善効果が期待できそうだ。

チームは数年後の臨床応用を目指して薬剤開発を進めている。
門脇教授は「高齢やけが、足腰の病気などで思うように運動できない人で、糖尿病などの生活習慣病の治療に役立つだろう」と話している。

チームは、筋肉細胞で起きている代謝の仕組みを分子レベルで解析。
細胞表面にある受容体にアディポネクチンがくっつくと、異なる二つの経路で細胞内に信号が伝わり、糖などの代謝にかかわる細胞内器官のミトコンドリアの働きが強まるのを発見した。


<私的コメント>
脂肪細胞は、単なる脂肪の貯蔵庫と考えられていました。
しかし、最近の研究の結果、実は様々な生理活性物質を分泌する、人体内で最大の内分泌臓器ではないかといわれるようになりました。
その生理活性物質は、「アディポサイトカイン」と呼ばれ、メタボリックシンドロームの鍵を握る物質ではないかと注目されています。
この「アディポサイトカイン」。
「アディポ」は脂肪、「サイト」は細胞、「カイン」は作動因子という意味の造語です。
このアディポサイトカインにはコレステロールと同様に「善玉」と「悪玉」があります。
「善玉」は、あくまで「正常な脂肪細胞」からしか分泌されないという性質を持っているのです。
つまり正常な、肥満していない、小型の脂肪細胞からは、善玉アディポサイトカインが活発に分泌さますが、悪玉アディポサイトカインはほとんど分泌されないのです。
一方、逆に肥満して肥大化した脂肪細胞からは善玉アディポサイトカインは出なくなり、悪玉アディポサイトカインの分泌が活発になるのです。
メタボリックシンドロームの元凶が、この悪玉アディポサイトカインです。
そして、この悪玉アディポサイトカインを分泌するのが、内臓脂肪型肥満だったわけです。


善玉アディポサイトカイン
 レプチン・アディポネクチン
悪玉アディポサイトカイン
 PAI-1・HB-EGF・TNF-α・アンジオテンシノーゲン、遊離脂肪酸(FFA)、レジスチン

レプチン
・満腹中枢を刺激して、食欲を抑制する
・エネルギー消費を促進する
(肥満が進行すると、レプチンの食欲抑制作用が効かなくなる~レプチン抵抗性~)

アディポネクチン
「アディポ」は脂肪、「ネクチン」はべたべたした物質という意味
インスリン抵抗性を改善する
・血圧や中性脂肪、血糖の値を低下させる
・血管内壁の傷を修復する(動脈硬化を予防する)



PAI-1
「P」はプラスミノーゲン、「A」はアクチンベータ、「I」はインヒビーターという意味
・血液中で血小板と結合して、出血箇所を修復する
(過剰に分泌されると、血液の塊(血栓)が出来やすくなる)

HB-EGF
「へパリン結合性上皮細胞増殖因子」という意味
・血管の内皮細胞(平滑筋)の増殖を促進する
・血管内皮細胞が増殖することで、血管が狭くなり、詰まりやすくなる

TNF-α
(腫瘍壊死因子-α)
・腫瘍を形成する悪性の細胞を壊死させる働きがある
インスリン抵抗性を誘引する

アンジオテンシノーゲン
・血管を収縮させ、血圧を上昇させる

遊離脂肪酸(FFA)
中性脂肪として血中に増加し、反比例してHDLが減少する
インスリン抵抗性を引き起こす(惹起)物質の一つ
・脂質異常に関与して糖尿病・高脂血症を引き起こす

レジスチン
インスリン抵抗性を引き起こす(惹起)物質の一つ
<参考サイト>
http://naisousibou.com/56/57/000423.html





<番外編>
牛乳を飲むとメタボリックシンドローム改善につながる
http://www.bonsoir-production.com/blog/2007/07/post_48a5.html
(3年前のちょっと古いソースです)
●英国の研究者が、毎日乳製品を食べるとメタボリックシンドロームの改善につながり、さらに、牛乳を500mL以上飲んでいる場合には、改善率が高くなることを報告しました。

●45~59歳の高血糖高脂血症、高血圧などのリスクを複数もった男性を追跡調査したところ、毎日乳製品を食べている男性では、これらの症状を発症する人は56%少なく、牛乳を飲んでいる人では62%少なかったそうです。

原文(英文です)
Drinking milk cuts diabetes risk
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/6898103.stm


肥満の原因は電子レンジにあり?
http://www.bonsoir-production.com/blog/2007/06/post_f6c6.html

原文(英文です)
Did microwaves 'spark' obesity?
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/6725775.stm
●英国では、1980年には女性の8%、男性の6%が肥満と区分されていましたが、2004年には男性、女性とも、その割合は24%にのぼっています。
子ども(2~11歳)では、1995年には10~12%でしたが、2003年には16%にのぼっているそうです。
●こうした近年の肥満の増加の原因について、シンポジウムでは、①電子レンジの普及、②スーパーマーケットの普及、③第二次世界大戦後のテクノロジーの発達という論点から、検討しています。
●スーパーマーケットが普及して、手軽に食物を手に入るようになったこと、また、テクノロジーが発達して、身体的な活動が減ったこと(たとえば戸外での活動よりも、テレビをみて過ごすことなど)は、これまでも指摘されていましたが、興味深いのは、電子レンジの普及という視点であると思います。
●英国では、1984年頃より肥満者が増えてきたというのですが、これは電子レンジの普及と一致しているそうです。
また、スーパーマーケットの普及で電子レンジ用の食事が簡単に手に入ることと相乗的に、肥満者が増えたのではないかと、研究者は述べています。

●もっとも別の研究者は、これらの普及には悪い面だけがあるのではなく、たとえば電子レンジはカロリーの高い食事を簡単につくれる一方、ヘルシーな料理を簡単に行うことができ、また、スーパーマーケットでは消費者がヘルシーな食材を選択しやすくなっていることを指摘しています。
そして、「最も大きな要因は第二次世界大戦終結であろう、というのも、それで“配給”が終わってしまったからだ」と述べています。記事はこの研究者の、次の言葉で締めくくられています。
●「私たちは、食べ物が不足するという経験をしていない唯一の世代なのです。これこそ、最も大きな問題なのです」


魚の脂と運動を組み合わせると、悪玉コレステロールが減る
http://www.bonsoir-production.com/blog/2007/05/post_5d3a.html
●オーストラリアの研究者が米国の医学誌に発表。
魚の脂のサプリメントを摂取しつつ、運動を組み合わせると、体脂肪を減らし、コレステロール値を改善することができるそうです。
●魚と運動のそれぞれが、コレステロール値の改善と心疾患の予防に効果的であることは、よく知られています。
今回の発表は、組み合わせるとさらに効果的というところにあります。
●魚の脂にはω(オメガ)3脂肪酸という成分があります。
血圧や中性脂肪を低下させ、血栓予防や心機能改善といった効果をもたらします。
●今回の実験では、75人の肥満成人を、①魚の脂だけを摂取する、②魚の脂を摂り運動する、③植物油を摂取する、④植物油を摂り運動する、の4つのグループに分けて、比較試験を行ったそうです。
12週後の結果では、②のグループで体脂肪と心機能において改善がみられたとのこと。

<私的コメント>
魚の脂から作ったEPA製剤が保険適応になっています。
当院では積極的に処方しています。













読んでいただいて有難うございます。
コメントをお待ちしています。
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