胎児の治療 おなかの中で

●費用負担がネック、保険適用の動きも
妊婦健診などで見つかる胎児の病気には、生まれてから発見、治療したのでは間に合わず胎児の生命にかかわるものもある。
お母さんのおなかの中にいる段階できちんと診断し、レーザーや薬を使う胎児治療が定着してきている。
費用は原則、全額自己負担だったが、最近では医療保険が適用される治療・診断も出てきた。

●48万円 何とか工面
神奈川県の女性会社員(34)は昨年、双子を妊娠した。
妊娠20週を過ぎた8月、「双胎間輸血症候群(TTTS)」と診断された。

TTTSは一卵性双生児に起こる。
胎児はへその緒の血管を通して胎盤から栄養を受け取る。
胎盤を共有する一卵性双生児では、血管の一部が胎盤の上で結合しているが、何らかの原因で、結合した血管を通して片方の胎児からもう片方の胎児に血液がどんどん流れ込んでしまう病気だ。

血液を供給する側の胎児は貧血や低血圧になって成長が滞り、そのままなら死亡する。
血液を供給される側の胎児は高血圧や水腫、心不全を起こし、やはり放っておけば亡くなってしまう。

厚生労働省研究班の推計では年400組の双子に起きている。
全妊娠の約1.2%が双子で、そのうちの30分の1程度に起こる計算だ。

「どうしよう」。
診断された女性はインターネットで病気を調べ、ショックを受けた。

TTTSには、レーザーで血管の結合部を焼き切る治療=イラスト=がある。
女性も治療のため東京都内の国立成育医療研究センターに行き、さらに衝撃を受けた。
胎児治療は医療保険の対象外。手術代約48万円は全額自己負担、と説明された。


イメージ 1



何とか費用を工面して8月末、手術を受けた。
おなかに直径5ミリ以下の穴をあけ、そこからカメラやレーザーのついた内視鏡を通し、血管を焼き切った。
下半身に麻酔をかけ1時間ほどで済み、痛みはなかった。
その後、双子は順調に成長。
11月中旬、2人の男の子が無事、生まれた。

この治療は国内では2002年に始まり、すでに500件以上実施された。
02年7月~06年末までに実施された181件のうち、9割は出産して6カ月後の時点で最低1人の子が生存。
6割は2人とも生きていた。
重い脳神経障害が残った子は約5%だった。

日本産科婦人科学会は保険適用を求めている。
実施施設は、成育医療研究センターや聖隷浜松病院静岡県)、国立病院機構長良医療センター岐阜県)、山口大、東北大と宮城県立こども病院などに限定する予定。

成育医療研究センターの左合治彦周産期診療部長は、胎児治療は高度な技術が求められ、治療対象や実施する病院・医師は慎重に増やすべきだと考える。
「胎児治療は、健康な母親にも何らかの影響をもたらす可能性がある。治療効果と母親への影響を科学的に検証し、効果が大きい治療しか実施すべきではない」


●欧米では患者扱い
「欧米では、胎児を一人の患者として治療対象とみる傾向が強い。日本の医療制度では胎児は母親の付属物として扱われてきた」と斎藤滋富山大産科婦人科教授は言う。

昨年11月、胎児の肺の発育を促すステロイド剤が医療保険で認められた。
斎藤さんはこのことを「胎児を患者として扱ったという意味で画期的」と指摘する。

早産児は肺が未熟で呼吸困難に陥ることがある。
このステロイド剤を、出産前に母親に注射して胎盤を通して胎児に届ける予防的治療だ。
20年以上前から行われてきた。

今年4月、妊婦健診で胎児の心臓に異常が疑われる場合に、より精密に調べる超音波検査(心エコー)も、医療保険の対象となった。
胎児心エコーは1990年代に広まり、日本胎児心臓病研究会の登録制度には毎年1300~1500件の登録がある。


イメージ 2


技術が進み、超音波検査で胎児の心臓を横切りや縦切りにした様子が、はっきりわかるようになってきた=長野県立こども病院の安河内先生提供


胎児は心臓に重い奇形があると、出産後に体内に血液が循環しなくなるショック状態に陥り、重い後遺症が残る場合や死亡することもある。
「事前に診断できれば、生まれてすぐ治療を行い、ショック状態を回避できる」と長野県立こども病院の安河内(やすこうち)聡循環器科部長は話す。

同病院で、事前に心エコー検査を受け、ショック状態が予想された約230人のうち、親が治療を希望しなかった場合を除く全員がショック状態を回避でき、後遺症もなく成長しているという。

6月、胎児の脈拍が速くなる頻脈性不整脈に対し、抗不整脈剤を母親に摂取してもらい胎盤を通して胎児に届ける不整脈治療が、「高度医療」として認められた。
これは未承認の薬などを使う場合に対応した制度。
先進医療同様、入院費や検査費などに保険診療を認められる。

国立循環器病研究センター(大阪府)の池田智明周産期治療部長を中心に久留米大(福岡県)や大阪府立母子保健総合医療センターでまず実施し、今後は10病院にまで増える予定だ。

胎児の頻脈性不整脈は死亡することもある。
胎児1000人に1人に起こり、治療が必要なのは1~3割。

池田さんらが全国750病院に対し2004~06年に実施された不整脈治療のアンケートをした結果、41件の9割で効果があった。


キーワード 双生児
卵子精子と受精すると細胞分裂を繰り返し赤ちゃんになる。
一つの受精卵が細胞分裂するうちに2つに分かれたのが一卵性双生児。
分かれる時期により、胎盤は共有し胎児周辺の羊膜は2つのこともあれば、胎盤も羊膜も共有することもある。
胎盤を共有する双子は全双生児の3分の1程度。
TTTSはこのタイプで起こる。
二卵性は2つの受精卵が育つので胎盤は2つ。
(東京本社科学医療グループ 大岩ゆり)

出典 朝日新聞・朝刊 2010.7.1
版権 朝日新聞社



<胎児治療 関連サイト>
[PDF] 1)胎児治療の進歩
http://www.jsog.or.jp/PDF/58/5809-107.pdf
胎児における外科治療
http://mymed.jp/di/uiv.html
(いささか専門的です)
胎児不整脈:入院・検査費に保険適用 高度医療と認定
http://blogs.yahoo.co.jp/geogeo21th/34197933.html
胎児外科治療
http://www.ncchd.go.jp/hospital/section/special/taiji.html
<胎児治療薬>保険を適用 胎盤通じ投与、呼吸困難防ぐ
http://blogs.yahoo.co.jp/a9611436/61217849.html
胎児治療
http://blogs.yahoo.co.jp/rumio1976/35333643.html
驚異!胎児治療の現場を見て
http://blogs.yahoo.co.jp/k92lp123/35976767.html

<私的コメント>
胎児心エコーにより胎児に心臓奇形が見つかった、という話を親戚から聞いたことがあります。
その時には医学の進歩に驚いたものです。
いずれにしろ多くの女性は、一定の危険を伴う出産ということを経験するわけです。
我が家も他の家庭と同様に、父親は「蚊帳の外」の母系家族です。
子どもは本能的に母親の偉大さを知っているんですね。

私は、一人部屋にこもってブログをやるしかありません。



<自遊時間>
#ハブ上回る猛毒、オコゼに刺され?ダイバー死亡
5日午前9時頃、沖縄県名護市幸喜の海水浴場で、ダイビングの指導をしていた同市宮里の男性(58)が「痛い、オコゼに刺された」と叫び、浜辺に上がろうする途中で倒れた。
仲間が左足の裏に複数の刺し傷があるのを確認し、毒素をもみ出す応急措置をしたが、男性は心肺停止に陥り、約1時間半後に搬送先の病院で死亡が確認された。
名護署はオコゼのトゲが刺さり、毒素でショック死したとみて調べている。

同署などによると、男性はベテランダイバーで、波打ち際から5メートル沖の浅瀬にはだしで入り、客に指導中だった。

沖縄県衛生環境研究所によると、沖縄本島沿岸に生息する毒を持つオコゼは、オニダルマオコゼが代表的。石や岩に擬態して潜み、背びれのトゲから出す毒の強さはハブの30倍以上とされる。
沖縄では人が気付かずに踏みつけて負傷する事例はよくあるが、死亡した記録は1件(1983年)しかない。
出典 読売新聞 2010.8.5
版権 読売新聞社
<私的コメント>
オコゼ恐るべし。
この夏ダイビングを予定されている方はくれぐれもご注意を。







読んでいただいて有難うございます。
コメントをお待ちしています。
井蛙内科開業医/診療録(4)
http://wellfrog4.exblog.jp/
(H21.10.16~)
井蛙内科開業医/診療録(3)
http://wellfrog3.exblog.jp/
(H20.12.11~)
井蛙内科開業医/診療録(2)
http://wellfrog2.exblog.jp/
(H20.5.22~)
井蛙内科開業医/診療録 
http://wellfrog.exblog.jp/
(H19.8.3~)
(いずれも内科専門医向けのブログです)
葦の髄から循環器の世界をのぞく
http://blog.m3.com/reed/
(循環器専門医向けのブログです)
井蛙」内科メモ帖 
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/