コレステロール 高い方が長生き?

コレステロールは高い方が長生き」というガイドラインを、ある学会が発表しました。

発表した学会は日本脂質栄養学会。
今年は愛知県犬山市で開催されたということですから医学関連の学会では小さい学会です。

この内容については


でも取り上げました。



以下は新聞記事からです。


コレステロールを巡って専門家の間で論争が起きている。
ある学会が「高い方が長生きする」という、これまでの医学の「常識」と真っ向から対立する見解を、ガイドライン(指針)として公表したからだ。
生活習慣病予防の観点から、コレステロールは悪者扱いされることが多い。
本当に高くても放っておいて大丈夫なのか。


2学会が対立
論争の引き金になったのは9月初旬に愛知県犬山市で開催された日本脂質栄養学会大会だった。

コレステロールの摂取量を増やしても、血液中のコレステロール値は上がらない」「特別なケースを除き、動脈硬化による疾患の予防にスタチン類(コレステロール値を下げる薬)の使用は不適切」――。

同大会で公表された「長寿のためのコレステロールガイドライン」は、健康維持への適正な基準値を具体的な数字で示しはしなかったが、「高いよりも低い方が健康によくない」とした。
現在、脂質異常症高脂血症)の治療の目安として広く利用されている日本動脈硬化学会の指針(2007年版)をほぼ全否定する内容だった。

新しい指針の内容が一部のメディアで報じられ、医療現場では混乱が起きた。
ある開業医は「コレステロールがとても高い患者から、スタチン類をもう飲まなくてもいいのでは、と質問され、困っている」とこぼす。

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新指針の根拠になっているのがいくつかの疫学調査だ。
例えば、神奈川県伊勢原市の男女約2万6千人(男性平均年齢64.9歳、女性同61.8歳)を約8年間追跡した調査では、男性の場合、悪玉(LDL)コレステロール値が100未満(ミリグラム/デシリットル)の集団で肺炎やがんでの死亡が増え、総死亡率が大きく上昇した。
女性では高い値でも総死亡率の上昇はみられなかった。

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この疫学調査を主導し、新指針の策定メンバーの1人でもある東海大学医学部の大櫛陽一教授は「日本では総死亡に占める(虚血性)心疾患の割合は7%で米国よりかなり低い。LDL値140以上を脂質異常症とする07年版指針は心臓病リスクからはじき出した数字で、高いから長生きできないというのはおかしい」と言い切る。


「根拠欠く」と反論
動脈硬化学会は今月14日、反論の声明文を発表した。
「脂質栄養学会の委員会が公表した指針は、根拠としている論文が研究者の精査を経ておらず、科学性が担保されていない」という。
根拠を欠く指針は「指針に値しない」という立場だ。

論争は平行線だが、気になるのは、コレステロールが高いと薬を使ってでもすぐに下げる必要があるかどうかだ。

高いからといって、それだけでは「病気」とはいえない。
高血圧や高血糖、喫煙や飲酒の有無などが複雑に重なり、心筋梗塞脳卒中、がんなどの発症リスクはあがる。
こうした生活習慣病予防のため、脂質異常症という病気がある。

一度、狭心症などを患った人がLDL値140以上の状態を放っておくのは問題といえるが、健康診断や人間ドックでこの値を一度超えたからといって、ほかに目立った異常がなければ大騒ぎする必要もなさそうだ。

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07年版指針を策定した帝京大学の寺本民生・内科主任教授は「コレステロールが高くていいはずはない」と前置きをした上で、「臨床現場にいると不要なスタチン類投与も見受けられる。LDL値140以上で脂質異常症の診断がつくが、この数字が薬物治療開始の基準ではない。生活習慣を改めてもらうのが先決だ」と話す。

薬の効果を調べるための臨床試験では、製薬会社の意向をくんで統計の解析に恣意的な操作が加えられることもあるとされる。

医学研究の客観性を評価する目的で今春発足した「臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)」の桑島巌理事長(東京都健康長寿医療センター副院長)は「コレステロールにはよい面と悪い面とがある。一律の基準値だと必要のない治療を促しかねない。患者なのか健康な人なのかによっても適正な値は変わってくるだろう」と話す。                 (編集委員 矢野寿彦)

出典 日経新聞・朝刊 2010.10.24
版権 日経新聞


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日本脂質栄養学会GLに日本動脈硬化学会が反論
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