手のふるえ 過度な不安 不要

手のふるえに悩む高齢者は多い。緊張していないのに、ペンやコップを持つと、手がぶるぶるとふるえる。こうしたふるえがいつも起きると深刻な病気が隠れているのでは、と不安になるかもしれないが、加齢に伴う「老化現象」のケースが少なくない。

「ふるえ外来」検討

千葉県佐倉市にある東邦大学医療センター佐倉病院の神経内科
1日に50人前後の患者が外来にやってくるが、うち約2割がふるえを訴えている。
症状としては約3割いるしびれに次ぐ。同大の榊原隆次・准教授は「年をとるとともに手がふるえて困る、という人は増える傾向にあるようだ」と話す。
ふるえ外来の設置を考えているという。

人間だれでも緊張すると体がふるえる。
自律神経のうち交感神経の働きが強まるからで、式場などの記帳で指先が小刻みにふるえてうまくサインができないのは典型例。
スピーチを求められて声がふるえるのも同じで、生理現象といえる。

こうしたふるえは緊張が解かれると普通は収まる。
一方、60代以降から顕著に増えるふるえ「本態性振戦」は日常生活でひんぱんに襲ってくる。
自宅でお茶を飲もうとしても湯飲みがふるえうまく飲めない。
料理で包丁をもつと指を切りそうになる。化粧ではうまく紅を引くことも難しい。

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本態性は「原因不明」、振戦は「ふるえ」を表す医学用語。加齢によって神経細胞の数は減り、筋肉も衰えていくため、中枢神経や抹消組織になんらかの異常があるとの見方もあるが、そもそもなぜふるえるのかもよくわからない。

本態性振戦だと親や兄弟もふるえを訴えるケースが半数近くあるともいわれ、遺伝要因も強いとみられている。ただ、原因遺伝子は見つかっていない。

ふるえと上手につきあうには、まず、深刻な病気が原因でないかどうかを見極めることだ。


パーキンソン別物

ふるえが主症状となる病気に主に中高年から発症するパーキンソン病がある。
ただ、本態性振戦とパーキンソン病とでは「ふるえの質」が違う。

両手を前に差し出し、手のひらを下に向ける実験をしてみよう。
本態性振戦だと微妙にふるえ始める。
一方、パーキンソン病だとひざの上においた手が指先で何かを丸めるようにふるえるのが特徴的だが、この実験をやると、不思議なことにピタッとふるえがやむことが多い。
パーキンソン病の患者で、字を書くときに困る人は少ない。

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突然、ふるえが目立つようになると、脳卒中の疑いがあるのではないかと不安になる人は多い。
ただ、頸動脈の狭さくが原因で起きる脳梗塞(こうそく)でごくまれにリムシェイキングと呼ぶふるえがみられるほかは、「脳卒中の前兆としてふるえの症状がでることはまず考えにくい。

ふるえはバセドウ病などの甲状腺機能亢進症やジストニアなどでも起きる。
また、一部のぜんそく治療薬や吐き気止めといった薬の副作用で出ることもある。
かかりつけ医や神経内科で何が原因のふるえなのかを一度診てもらうと安心だ。

本態性振戦は40歳以上でみると16人に1人の割合でいるとされる。
ごくありふれた病気ともいえ、体質からきているふるえと考えた方がよい」。

日常生活に問題なければ、放っておいても構わない。

ふるえがひどく仕事などに差し障りがある人は、β遮断薬によって症状をある程度抑えることはできる。重症で薬が効かない人には、手術によってふるえをなくすことも可能だ。

白髪や老眼だからといって、病気だと思う人はいない。
ふるえも加齢だと思っているぐらいがよい。

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出典 日経新聞・朝刊 2010.11.21(一部改変)
版権 日経新聞



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