アルツハイマー 10年ぶり新薬

アルツハイマー病の新しい治療薬が約10年ぶりに登場する。
春にも進行を遅らせる2種類が発売される見通しで、現在の「アリセプト(一般名ドネペジル)」を加えると、3つの薬から選んだり併用したりできるようになる。
新薬は海外での使用実績が長く安全性は高いといわれている。

「やっと薬の選択肢が増える」。
認知症の人と家族の会」富山県支部で、電話相談を担当するYさん(63)は「メマリー(同メマンチン)」と「レミニール(同ガランタミン)」の2つの新薬登場を待つ患者の声をこう代弁する。

Yさん自身も約7年前にアルツハイマー病を発症、現在は国内で唯一使えるアリセプトを服用し、症状は落ち着いている。
だが、薬が1種類しかない状態にいつも不安を感じていた。
「すぐに薬を変えるつもりはないが、効果を感じなくなったら別の薬があると安心」と話す。


欧米では4種推奨
アルツハイマー病は脳の神経細胞が死滅していくタイプの認知症で、記憶力が低下し、進行すると料理作りや着替え、会話などの日常生活にも支障をきたす。
現在、国内では推定約120万人の患者がおり、認知症の中で半分以上を占める。
高齢になるほど発病率が高まり、85歳以上では約4人に1人の割合になるともいわれている。
発症のメカニズムはよくわかっていない。
根本的な治療法や予防法はなく、薬を使って進行を遅らせるのが精いっぱいだ。

欧米などでは4種類が標準的な治療薬として推奨され、実際に使われている。
アリセプトしか使えない日本では効果が得られなくなった場合や、副作用などで服用が難しくなった場合、ほかに頼れる薬がなかった。

新薬のうちレミニールは、アリセプトと基本的な作用の仕方は同じ。
神経細胞の伝達物質のひとつ、アセチルコリンを壊す酵素の阻害剤として働く。


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イライラ減る傾向
国内で約580人を対象に実施した臨床試験(治験)では、記憶力や会話能力などの認知機能がプラセボ(偽薬)の人より有意に進行を遅らせていた。
認知機能を評価する数値をみると、飲み始めてから半年後で、プラセボ(191人)に比べて1日16ミリグラム飲んだ人(191人)は、約1.5ポイント高く、同24ミリグラム(192人)は約2.6ポイント高かった。
もの忘れだけでなく、イライラ感や焦燥感なども減る傾向がみられた。
治験を担当した順天堂大学の新井平伊教授は「生活する上でも飲んだ方が落ち着いていた」と語る。

日常生活はできる「軽度」と料理などが難しくなる「中等度」の患者が適応対象。
神経細胞の膜にあるニコチンの受容体にも作用し、アセチルコリンの働きをさらに強める効果もあることがわかっている。
有効性をアリセプトと比較した国内の臨床試験はないが、完全に作用が同じというわけではないので、アリセプトが使いにくい患者にも「効果が期待できるかもしれない」(新井教授)。

服用し始めてから約1週間は、胸やけや嘔吐(おうと)などの副作用が出やすいが、慣れてくると減ってくる。

一方、メマリーは作用の仕方が違う。アセチルコリンとは別の神経伝達物質であるグルタミン酸神経細胞から過剰に出て、神経細胞が死滅するのを防ぐ。
主な副作用はめまいなどで、下痢などの消化器系は少ない。
1日の容量を20ミリグラムに達するまで1週間ごとに5ミリグラムずつ増やしながら服用することで、副作用を軽減できるという。


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国内で約400人を対象に実施した治験では、中等度と重度な患者の認知機能などの進行がプラセボの人に比べて有意に遅くなった。

メマリーは単独でも使えるが、作用の仕方の違いなどからアリセプトやレミニールとの併用が認められる。
日本医科大学武蔵小杉病院の北村伸教授は「アリセプトは従来通り使い続けたまま、メマリーを併用する人も多くなるだろう」とみる。

2種類の新薬は認知症の専門医ではなく、かかりつけ医から処方してもらうケースも多いと予想される。新井教授は「認知症の診断は難しい。最初の診断は専門医にきちんと診てもらい、その後、通院しやすいかかりつけ医に相談しながら治療をしていくとよい」と助言する。
(西村絵)

出典 日経新聞・夕刊 2011.2.18
版権 日経新聞



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