腎臓が突然ダメになる

全国の“腎臓病予備軍”は2000万人にのぼり、そういった方は自覚症状がないまま症状が悪化して人工透析へ至る危険があります。
昨夜のNHK総合テレビためしてガッテン」の番組からです。

腎臓が突然ダメになる 急増!沈黙の新現代病

今回のテーマは「腎臓」。
腎臓は、肝臓などと同じく“沈黙の臓器”と呼ばれるほど自覚症状が出にくい臓器。
機能が低下していることに気づいた時には透析療法を始めなくては…ということも多いのです。
また、腎臓病の原因は様々あり、最近では糖尿病など現代人を悩ます生活習慣病の合併症として発症することも多くなっています。
そのため、統計を取り始めてから、40年間、透析患者は一貫して増加傾向にあり、現在では全国で約30万人の人たちが透析療法を受けているのです。
この増加をなんとか食い止める方法はないものかと番組が徹底調査!
すると新たに透析を受け始める人たちの数を減らした街を発見!
また、腎臓を傷める意外な原因も判明!


番組ディレクターからのひとこと
できれば避けたい人工透析
今回の取材でお邪魔した透析クリニックでは、150台ほどのベッドがずらりと並ぶ病室で、患者さんたちが透析を受けていました。
今まで見たことのない光景に、これほど多くの人たちが腎臓病に悩まされていることを改めて思い知らされました。

そして、透析を受けることになった患者さんが決まって口にするのが「こうなるまで気づけなかったことの悔しさ」です。
やはり週に3日、1回4時間の透析は負担です。
できれば透析にならずに健康な腎臓で過ごしたいと考えさせられました。

腎臓の驚くべき能力
毒素や老廃物を的確にろ過!
腎臓機能の代表と言えば、老廃物などをろ過しておしっこを作ること。
これができなくなると、体内に毒素が充満。数日のうちに命を落とすことになります。

では、腎臓機能が低下し、上手くろ過できなくなった場合はどうするのでしょうか?
血液をいったん体の外に出し「人工腎臓」と呼ばれる機器でろ過をする人工透析が必要になります。
人工腎臓の中には、細い管が約1万本入っています。
その管1本1本の壁にはミクロの穴が無数に開いていて、分子の大きさで、老廃物と体に必要な糖やたんぱく質などを選り分けることができるのです。

腎臓でこのろ過を担当するのは「糸球体」と言う毛細血管の塊です。
糸球体は片方の腎臓に約100万個、両方で約200万個あると言われています。

人工透析には機器で血液をろ過する「血液透析」と、自分の腹膜を利用する「腹膜透析」があります。
※また、透析以外に「腎臓移植」という選択肢もあります。


腎臓の状態を調べる検査と言えば…
人工透析にならないためには、検査で腎臓の状態を知る必要があります。

どんな検査があるかと言うと…
一つには、糸球体のろ過機能に異常があるかどうかを調べる「尿検査」。
これは、主に尿にたんぱくが混じっているかどうかを見る検査です。

なぜ尿にたんぱくが混じっていると異常を発見できるのでしょうか?
糸球体の仕事は、体に必要ない毒素や老廃物をろ過すること。
正常な腎臓では体にとって必要なたんぱく質などが漏れでることはほとんどないのです。

ところが!
悪い食生活などが続くと、血液中に「糖」や「脂肪」が増加。
すると、ろ過する穴を無理矢理通り抜けて穴を広げてしまいます。
広がった穴からは体に必要なたんぱく質なども漏れ出すのです。
そのため、尿にたんぱくが混じっているかどうかを調べることが有効になるのです。


たんぱく尿検査の落とし穴
腎臓の糸球体が壊れているかどうかを調べるのに有効なたんぱく尿検査ですが、実は落とし穴があるんです。
と言うのも、糸球体でろ過をしている穴が糖や脂肪によって大きくなりすぎると、今度は血小板が集まってきて血管自体を塞いで通行止めにすることがあるんです。
こうなると、たんぱく質は漏れでなくなることがあります。
つまり、糸球体の働きが失われているのに尿検査では見つけることができないことがあるのです。

※糸球体が通行止めになるメカニズムとしては、血小板の作用による「血液凝固」以外にも、「動脈硬化」や糸球体炎による「炎症」の場合もあります。


腎臓機能がどれくらい残っているか%でわかる検査
尿を調べても腎臓機能低下の程度がわからないのだとしたら、どうすれば良いのでしょうか?
実は、腎臓のろ過機能がどれくらい残っているかがパーセンテージでわかるすごい検査があるんです。

その検査とは「クレアチニン検査」です。

クレアチニンとは、筋肉中のたんぱく質代謝された時に発生する老廃物です。
腎臓機能が正常な時は、ろ過によって、ほぼすべて体外に捨てられています。
ところが、糸球体の通行止めが増えれば増えるほど、体内に残る量が増えます。

つまり、壊れたことで排せつされてしまうものではなく、壊れ具合で体内に残ってしまうものを調べることで機能低下の程度を知ることができるんです。

このクレアチニンの値から、自分の腎臓機能が何%残っているか一発でわかる早見表が日本腎臓学会から発表されています。

http://www9.nhk.or.jp/gatten/archives/P20110914.html
(早見表については、このサイトの「腎臓機能がどれくらい残っているか%でわかる検査」の項目を参照下さい。)
<私的コメント>
この日本腎臓学会の早見表にも欠点があります。
クレアチニン(体内の老廃物で、腎臓のろ過機能を示す指標)の値から推定腎糸球体濾過率(eGFR)を「早見」するわけですが、結局は性別と年齢とクレアチニン値から計算したものなのです。
この中のクレアチニン値は筋肉量、すなわち体格によって異なるという欠点を持っています。
したがってやせて小さい男性と太って大きい女性の場合には当てはまらないことになっています。
あくまでも男性の方が体格がいい、という大らかな早見表なのです。
クレアチニンの欠点を補うべくシスタチンCという検査法が今後採用されるという噂もあります。


尼崎市オリジナル!チャート表
兵庫県尼崎市では、クレアチニン検査を実施し、ろ過能力の値も示すことで、市民の意識改革に成功。
自ら生活改善に取り組む人が増えたことで、新規の透析患者数を3年連続で減らすことに成功したんです。

さらに、尼崎市が新規の透析患者を減らすことに成功したのには、もうひとつ秘密がありました。

その秘密とは、健康診断の結果表を単なる数値の羅列ではなく「チャート表」にしたこと。

このチャート表には、健康診断の結果がすべて反映されているのはもちろん、血管を傷める原因ごとに4段階に分けて表示し、各項目を矢印で結んでいます。
さらに、リスクが高い項目は色つきで示すことで、矢印を逆にたどれば、自分の病気の原因が分かるようになっているのです。
そのため、何から取り組んでよいのかがひと目で分かる優れものなんです。

※この尼崎市のチャート表は、すべての疾患に対応したものなので、番組では、腎臓病に特化したオリジナルチャート表を作成しました。

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腎不全の意外なリスク!
東京都内に住むAさん。
特に病気もしたことがないこともあり、とにかく体力には自信がありました。
ところが、今年4月の早朝、突然の“めまい”に襲われ救急車で運ばれると、腎機能が急激に低下していることが判明。
人工透析を余儀なくされました。

実は、Aさん、40歳頃に唯一患った病気がありました。
その病気が腎臓機能を低下させる一因となったのです。

その病気とは、なんと「痛風」だったんです。

実は、痛風発作がなくても尿酸が血中に7.0mg/dlを超えている人は「高尿酸血症」という病気なのです。
症状が出ないことも多く、ほうっておく人も多いのです。
しかし、最近の研究で、痛風の原因となる“尿酸”それ自体が、血管に影響し動脈硬化などを引き起こす、つまり、腎臓のろ過機能を低下させることがわかってきたんです。

男性の場合、尿酸値が7.0mg/dl以上の人は7未満の人に比べリスク4倍。女性では、6.0mg/dl以上の人は6未満の人に比べリスク9倍以上というデータもあります。

つまり、痛みがなければ良いのではなく、尿酸値が高い人は腎臓病のリスクが高いので、注意が必要なのです。

出典 NHK総合テレビためしてガッテン」2011.9.14(一部改変)
版権 日本放送協会

<私的コメント>
腎臓病が原因で脳卒中や心臓病になる理由の1つとして、「レニン」があげられます。腎臓の仕事は、実はろ過だけではなく、「レニン」を生み出しています(正式には「レニン・アンジオテンシン・アルドステロン・システム」という一連の生体システム)。
腎臓のろ過効率が落ちると、腎臓からレニンが分泌されます。
そして、レニンは全身に移動し、全身の血管を締め付け、血液の流れを早くすることで腎臓に多くの血流を流し込みます。
そのおかげで、腎臓はそれまでと変わらないろ過レベルを維持できるのです。
しかし、血管を締め付けることで高血圧を引き起こし、高血圧になることで、腎臓のフィルターが少しずつ壊れてしまいます。
これが、自覚症状がないうちに進行することが腎臓病の恐ろしいところなのです。


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