糖尿病の薬(1)空腹時に低血糖リスク

「先生から検査数値を褒められると、もっと良くしたいと頑張れます」

糖尿病を患う岡山市の元会社役員、鈴木幸一さん(75)は、そう声を弾ませる。
8月に受けた検査結果が良好で、過去1~2か月の平均的な血糖値を反映するヘモグロビンA1c(HbA1c)は5・8%。
基準値4・3~5・8%の範囲内に収まったのだ。

鈴木さんは40代の頃、健診で血糖値が高いと指摘された。
当初は食後血糖値だけだったが、50歳が近づくと空腹時血糖値も高くなった。
だが、鈴木さんは「目立った症状はなく大好きなお酒もやめられませんでした」と振り返る。

60歳を過ぎ、同僚が次々と病に倒れた。
「定年の65歳になった時、健康でいたい」という思いが強くなり、川崎医大病院(岡山県倉敷市)副院長で糖尿病・代謝・内分泌内科教授の加来(かく)浩平さんの診察を受けた。

糖尿病の治療は食事療法と運動療法が基本だが、それで十分血糖値を下げられなければ薬物療法を行う。

代表的な治療薬は「スルホニル尿素(SU)薬」。
膵臓から出て血糖値を下げるホルモン「インスリン」の分泌を促す働きがある。
血糖値を下げる効き目が強く、広く使われている。
だが、24時間持続して作用するため、空腹時に低血糖を起こす危険もある。低血糖になると冷や汗や震え、意識障害などを引き起こす。

加来さんは「HbA1cが7%程度だとSU薬によって低血糖を起こしやすい」と指摘する。

鈴木さんも当時、HbA1cが7%程度だった。そこで、SU薬は使わず、食後にインスリン分泌を促す「速効型インスリン分泌促進薬」や血糖値の上昇を緩やかにする「α―グルコシダーゼ阻害薬」などを服用した。

糖尿病の治療では、食後と空腹時の血糖値の差を少なくすることも肝心だ。
その差が大きいと血管を傷つけ動脈硬化の進行を早めてしまうからだ。
<私的コメント> 専門的には食後高血糖(「グルコーススパイク」ともいいます)が「糖毒性」といって動脈硬化を進行させるといわれています。

動脈硬化心筋梗塞脳梗塞の原因の一つだ。
加来さんは「健康な人は1日の血糖値の差が30~50(単位はミリ・グラム/デシ・リットル)程度。それに少しでも近づけるよう治療することが重要です」と強調する。

当初、この差が150程度もあった鈴木さんだが、今は70程度になった。
<私的コメント> 「速効型インスリン分泌促進薬」も「α―グルコシダーゼ阻害薬」も食後高血糖を是正する作用があります。

鈴木さんは日常生活にも気を使う。朝と夜の食事は軽めにし、昼は野菜や魚を中心にしっかり食べる。

「片足立ち」の運動もし、「筋肉がついたのかゴルフ大会の成績が良くなりました」。
以前70キロあった体重は62キロに減った。

糖尿病治療薬は症状に合わせ適切に使うことが大切だ。
治療薬の今を紹介する。

出典 読売新聞 2011.10.3
版権 読売新聞社


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