不育症、あきらめずに

繰り返される流産・死産に治療指針

流産や死産が2回以上続くことを、「不育症」という。
妊娠したことのある女性の4%が経験し、数十万人が苦しんでいるとのデータがある。
原因などはっきりしないことが多かったが、厚生労働省の研究班が初めて、治療指針をまとめた。
適切な治療を受ければ、80%以上が赤ちゃんを抱けるという。
心のケアで、出産成功率が高くなることもわかってきた。


●治療で高まる出産率
神奈川県に住む女性(38)は最近、3回目の流産を経験した。
「1、2回目もショックだったけど、3回目はさすがに尋常じゃないと落ち込みました」

医師に検査を勧められ、インターネットで検索する日々が始まった。
あふれんばかりの情報を前に、何が正しく、何が正しくないのかがわからず、不安ばかりが膨らんでいったという。

流産は全妊娠の15%程度に起こるが、2回、3回と繰り返される場合、夫婦のどちらかに原因が存在する可能性がある。

厚労省研究班は527人の患者を対象に、どんな原因が考えられるのか調べた=

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その結果、血液が固まりやすい(抗リン脂質抗体陽性など)、子宮の形に異常がある、甲状腺機能に異常がある、夫婦の染色体に異常がある――などの割合が明らかになった。


血液が固まりやすいと胎盤血栓ができやすく、赤ちゃんに栄養がいかなくなる。
研究班がまとめた治療指針では血栓を防ぐアスピリンの服用やヘパリンの注射を選択肢として示した。

子宮の形に異常がある場合、手術の効果は明らかでなく、第一選択肢としては勧めていない。
バセドウ病など甲状腺の病気がある場合は、こちらの治療を優先する必要がある。

染色体異常が見つかった場合は、十分な遺伝カウンセリングを行うよう求めた。
染色体の一部が入れ替わる均衡型転座の場合、体外受精をして、異常のない受精卵を選ぶ治療を受けなくても、最終的には60~80%が出産できるという。

しかし、原因が見つかるのは3人に1人で、残りは「原因不明」だ。
流産の8割は胎児の染色体異常が原因のため、偶然、流産が重なった可能性がある。

厚労省研究班の主任研究者を務めた斎藤滋・富山大教授は「自分は不育症だとあきらめ、治療を受けない人も多い。出産できる可能性は高く、ぜひ専門医に相談して欲しい」と話す。


●カウンセリング有効
心のケアが有効なこともわかってきた。
厚労省研究班が、原因不明で流産・死産を2回繰り返した73人を調べると、カウンセリングを受けた人は81%が出産したが、受けなかった人は53%にとどまっていた。

治療指針には「カウンセリングを行った方がストレスが改善し、妊娠成功率が高い」と記された。

不育症患者が抱く心の不安を取り除くためのケアは「Tender Loving Care」と呼ばれる。
カウンセリングだけでなく、詳しい検査を受けて原因を明らかにする、妊娠初期からこまめに産科を受診する――なども含まれる。

岡山大病院(岡山市)は県の事業で「不妊・不育とこころの相談室」を開設している。
産婦人科医や助産師らが1時間、無料で相談に乗っており、昨年度は延べ約450人が訪れた。

同大学病院が不育症外来を訪れた患者を調べたところ、8%に不安障害、6%にうつ病の傾向があった。
妊娠がわかった時のうれしさも、初めての時は100点中80点だったのが、流産を2回経験した後は54点に下がっていたという。


★筆者から(東京本社科学医療部記者 岡崎明子)
記事を読んで、「不育症」という言葉を初めて聞いた方も多いかもしれません。
しかし、妊娠したことのある女性の約40%が流産を経験したことがあり、約4%は2回連続で経験した「不育症」です。
数十万人の女性とそのパートナーが悩んでいる現実があります。

厚生労働省研究班がまとめた治療指針や、不育症の専門医についての情報は、ウェブサイトから見ることができます。

不育症の6割以上は原因不明のため、産婦人科医にとっては「治療しにくい」と敬遠されやすいのが実情です。
また、一部検査も公的医療保険が適用されません。

こうした状況の中、根拠のある治療法が示され、その情報に患者側からもアクセスできるようになったのは、不育症に苦しむ人たちにとって大きな一歩です。

出産成功率を上げるとされる Tender Loving Care は、専門家によるカウンセリングを受けなくても、医療者から正しい情報を得る、不育症学級に夫婦で参加するなど、様々な形で実践できます。
「不育症友の会」など、当事者が集まったグループもいくつかあります。

今回の記事が、治療を受けないまま出産をあきらめてしまった人たちに、届いて欲しいと思っています。

<参考>
不育症研究 -不育症治療に関する再評価と新たなる治療法の開発に関する研究-
http://fuiku.jp/
不育症友の会「ハートビートくらぶ」
http://www.heartbeatclub.jp/index.html

<私的コメント>
個人的な話で恐縮ですが、私達夫婦も不妊症と不育症に随分悩みました。
実はもう一つつらい思いも経験しましたが、ここでは触れません。
したがって、今回紹介した記事は痛いほどよく分かります。


出典 朝日新聞・朝刊 2012.2.14
版権 朝日新聞社


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