不明熱

不明熱 総合診療科で原因究明

東京都の男性(62)は2011年秋、長引く熱に悩まされた。
39度の高熱が出て、37度台に下がったかと思ったら、3、4日すると38度台に上がる。
かかりつけ医で抗菌薬をもらって飲んでも下がらない。
この繰り返しが3週間も続いた。

熱が出てしばらくすると腰も痛み出した。
元々、腰痛になることがあるので、気にとめなかったが、どんどん激しくなった。
「原因がわからない。大学病院で一度詳しく調べてください」と、順天堂大病院(東京都文京区)総合診療科を紹介された。

「どんなことでも思い出せる限り話してください」。
同科のS先生は、症状の経過や飲んでいる薬、病歴、仕事の内容、動物との接触や旅行歴、最近したことなどを細々と尋ね始めた。
続いて、血液検査と背骨の画像撮影を受けることになった。

熱が下がらず、診断もなかなかつかない。こういう状態を「不明熱」という。
「38度以上の熱が3週間以上続く」など、いくつかの定義がある。

体の抵抗力が落ち、ありふれたウイルス感染が治らない場合もあれば、エイズ結核が原因のこともある。
リウマチやがんで典型的な症状が出ず、熱だけが続くこともある。
精神的ストレスが原因のこともある。

診察では、患者の話を基に、体の痛みやリンパ節の腫れ、皮膚の発疹など全身をくまなく診て、原因を絞り込む。

この男性は画像診断で、腰の背骨に小さな白い影が見つかった。
細菌感染後に、背骨の内側に細菌がとどまってウミがたまり、発熱の原因になった可能性があった。
細菌が全身に広がると、敗血症を起こして命にも関わる。

同科准教授のN先生は「腰痛を訴えるこの男性のようなケースは、整形外科と内科の狭間で見逃されやすい」と説明する。

男性は入院して、培養した菌に合った抗菌薬の点滴を1日4回、6週間受けた。
体の奥に巣くった細菌を殺すには、漫然と抗菌薬を飲むのではなく、点滴注射による強力な治療が必要だ。

おかげで熱は下がり、「退院後はすぐに仕事にも復帰でき、ほぼ完璧に戻りました」と男性は話す。

不明熱の原因は200以上もある。
N先生は、患者の自宅周辺の環境調査や、世界中の論文から類似例を探すこともある。
「診断がつけば治ることも多い。知恵を絞って解決策を探ります」と話す。

出典 読売新聞 2012.3.15
版権 読売新聞社