やせ形・高身長はご用心 気胸

やせ形・高身長はご用心 気胸、肺に穴あき息苦しく 再発しにくい手術、注目


 肺に穴が開いて胸の中に空気が漏れだし、息苦しさを感じる「自然気胸」は20代前後の背の高いやせ形の男性に多く起きる。ブラと呼ばれる風船のような病変が破裂するのが原因で、年間1万人以上が手術を受けている。再発しやすいとされてきたが、ブラを切除した肺の表面に網を張る「カバーリング法」などの登場で再発率が低く抑えられるようになってきた。

 東京都の20代の男性は2007年、背中や肩の痛みで整形外科を受診した。原因がわからず様子を見ていたところ、3日後、階段の途中で息切れして、動けなくなった。

 循環器内科でレントゲンを見た医者が気胸と診断。すぐに脇腹からチューブを刺し、たまった空気を抜いた。空気漏れが止まらず、5日後に手術したが、その後も2カ月間で2度にわたって再発した。

若い男性に多く


 自然気胸は15~25歳くらいまでに起こりやすく、成長過程で肺と体の発育バランスが崩れてブラが発生すると考えられている。ブラは高身長でやせ形の人にできやすい。男女比は9対1で男性に多い。

 発症すると、息苦しさに加え、胸や肩、背中などに痛みが生じる場合がある。昭和大病院(東京・品川)呼吸器外科の片岡大輔医師は「胸が苦しい時、高齢者は心臓を、若い男性は気胸をまず疑うべきだ」と指摘する。気胸かどうかはレントゲンを撮るとわかる。白く写るはずの肺が写っていなかったり、片側だけ小さかったりする。

 肺の縮み具合が鎖骨にかかるくらいの軽度の場合、逆流防止機能のある携帯用のチューブを肋骨の間から刺して漏れた空気を抜き、自宅療養で経過を観察する。穴が自然に閉じて空気漏れが収まれば、手術はしなくて済む。医者によってはチューブを刺さずに経過を診ることもある。

 手術をするのは、出血があったり両肺が同時に気胸になったりして漏れた空気が他の臓器を圧迫しているようなケース。破れたブラの周囲には他のブラが群生していることが多く、再発防止目的で手術することもある。空気を抜いた後、空気漏れが3~4日以上続くときも手術が必要だ。

ダイビングは危険


脇腹に3カ所穴を開けて胸腔鏡で手術する=昭和大学病院提供
 手術は全身麻酔で脇腹に穴を3カ所開け、胸腔(きょうくう)鏡でブラを切除してホチキスのような針で止めるのが一般的。術後の再発率は10%前後で、切除した周辺にブラが新しくできることが原因とみられる。再発の8割は半年以内に起きている。

 以前は再発を防ぐため、薬剤を使って肺の表面と、肺が収まっている外側の膜を癒着させることが多かった。だが将来、心臓や食道などの治療で開胸手術が必要になった場合、癒着をはがす必要があり、手術時間が長くなって出血が多くなるリスクがある。このため、最近では癒着をさせない手術が主流となっている。



 再発を防ぐ治療として注目を集めているのが、カバーリング術と呼ばれる方法だ。肺の表面を酸化セルロースやPGAシートと呼ばれる膜で覆う。膜が肺に吸収されることで、肺の膜を厚くして再発を防ぐ。

 日産厚生会玉川病院(東京・世田谷)気胸センター長の栗原正利医師は「肺の表面を分厚くすると同時に、ブラの見落としによる再発も防げる」と話す。ただ、メッシュの材質やカバーする肺表面の範囲は担当する医師によって異なるため、事前によく相談するように心がけたい。カバーリング術のほかに、肺の表面を低温で焼く焼却術で厚くする手法もある。

 日常生活ではストレスをためないことが大切だ。学生は入試や定期試験を控えた時期、社会人は夜勤が続いたり転勤で環境が変わったりして疲れがたまった時は気をつけたい。台風などの低気圧時も患者が増える傾向がある。

 気胸を経験した人はダイビングはできなくなる。潜っている間に再発すると、水面に浮上するまでに漏れた空気が膨張して致命的になってしまうためだ。

 高い山や飛行機もなるべく避けたい。もし飛行機内で気胸になった場合は軽く息をして座位を保つことを心がける。海外での手術は高額になることが多い。栗原医師は「海外で発症した場合、チューブで空気を抜いている状況で帰ってくるのがいいのではないか」と話している。

◇            ◇

■女性で胸が痛い場合は… 子宮内膜症の疑いも

 女性の気胸には別の病気が隠れていることもある。30代前後で胸の痛みや息苦しさを繰り返す場合、子宮内膜症が原因で起こる「月経随伴性気胸」を疑う必要がある。

 本来は子宮にある内膜が血液を介するなどして胸腔や横隔膜、肺で増殖し、内膜の組織が月経時に出血することで肺の一部が破れる。帝京大付属溝口病院(川崎市)の西井修医師(産婦人科)によると、症状は一般的な気胸と同じだが、右胸に起こりやすく、月経と似た周期で繰り返し発症するのが特徴だ。

 発症者は胸の痛みを理由に外科や内科を受診する場合が多い。問診などで月経随伴性気胸と判明したら、婦人科と連携して治療方法を検討する。西井医師は「診察を受ける時は、前もって痛みを感じた日付や周期を記録したり、女性によって差がある月経の周期を医師に伝えたりすると原因の早期特定につながる」と助言する。子宮内膜症の治療歴の有無なども伝えたほうがいいという。

 治療方法は胸腔鏡による手術とホルモン投与などによる投薬がある。手術は患部の子宮内膜を除去した上で破れた部分を縫い合わせるなどして、空気の漏れを止める。数日の入院が必要になる。投薬治療は黄体ホルモンなどで子宮内膜を小さくするが、不妊治療との併用はできない。

(平本信敬、森田淳嗣)

日本経済新聞夕刊2012年11月8日付]



イメージ 1