動脈硬化、原因は病原体?

動脈硬化、原因は病原体? 脂肪の排出機能落ち蓄積

東北大学の研究グループが先月、動脈硬化を促進する新しい病原体を見つけたと発表した。
まだ証拠は不十分だが、本当なら動脈硬化の予防や治療法を一変させることにもなりそうだ。
 
病原体は「ヘリコバクター・シネディ菌」。
感染すると血管細胞への脂肪の蓄積を増加させる。
動脈硬化は血管の内側にコレステロールなどの脂肪が蓄積することなどにより血液の流れが悪くなる病気だが、シネディ菌が病気の進展を促している疑いがあるという。
 
研究グループは動脈硬化になった人の病巣にシネディ菌がいることを以前に見つけていた。
今回は、動脈硬化症を起こしやすい実験動物のマウスに菌を感染させたところ、感染させなかったマウスに比べて、脂肪の蓄積が多く動脈硬化の進展が早まることを確認した。
 
培養したマクロファージを用いた別の実験で、菌が感染するとコレステロールを細胞内に取り込む働きが増し、排出機能が低下、コレステロールがたまりやすくなることを見つけた。
 
こうした実験だけでは動脈硬化の発症にどれだけシネディ菌が関与しているかは断言できない。
研究グループも「動脈硬化に細菌やウイルスが関与しているとの報告はこれまでもあったが、否定的にみられてきた」と話す。
ただ「この菌に関しては証拠が集まったので問題提起をした」ともいう。
 
この発表で連想するのが、胃の粘膜に感染するヘリコバクター・ピロリ菌だ。
感染が持続すると慢性の胃炎を起こし、胃潰瘍胃がんの原因にもなることがわかっており、予防のための除菌療法が近年普及している。
 
シネディとピロリは形状やゲノム(全遺伝情報)から同じ仲間の細菌と分類されている。
シネディは腸内で生息し血管内に入り込みやすい性質を持つ点がピロリとは異なる。  

動脈硬化は、日本人の死因の上位を占める心臓病や脳血管疾患(脳卒中)の原因となる。心臓病と脳卒中を合わせると年間の死亡数は約32万人(死亡数全体の約3割、2012年推計)に達し、トップのがん(約36万人)にほぼ並ぶ。
 
動脈硬化の予防は、禁煙や運動、食生活の見直しといった生活習慣の改善が基本だ。
仮に細菌が関与しているなら、動脈硬化の予防や治療に抗菌薬やワクチンなどが有望
になるかもしれない。
 
大勢の人を調べ病気の因果関係をあぶり出す疫学調査や、ゲノムの解読などで、このナゾを解明していく必要がある。
 
出典
日経新聞・朝刊 2014.5.11


<関連サイト>
マクロファージの炎症反応を介したヘリコバクター・シネディ(Helicobacter cinaedi)感染による動脈硬化の促進
http://www.natureasia.com/ja-jp/srep/abstracts/53848

動脈硬化症を促進する新しい病原体を発見 ~動脈硬化症関連疾患の新しい予防・治療法の開発に期待~
http://www.med.tohoku.ac.jp/uploads/140415_PressReleaseAkaike02.pdf

Helicobacter cinaediの感染源と抗菌薬投与期間
http://www.jmedj.co.jp/article/detail.php?article_id=17764

新興感染症菌 ヘリコバクター・シネディ(Helicobacter cinaedi)の血清診断法の確立と感染疫学の解析
http://kumadai-bisei.com/topics/2_3.html