塩分摂取 1日5グラムが世界基準

1日5グラムが世界基準、日本人まだ塩分取り過ぎ

人間は塩分摂取量をゼロに近づけるべきなのか
「塩分は控えめに」「塩分の摂りすぎは、高血圧、心臓病や脳卒中の原因」という注意は、常識になってきた。
しかし、具体的には1日どれくらい控えればいいのだろうか?
 
世界保健機関(WHO)は、世界中の人の食塩摂取目標を1日5グラムとしているが、米国では心血管疾患の予防のためのガイドラインは、塩分の最大摂取量が1日3.8~6.0グラムとなっている。
 
とかく塩分摂取量が多いとされる日本の場合、厚生労働省が2014年3月に発表した「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」の報告書によれば、18歳以上の男性は1日当たり8.0グラム未満、18歳以上の女性は1日当たり7.0グラム未満という目標量が定められている。
さらに、日本高血圧学会減塩委員会は、高血圧予防のために、1日6グラム未満という制限を勧めている。
 
ちなみに、2012年時点での日本の成人1日あたりの食塩平均摂取量は、男性で11.3グラム、女性で9.6グラムと発表されている。
いずれのガイドラインにも食塩の摂取量の下限は示されていないが、私たちは、塩分摂取量をゼロに近づけるべきなのだろうか?
 
実は、この疑問に対する答えは、科学者や専門家の間でも、意見が分かれている。
 
医学界の最高の雑誌と評価される「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(The New England Journal of Medicine:NEJM)」の2014年8月号に、塩分摂取量に関する論文が3本も同時に報告された。

「食塩」が槍玉にあげられていますが、高血圧等の真犯人は、その主な構成要素である「ナトリウム」という物質だ。
食塩は、「塩化ナトリウム(NaCl)」とほぼ同じもので、食塩量=ナトリウム量ではなく、食塩の約40%がナトリウム量に相当する。

つまりナトリウム量(ミリグラム)× 2.54÷1000=食塩相当量(グラム)。

ナトリウムの排泄量が多く、カリウムの排出量が少ないと高血圧に
PURE(Prospective Urban and Rural Epidemiological Study)研究では、研究者らは18カ国から10万人以上の35歳から70歳までの成人を対象に調査を実施された。

調査対象者たちの空腹時の早朝尿の単一検体を用いて、24時間のナトリウムとカリウムの排泄量を推定し、ナトリウムとカリウムの摂取量の指標とした。
予想通り、血圧はナトリウム推定摂取量の増加に伴い上昇した。
また、血圧の上昇は高血圧や高齢者の人に顕著に表れた。
カリウムの排泄量は、収縮期血圧最高血圧)に、負の関係が認められました。
つまりカリウム推定摂取量が多いと、最高血圧が低くなる。

ナトリウムのベスト摂取量は?
NEJM論文2つ目では、17カ国、10万人以上の対象者から、空腹時の早朝尿の検体を用いて、ナトリウムとカリウムの排泄量を測定し、ナトリウムとカリウム摂取量を推定した。
平均3.7年間の追跡調査を行い、死亡や心血管イベント(心筋梗塞狭心症など)を調査している。

調査の結果、ナトリウム排泄量が1日7グラム(食塩17.8グラム)以上の人は、死亡または主要な心血管イベントのリスクが15%増加したことが分かった。
またこれらのリスクが最も高いのは、高血圧の人だった。

注目すべきは、ナトリウム排泄量が1日3グラム(食塩7.6グラム)未満の人でも、死亡または主要な心血管イベントのリスクが27%増加したことだ。
つまり、ナトリウム摂取量が1日3~6グラム(食塩7.6~15.2グラム)の人は、 摂取量がそれより多い人もしくはそれ未満の人よりも、死亡や心血管イベントのリスクがより低いことが示されたのだ。

また、カリウム排泄量が多い人は、死亡や、心筋梗塞脳卒中などの心血管イベントのリスクがより低くなった。

食塩5.0グラム以上摂取で心血管死亡に影響
NEJM論文3つ目のNUTRICODE(Global Burden of Diseases Nutrition and Chronic Diseases Expert)研究は、これまでに報告されているデータを組み合わせて解析したものだ。

解析の結果、2010年の世界中の人類のナトリウム摂取量は、1日平均3.95グラム(食塩10.0グラム)だった。

その後、研究者らはナトリウムの血圧に対する影響を計算。
結果、2010年に発生した、世界165万人の心血管死亡は、1日2グラム(食塩5.0グラム)以上のナトリウム摂取に起因することが判明した。

減塩のリスクと利益にはまだ研究が必要
つまり、PURE研究の結果では食塩7.6~15.2グラム、NUTRICODE研究の結果では食塩5.0グラム以下の摂取が推奨されているということになる。

PURE研究の結果は、米国で推奨される食塩摂取量を上回っており、減塩を推進する米心臓協会は、PURE研究の結果に対して、「このタイプの研究は、データの収集や解析法に結果が大きく依存するので、結果の解釈が難しい」と反対の姿勢を示している。

さらに、NEJMの編集者は、減塩のリスクと利益について、最終的な結論には、さらなる研究の必要性があるとしている。

一方、PURE研究の研究者らは、「塩分の摂り過ぎも、控え過ぎもどちらも問題。また、ナトリウムばかり気にして、カリウムの摂取の重要性が無視されている」と指摘している(McMaster University「Salt consumption has a sweet spot: Too little and too much are both harmful, researchers find」より)。

加工食品やファーストフードなど外食に頼りすぎるのはNG
さて、私たちはこの研究の成果から何を学べるのだろうか?

まず、どちらの研究も、高血圧の人と高齢者に減塩を推奨している。
2006年の厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、40~74歳の日本人のうち、男性の約6割、女性の約4割が高血圧といわれている。
また、高齢化社会である日本では4人に1人は高齢者だ。
したがって、公衆衛生の向上のために、塩分を1日6グラム未満に控えるべきというガイドラインは適当だと思われる。

ただし一番の問題は、私たち個人が日常的にどのくらいの塩分を摂取しているか把握していないため、ガイドラインが活用されていないことだ。
米国人の食事中の食塩の75%以上が、レストラン、加工食品やファーストフードなどに由来している。
日本人における食生活の問題も同様だ。

まず、新鮮でバランスのよい食品を選び、自分で調理することが、減塩の一番の方法だ。
新鮮な食品には、ナトリウムの含有量は低く、調理するときに、食塩の摂取量が確認できる。
しかも、新鮮な野菜や果物にはカリウムが豊富に含まれていて、余分な塩分が排出される。

摂取する食塩の量をきちんと把握するために、できるだけ自分または家庭で調理することと、新鮮な野菜を通じてカリウムの摂取に努めることが、結果的に「塩分を控えめ」にすることにつながると言えるす。




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                        2016.9.13 撮影